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レイナルド殿下とのお茶会が終わるとあっという間に学園の入学式の日がやってきた。真新しい制服に袖を通す。
この国の学園には制服が存在する。学園生活を過ごしやすいものにする目的で作られたらしい。ちなみに平民と貴族では少しデザインが違っている。
平民用の制服がシンプルなものであるのに対し、貴族用は平たく言えばヒラヒラしている。刺繍等の意匠はもちろんだが、襟や裾にフリルやレースがあしらわれていたりする。そういったところで個性をアピールできるようになっているのだ。
例えば私の制服のスカートの裾には金糸で薔薇のモチーフを刺繍しているし、お兄様は上着の肩口に銀糸で家紋をモチーフにした刺繍を入れていた気がする。
「ルーチェちゃん、今日から学校に入学ね。何か困ったことがあったらすぐお兄様に言うのよ。」
家族4人そろっての朝食の席でお母様が言った。
「お母様、任せてください。学園でルーチェに不自由がないよう僕がしっかりサポートします。」
「ルーチェ、学園入学おめでとう。もうそんなに大きくなってたんだな。この2年というものほとんど領地から出てこないから、お父様は寂しかった。これからは一緒に暮らせると思うと嬉しいよ。」
お父様はなぜかハンカチで目元を押さえている。
「ごめんなさい、お父様。お勉強がおもしろくてつい夢中になってしまっていたの。」
お父様のことは特に気にしてなさそうにお母様が話題を変えた。
「ルーチェちゃんはすごいわ。ひとりでお勉強頑張ったのね。新入生代表なんてお母様もお父様も鼻が高いわ。挨拶頑張ってね。」
「ありがとうございます、お母様。新入生代表なんて大役、緊張しますが頑張ってきます。」
そうなのだ。人生2回目なんだから当たり前なのかもしれないが、私は学園の入学試験で首席となり新入生代表の挨拶をすることになったのだ。言うまでもないがお兄様の代での新入生代表はレイナルド殿下だ。お兄様は次席だったらしい。先日のお茶会の時にレイナルド殿下から何か心得などがあれば聞こうと思っていたのだが、すっかり聞きそびれてしまった。あの時は完全にそれどころではなかった。
だからレイナルド殿下から直接新入生代表を務めたという話は聞いていない。レイナルド殿下は手紙では学園の話を全くしなかったから。レイナルド殿下が新入生代表でお兄様が次席だったという話を聞いたのもアドレアン様からだ。諦めて腹をくくるしかないと、私は一つ深呼吸をした。
楽しい朝食の席を終えて、私はお兄様にエスコートされて学園に向かう馬車に乗り込んだ。
今日から何年も通うことになる学園だが行くのはまだ2回目だ。1回目は入学試験の時。入学試験と言っても成績で選考されるのは平民の場合だけだ。貴族は学園に通うことが義務付けられているので、クラス分け等参考程度の意味しか持たない。
そもそも貴族の子弟は幼いころから家庭教師について学ぶのが一般的なので、学園の1年目の最初の頃はどの程度の知識を持っているのかの確認のために費やされると言っても過言ではない。それが終わると一般の授業になる。貴族、平民問わず一定以上の知識が認められればより専門的な授業を選択することが可能になる。一定の知識レベルまでは基礎授業が行われるので、選択授業をとるのは主に上級生になる。私は基礎授業の程度はとっくに学習し終えているので、選択授業を受けようと思っている。
学園の選択授業には、王宮の勉強会ほどではないにしろその道の専門家が来て講義をしてくれる。学びたいことはたくさんあるのだ。
馬車の中でまだ見ぬ学園生活に想いを馳せていると、お兄様が話しかけてきた。
「ルーチェは今日から学園に通うことになるけど・・・何か楽しみにしてることとかある?」
一瞬アドレアン様の顔が脳裏に浮かんだ。アドレアン様とはここ2年ほど会っていない。手紙でのやりとりはしていたけど、その頻度もだいぶ落ち着いていた。
(レイナルド殿下はだいぶ大人っぽくなっていたけれど、アドレアン様も変わったのかしら?)
お兄様が返事を待つようにこっちを見ている。頭の中からアドレアン様を追い出してお兄様に答えた。
「選択授業を受けてみたいと思っていますわ。それに、今まで蔑ろにしていた分社交もしていかないといけないと思っています。」
少し億劫に思っていたのがお兄様に伝わってしまったらしい。うつむいたお兄様の肩が揺れている。
「仕方ないのです。2年前までのお茶会では庭園散策に精を出していましたし、2年前からは領地に引きこもってしまっていて社交に慣れていないんですもの。」
「くくく・・・。そうだね・・・。ルーチェは今までお茶会とかで友達を作って来なかったから、この機にいいお友達ができるといいね。
他には何か・・・心配なこととかはない?」
「心配と言えば、やっぱりお友達ができるかとかですが、それ以外で言えば新入生代表挨拶ですね。」
「レイナルド殿下は何か言っていなかったの?」
「レイナルド殿下とはそこまでお話していません。それ以外のことでいっぱいで聞きそびれてしまって。」
「そうか・・・。僕はやったことがないからわからないけれど、壇上には在校生代表としてレイナルド殿下もいるし、あまり気負わずにやるのが一番だと思うよ。」
「レイナルド殿下が・・・。そう思うとちょっと気が楽になります。とにかくやってみますわ。」
「あとは、いい友達ができるといいね。」
「そう願いますわ。」
そんなことを話しているうちに馬車は学園の敷地に着いた。お兄様に案内してもらって入学式の会場である講堂へ向かう。講堂に着いたら在校生であるお兄様とは別行動だ。お兄様の後ろで私は、こっそり大きく息を吸い込んで気合を入れなおした。




