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 レイナルド殿下とのお茶会から数日。私は悩んでいた。あの時はわけもわからず手紙を書くと約束してしまったが、いったい何をどのくらいのタイミングで書くべきなのだろうか。全くわからない。

 私が手紙のやりとりをしているのと言えばアドレアン様で、これは相手の都合も考えず半ば嫌がられてるかもしれないままに書き続けているものだ。一般的なお手紙のやり取りとは言いづらい。よもや王子殿下にそんな不敬を働くわけにはいかない。

 とは言っても、他の人と手紙のやりとりをしていない私にはその加減がわからない。誰かとの手紙のやり取りなんて前世の記憶にもないような気がする。あの日記のような手紙を送るわけにもいかないし私は途方に暮れていた。


(アドレアン様に相談するわけにもいかないし。)



 思いつかないまま私はレイナルド殿下のことを思い出していた。


(そういえば婚約者候補になったわりに、レイナルド殿下のことを全然知らないわ。)


 思い出せるのはあの整った容姿と薔薇の香り。こちらを見つめる優しい眼差しくらい。外見的なものではないレイナルド殿下を私は知らなかった。

 


 レイナルド殿下との会話を思い出してみる。聞き上手に話を聞いてくれたけど、そういえば私のことを聞かれてばかりでレイナルド殿下のことはほとんど会話に上がってくることはなかった。


(婚約者候補なのにこんなことでいいのかしら?手紙ではレイナルド殿下のことを聞いてみましょう。)


 

 手紙ではお互いを知り合えるようなことを書いていくことに決めた。次に会う頃までにもう少しレイナルド殿下のことを知ることができればいいな、と思った私は早速机に向かった。お気に入りのレターセットを取り出す。


『先日はお茶会においでくださりありがとうございました。お忙しくされているとは思いますが、その後お変わりはありませんか?

 私は読書をしたり王都の家庭教師に教わったりと日々過ごしています。王都では領地とは違った先生に教えていただけるので毎回興味深いです。

 最近ダンスのレッスンが始まりました。今日もまたダンスの相手をしてくれていたお兄様の足を踏んでしまいました。ダンスって難しいですね。それになれない動きで毎日筋肉痛です。レイナルド殿下はどうですか?ダンスはお好きですか?王子殿下ともなるとダンスを踊る機会も多くなると思います。苦手とは言ってられませんよね。想像しただけで大変そうです。私も頑張らないと!


 レイナルド殿下はいつもどうお過ごしですか?お手紙を書くにあたりレイナルド殿下のことを考えていて、殿下をほとんど知らないことに気づきました。そういえばまだお会いしたことも2回しかありません。レイナルド殿下との時間が居心地が良すぎて忘れてしまっていました。次にお会いするときにでもレイナルド殿下のことをお聞かせいただきたいです。

 婚約者候補としても、もっとレイナルド殿下のことを知っていけたらいいなと思っています。


 次にお会いする日を楽しみにしています。お忙しいでしょうがお身体を大切になさってください。』



 レイナルド殿下がよくわからなくてなんとなく当たり障りのない感じになってしまった手紙に封をする。あとでお父様に明日にでもレイナルド殿下に届けてもらえるようにお願いすることにした。



 レイナルド殿下への手紙を書き終わるとだいぶ気が楽になった私は図書室に行くことにした。一応外向きには図書室で本を読んで勉強していることになっているが、最近の私は街で人気だという大衆小説にはまっていた。それはいわゆる恋愛小説で、王子様や騎士様とのラブロマンスだった。主人公は平民だったり貴族の子女だったりさまざまだが、王子様や騎士様との恋愛はときめきにあふれ、時に切なくて私の心を虜にした。というわけで、今日もそんな恋愛小説をあさりに図書室に行くことにした。

 なぜ侯爵家の図書室にそんな本があふれているのかと言うと、お母様が大ファンなのだ。お母様は街で話題のあらゆる恋愛小説を蒐集し読み漁っている。おかげで私もすっかりその魅力にはまってしまったというわけなのだ。



 図書室に入ると、そこには先客がいた。お母様だ。

 お母様は何か本を読んでいたようだったが、私の姿を認めるとこちらに近づいてきた。


「あらルーチェちゃんも読書かしら?それともお勉強?」


「今日は息抜きに本を探しに。」


「ならいいのがあるわよ!最近発売された小説なんだけれどね、主人公の貴族令嬢が幼馴染の騎士様と恋に落ちるの。主人公は他の人と婚約させられそうになるんだけれど、そんな主人公を騎士様が攫いに来るのよ!」


 王道だ。貴族令嬢と騎士。お互い好き合いながらも他の人と結婚させられそうになる主人公。それを攫いに来る騎士。真実の愛を貫く二人。定番ではある。でもやっぱり王道モノは好きだ。定番になるにはそれだけの理由がある。


「それともこっちの初恋の王子様に見初められて、って方がいいかしら?」


 お母様がもう1冊の本を見せてくる。これもまた王道。お互いが初恋の王子様と貴族令嬢が紆余曲折ありながらも愛を貫き結ばれる。

 これは悩む。王子様か、騎士様か。私はどっちも好きである。どっちにも違ったときめきがあるし、違った切なさがある。


「うー。まずは最初にお母様が勧めてくださった騎士様からにしますわ。」


 私は苦渋の決断で言った。


「ルーチェちゃんは大げさね。そんな顔しなくても恋愛小説は逃げないわよ。」


 お母様に笑われてしまった。



 私は大事に本をかかえてそそくさと部屋に戻った。騎士様が私を待っている。

 部屋に戻ると早速本を読み始めた。





 


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