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 領地での生活は私の張りつめた心を癒してくれた。自分で思っていた以上に心に負荷がかかっていたようだ。

 1人でのびのびと読書を楽しむ。こんな時間はしばらくぶりじゃないだろうか。王都にいる時にも読書はしていた。でもこんな清々しい気持ちではなかった。環境って大事なんだなと改めて思った。この環境で改めて自分を見つめなおそうと思う。



 手始めに、私はアドレアン様に手紙を書くのをやめてみた。長年の習慣というものは恐ろしいもので、そうスパっとやめることはできなかった。だから手紙を書く頻度を減らしてみることにした。

 急に連絡が途絶えたらアドレアン様が心配するかも、とかは考えないことにした。アドレアン様も学園に入って忙しくなったろうし、いい機会だ。

 アドレアン様へ手紙を書く頻度を減らしたら、アドレアン様から学園生活について話を聞くことが減ったからなのか、ただ単純に3人や学園のことを考える頻度が減ったからなのか、ずいぶんと心がすっきりしてきた。



 レイナルド殿下との手紙のやりとりは変わらず続いている。私が領地に戻っているから頻度は10日に1回程度だ。

 レイナルド殿下は学園の話を全く手紙に書いてこないし、話題と言えばお互いの趣味とかレイナルド殿下の王宮での日常や私の領地での生活のことばかりなので、それは全く負担にならない。むしろ学園の存在なんて忘れるくらいだ。

 レイナルド殿下の手紙は、3人との年齢や立場の差を嫌でも意識して孤独になりそうな私の心を救ってくれていた。会わなくても、学園に通っていなくても、立場の違いを超えて繋がっていることを感じさせてくれた。レイナルド殿下には感謝しかない。



 領地で過ごす日々が進むにつれ、私の心は自由になっていった。





 今日は家庭教師から語学を習っている。私の語学の知識は順調にのびていって、今では近隣諸国の言葉なら困らないほどになっていた。だから家庭教師を増やしてもらうことにした。少し遠方の国の言葉も勉強してみようと思う。それに伴い、その国々の歴史や文化についても勉強することにした。今まで知っていた国の歴史や文化も、通り一遍の知識ではなくその国の研究家が学ぶような深い知識を得ていくことにした。

 ここにきてこの人生で初めて自分のために時間を使うようになった気がする。今まではただ漫然と過ごしていただけだったが、自分のために知識を深めていく楽しさをおぼえ、目から鱗が落ちた気分だ。

 知識があれば3人との差を気に病むこともなくなるかもしれない。今までは3人と過ごす時間が私の人生のほとんどすべてを占めていたが、これからは1人でも生きていけるようになるかもしれない。それを考えると楽しみだった。

 それに知識を得ることは楽しい。このまま学び続けていけばこの国の国民として、またレイナルド殿下の友人の一人として、臣下としてこの国を支えていけるようになるかもしれない。目の前が開けてきた気がした。



 それから私は勉学に精を出した。苦手だったダンスもなんとか形になるようになってきたし、暇を見つけては知識を頭に詰め込んでいった。レイナルド殿下やアドレアン様との手紙のやり取りは続けていたが、それ以外の時間はだいたいいつも勉強していた。

 そのうちにアドレアン様との手紙のやりとりも気にならないようになってきた。3人と自分の違いというものを素直に受け入れられるようになってきていた。



 私は社交シーズンも王都に帰ることをやめた。お茶会での社交を今までほとんどやってきていないので、ちゃんと社交に励まないといけないと思いつつもそれよりも領地でやりたいことがたくさんあった。もちろん領地でないとできないということはないのだが、わざわざ王都に行く時間がもったいないと感じたし、王都でしたいこともなかったのだ。

 お茶会に行かなくても多くの貴族の子女は王都の学園に集まってくる。そこで親睦を深めればいい。

 3人との勉強会についても、自分はだいぶ深いところまで学習を進めていっているし、何より3人と私では立場が違う。必要となってくる勉強も違うだろう。そこで3人で専門家から勉強するのもいいが、領地で1人で勉強するのでもいいだろう。

 そういうわけで私は王都に戻らなかった。私に甘いお兄様やお父様は寂しがったが、私が学園に入れば嫌でも一緒に暮らすことになるのだから諦めてもらうことにした。



 


 こうして私は学園に入るまでの2年近くを領地に引きこもって過ごした。

 お父様やお兄様に会ったのは誕生日の時だけ。その時にはレイナルド殿下もアドレアン様もプレゼントを贈ってくれた。アドレアン様はいつもアクセサリー。レイナルド殿下はアクセサリーに加えて勉強の役に立つものを色々と贈ってくれた。私が勉学に励んでいると手紙で話しているからだろう。普通にはほとんど流通していない遠方の国の書籍が届いたときは飛び上がって喜んだ。本当にレイナルド殿下には感謝しかない。

 


 そんな生活をしていたから、学園に通うために王都へ戻るのがギリギリになってしまった。





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