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私はルーチェリア・ウィンサー。今日は私の6歳の誕生日。
たった今、6歳の誕生日を祝うちょっとしたパーティーから部屋に戻ってきたところだ。
私には前世の記憶がある。そう言ってしまうと誤解があるかもしれないけれど。
前世というか同じ人生をまた歩んでいる。この人生、これで2度目だ。前回もルーチェリア・ウィンサーだったし、お兄様はクリストフ・ウィンサーだった。
鏡に映る銀髪に紫の瞳をした整った容貌の少女と目を合わせる。
間違いない。前世と同じ外見をしている。
でも詳しいことは憶えていない。周囲の人との関係とか、成長過程に何があったとか。憶えているのは私が侯爵令嬢だとか、お父様がこの国の宰相を務めているとか、基本的な情報と成長過程で学んだこと。
6歳にしてもうダンスもマナーも完璧である自信がある。このままデビュタントを迎えられそうな勢いだ。なんなら王子様の婚約者にだってなれそうだ。王子様に会ったことはないけれど。
王子さまはお兄様と同じ歳で私より2歳年上だ。お兄様は王子様の側近候補らしい。そのためお兄様はいつも王子様と一緒に遊んだり、お勉強したり、鍛錬したりしている。
私はまだマナー以外の勉強も始めていなかったし、鍛錬なんてするわけもないから王子様には会えていない。
王子様はお兄様のお話によると素敵な方らしい。会ってみたいけれど、王子様のことを考えると胸のどこかが嫌な感じにモヤモヤする。
どうしてだろう。思い出せない夢が関わっているのかもしれない。
私は小さいころからずっと同じ夢を見続けている。・・・たぶん。
憶えてはいないのだけれど、たぶん同じ夢だと思う。何度思い出そうとしても思い出せない。最初の頃は思い出そうと頑張ったけれど、もうしばらく前に諦めた。
思い出そうとすると頭が痛くなって倒れてしまったこともある。
周りに心配をかけるだけで全く思い出せそうな気配もないので諦めたけれど、もしこれから王子様と関わることが出てくるのであれば考えていかないといけないかもしれない。
そうはいっても今現在王子様と関わることがあるわけではないので、しばらく保留にすることにした。
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朝食の席で突然お父様に言われた。
「ルーチェももう6歳だ。そろそろ婚約者を決めてもいい頃かもしれないね。」
お母さまはただ微笑んでいる。このお話はお父様とお母さまの間では既に話し合われたものだったらしい。貴族の娘として生まれた以上、いずれ婚約の話が出るとは思っていた。
お父様はこの国で宰相を務めている。お父様のお眼鏡に適う相手となればなかなか将来有望なのではないだろうか。そうでなくとも私はお母さま似の銀髪とお父様似の紫の瞳、自分の目から見ても結構な美少女だと思う。家柄も侯爵家となると婚約者候補には困らないのではなかろうか。
しかし婚約者か。
(前世では私に婚約者はいたのかしら。いたとしたらどなただったのだろう。うまくいっていたのかな?)
私は年頃の近い令息の顔を思い浮かべた。この中の誰かが今回の私のお相手になるのだろうか。
「今度、王宮で王子と年頃の近い子どもたちを招いたお茶会が開かれる。行ってみないかい?クリストフも一緒だから心配しなくていいよ。」
「何かあったら僕がいるし、ルーチェはレイナルド殿下には会ったことないよね?殿下も優しい方だから安心して。僕と一緒に行こう?」
お兄様も優しくそう言ってくれる。
兄は王子の側近候補として参加が決まっていたらしい。噂に聞いていた王子様と会える、そう思うと心が浮き立つような感覚とともに胸にもやもやとしたものが広がっていくのを感じた。
(やっぱりどこかで夢のことをちゃんと考えてみなくちゃダメかしら?)
ぼんやりそう思ったが、食事を進めるうちに侯爵家の食事の美味しさにそんな考えはどこかに行ってしまった。
そうして私はお兄様と一緒に王宮のお茶会に参加することになった。