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 クレアによれば、アドレアン様は組み合ったまま相手の足を払って投げ飛ばしたらしい。私には見えなかったので真相は定かではないが。お兄様がしきりに感心していて、それが強く印象に残っている。

 お兄様も鍛錬を続けていけばあんな風になるのだろうか。いや、そんな風には思えないな。どれだけ鍛錬を重ねていっても、私の中でお兄様のイメージはひょろひょろの優男だ。アドレアン様もムキムキというより細マッチョ系なので見た目はお兄様とさほど変わりないのだが、印象はお兄さまよりもだいぶ力強く頼りになるイメージだ。この違いはどこから来るのだろう。きっと見た目ではないのだろう。見た目で行けばあんなに美しく剣を持つところなんて想像できないレイナルド殿下がその辺の騎士様よりよっぽど強いのだから、見た目の印象なんてあてにならないのはわかっている。それでもお兄様が弱っちく見えるのはどうしようもない。妹として長年一緒に育ってきた結果なのだろう。クレアの方が普通に強そうだし。まあ実際強いのだけれども。



 アドレアン様の試合が終わったので、私はお兄様と一緒に準備室に戻って、次のアドレアン様の剣術の第四試合の番になるまで真面目にお仕事中だ。クレアはどこかで暇をつぶしているらしい。控室に戻るとみんな試合前でピリピリしているため、気づまりなんだとか。出場者はそれはそれで苦労が多いんだな、と思う。



 案内係の仕事はお兄様がいるので、想像通りスムーズに進んでいる。このペースで行けば、今後の試合も問題なく観戦に行けるだろう。進捗を確認して安心して作業に戻った。

 案内係の仕事だけでなく、試合自体も順調に進んでいる。想定外のけが人が出ることもなく、大幅に時間に遅れが出ることもない。おかげで私達ものびのびと仕事ができていた。あらゆる事態を予測してしっかりとした計画を立ててくれたレイナルド殿下はさすがとしか言いようがない。私も少しでも役に立てるように仕事に精を出した。



 アドレアン様の剣術の第四試合の時間になった。今回は私の担当する出場者の試合はないので直接試合場へ向かう。案内係の仕事として各控室ごとに担当の案内係がついている。今回の試合時間には私の担当する控室には出場者がいない。だから今はフリーだ。本当はアドレアン様のいる控室を担当しようかと考えたのだが、そこを担当することにより万が一アドレアン様の試合観戦に間に合わなかったり、何か問題が起きたりする可能性を示唆されて別の控室の担当になった。ちなみに自分の担当する控室の出場者がすべて敗退してしまった場合は、他の部屋の補佐につくことになっている。

 試合場には前回の時と同じくクレアとお兄様が先に着いていた。これも前回と同じく、2人は試合の展開を予想していた。2人の間の席が一席空いているが、あそこはやっぱり私の席なのだろうか。そんなに2人で盛り上がっているのであれば、2人で並んで座ってもらって構わないのだが。

 そんなことを考えつつも2人に声をかけ、空いている間の席に座る。先ほどの試合と同じく観客席にも人がいっぱいで、みんなこの試合場を見ている。この試合が終われば準々決勝だ。準々決勝からはわかれていた試合場も一つに統合されるし、注目度も段違いになるだろう。想像しただけで身震いする。これだけ大きな会場にいるすべての人がクレアやアドレアン様の試合を観るのだ。このたくさんの人がクレアの優勝シーンを目撃するところをつい想像してしまった。


(明日から私は有名人の友達になるのね。)


 優勝によってクレアの注目度は今までとはけた違いに上がるだろう。しかもクレアは前年までの覇者ウィリアム様にオルファス様の妹だ。そういう意味でも有名になるだろうし、これからは私もクレアに対する接し方を考えなければいけないかもしれない。私はただ一介の侯爵令嬢だ。クレアの横で偉そうにしていたら反感を買うかもしれない。

 私の思考がそういう変な方向に走っているのを敏感に察知したらしく、クレアが話しかけてきた。


「ルーチェ、さっきから変な顔してるけどおかしなことを考えてはいないわよね?」


「え?明日からはクレアの腰ぎんちゃくにならなくちゃいけないなんて考えてないわよ。いやね、クレアったら。」


「考えてるじゃない!何よ、私の腰ぎんちゃくって。」


「あっ。」


 慌てて口を押えたがもう遅い。うっかり声に出してしまった。お兄様の肩が小刻みに揺れている。


 (妹の失言を笑うなんてひどいですわ、お兄様。)


「クレアが優勝したら有名人になるじゃない。だから私も有名人の友人としての立ち位置を考えなければいけないな、と思っただけよ。」


「そんな気遣いは無用よ!」


 クレアにぴしゃりと言われてしまう。


「それに、私だけじゃないわ。カタル様も優勝するのよ?カタル様にはどう接するつもり?」






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