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 その貴族令嬢と騎士は幼馴染だった。小さい頃にお茶会で出会い、最初はじゃれあったりしながら、少しずつ仲を深め大人になっていった。美しく育った貴族令嬢は社交界の花と呼ばれ、婚約の申し込みが引きも切らないほどの人気者になった。しかし彼女の心の中には常に幼馴染の騎士がいた。

 一方幼馴染の騎士もまた精悍な顔立ちの青年へと育っていた。顔だけでなく剣の腕も確かで、同世代の騎士の中でその実力は抜きんでていた。彼の心の中にも常に彼女がいたが、幼馴染という立場からか素直になれない彼と彼女はすれ違ってばかりだった。

 そんな中、彼女に格上の公爵家からの縁談が舞い込んでくる。公爵家からの縁談だという事で断り切れずその話は進んでいくことになる。それを聞いた騎士は焦り、彼女に想いを伝えることになる。彼からの告白を受け入れた彼女だったが無情にも縁談は進められていく。彼は彼女に誓った。必ず彼女を迎えに行くと。そして彼女の両親と縁談相手を説き伏せ、次の剣術大会で優勝したら彼女をもらい受ける許可を得るのだった。

 来る剣術大会の日、彼は強敵と卑劣な罠にぼろぼろになりつつも無事優勝を果たし、彼女を迎えに行くのだった。



 ストーリーから何から、その恋愛小説はしっかり王道だった。その王道さが私の胸をしたたかに打った。読んでしばらくは涙が止まらず、何度も思い出しては読み返した。





 その恋愛小説の感動も興奮も冷めやらぬまま、私はお茶会に来ていた。そう、今日はアドレアン様との感動の再会だ。私はどんなロマンチックな再会がいいか妄想に胸をときめかせた。そんな私をお母様が微笑ましく見つめている。


「ルーチェちゃん、あの小説がよっぽど気に入ったのね。ここにルーチェちゃんの騎士様(ナイト)になれるような方はいるのかしら。

 でも今度はもう一つの王子様の方の小説も読んでみてね。きっと気に入るわ。」


 私はまだ読んでいないもう一つの小説へと思いをはせた。

 そのまま意識が王宮のかなたに飛びかけたとき、急に現実を思い出した。いけないいけない、今は自室での読書タイム中ではなかった。お茶会の途中なのだ。

 私は気を取り直して今日来ているはずのアドレアン様を探しに行くことにした。運命の再会が待っている。ロマンスの予感へといざ行かん!





 現実はそんなに甘くはなかった。まあ相手はアドレアン様だし、別に私達は恋人同士でも好き合った同士でも何でもないし、当然と言ったら当然なのだけれど、それにしたってあっさりしすぎていた。

 アドレアン様は完全にいつも通りだった。抱き合うでもなければ、愛の言葉を囁くでもないし。それでなくとも再会を喜ぶだとかそういった素振りがまるでなかった。

 はっきり言って私は非常に不満だ。ここまで恋愛小説での感動の再会に胸を膨らませてきたのだ。アドレアン様だってまがりなりにも騎士団長の息子なんだから、少しは感動の再会を演出してくれたっていいじゃないかと思う。

 家庭の事情で離れていた貴族令嬢と騎士(団長子息)の再会。これにときめかなくて何にときめくと言うんだ、うん、私は間違ってない。


「アドレアン様、照れてないでちゃんと感動の再会を演出してください!」


「は?」


「侯爵令嬢と騎士の感動の再会なんですから、ちゃんとやってください!」


「いや、俺はまだ騎士じゃないし。そもそも何が感動の再会・・・?

 あれだけしつこく毎度手紙を送りつけてきておいて・・・。」


「感動の再会でしょう?久しく会えなかった2人がようやく会えたんですよ!」


 アドレアン様の態度に貴族令嬢らしくしようとした態度が崩れそうになるが、気合で押しとどめる。ここで負けてしまったら感動の再会はかなわない。


「そういうのは恋人同士とかがやることだろ。」


 アドレアン様があきれたようにもっともなことを言う。


「たしかに、私達は別に愛し合った2人でもなんでもないですが!再会は再会!再会は感動なんです!!」


 私の剣幕にアドレアン様はちょっと、いやかなり引いていた。私はそんなアドレアン様に畳みかける。


「だからアドレアン様、ちゃんと感動の再会をやってください!」



 しぶしぶといった調子でアドレアン様が立ち上がる。そしてこっちに近づいてきた。いよいよ感動の再会だ!期待に胸が高鳴る。


「久しぶりだな、ルーチェリア。元気だったか?」


「・・・・・・20点。」


「ちゃんとやっただろ?」


「なんですかその()()()の再会は!肝心の感動がぬけおちてましたよ!

 会いたかったとか、会えない間はいつも君のことばかり考えていたとか、いろいろあるでしょう!?」


「だからそれは恋人同士がやることであって「うるさい!言い訳は不要です!!」」


 私は減らず口ばかり言うアドレアン様を強引に黙らせた。

 これはちゃんと考えなければならないかもしれない。この調子じゃ大人になってもアドレアン様が騎士としてふさわしい感動の再会を演出できるようにならないかもしれない。由々しき事態だ。


「アドレアン様、私はこれからアドレアン様に対して淑女としてふるまいます。だからアドレアン様も騎士として接してください。」


「なんだよ、いきなり。」


「感動の再会への第一歩です!

 本当はその言葉遣いもあらためてほしいところなのですが、今日のところはまだいいでしょう。じきに改善していっていただきます。

 来年こそは立派な感動の再会を演出してくださいね!」


 私は言い切った。アドレアン様がたじろいでいるが、そんなことは気にしない。アドレアン様を立派な騎士にするためにはそんなことは些細な問題だ。そして手に持ったバスケットから、忘れないうちに手紙の束を取り出す。


「あとこれは王都に帰ってきてから書き溜めてた手紙です。」


 アドレアン様は露骨に嫌な顔をした。


「なんでこんなにあるんだよ。むしろ溜めるくらいなら送れよ。」


 うんざりとした表情を浮かべながらも手紙を受け取ってくれた。


「王都の屋敷からアドレアン様に手紙を送ろうとすると、お母様にバレそうだからです。

 お母様にバレたらアドレアン様と強制婚約ですよ。」


 アドレアン様の顔が何とも言い難い渋いものへと変わっていく。


「アドレアン様のお家とだと家格もつりあいますし、子ども同士も仲がいい、となれば婚約一直線ですよ。だからお母様にはバレないように気を付けてるんです。

 だからアドレアン様からいただいた誕生日プレゼントもこうしてこっそりつけています。」


 私はワンピースの中からアドレアン様から誕生日にもらったペンダントを取り出した。陽光を受けてきらきらと光っていてとても綺麗だ。アドレアン様は一瞬そちらを見て、照れたようにすぐに目をそらした。


「お母様にバレないようにってお茶会の時とかどうしてるんだよ。」


「私は1人でお庭を拝見していることになってます。アドレアン様のことはお母様どころかお父様にもお兄様にも話したことはありません。」


「なるほど。じゃあバレる前にさっさと戻れ。」


「ここで焼き菓子を一緒にいただいたら戻りますわ。」



 そう言って私はハンカチを芝生に広げた。この時間は私の癒しの時間なのだ。アドレアン様に焼き菓子を勧めながらのんびりおしゃべりをして、そして私はお母様のところへ戻った。

 あの時間は誰にも知られてはいけない2人だけの秘密なのだ。少しだけ恋愛小説みたいだな、と思った。





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