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 今日もいつもより早い時間に学園、というか武術大会の会場に向かう。お兄様と馬車で向かい合いながら話をする。


「そういえば、昨日はレイナルド殿下の馬車で送ってもらったんですが、お兄様をお待たせしてしまった挙句振り回して、ご迷惑をおかけしてしまったのではないかしら。」


「そうだったのかい?昨日僕はアンディの馬車で屋敷まで送ってもらったから、うちの馬車には乗っていないんだ。」


「そうだったのですね。お疲れのお兄様をお待たせしてしまったんじゃないかと心配しましたわ。」


「ルーチェが来るまで待てなさそうだとアンディが思ったらしくてね。送ってくれたんだ。」


「アドレアン様にお礼を言わなくてはなりませんね。」


「うん。今日会ったら改めてお礼を言うつもりだよ。」


「私からもお礼を言っておきますね。」


「ありがとう。

 昨夜はアンディの話ばかりになってしまったけれど、クレア嬢の優勝はほぼ確実だと思うんだ。他にクレア嬢に匹敵するようなご令嬢がいるとも思えないしね。だから今日は2人の二部門優勝を期待して観るつもりだよ。」


「そうですね。授業中のクレアの様子を見る限り、他のクラスの有力者と当たったとしても負けそうにない気がします。クレアの優勝は私も疑ってはいません。

 けれどいいんですか?クレアが二部門優勝者になってしまうと、お兄様がクレアに勝利するためのハードルがさらに上がってしまうと思うのですが。」


「覚悟の上だよ。それに、いまさらじゃないかな。

 クレア嬢は僕のように武術大会前に必死で鍛錬して、付け焼刃の力を手に入れたわけじゃない。元々武術大会で優勝できるほどの実力があったんだ。

 それに、いくらクレア嬢が強いと言っても、彼女より強い男はたくさんいるよ。おそらくアンディなら間違いなくクレア嬢よりも強いだろうし・・・。アンディに負けていった出場者の中にも、クレア嬢より強い人はいたかもしれないな。」


「言われてみれば。

 クレアは今回の武術大会ですっかりアドレアン様のファンになってしまったみたいですけれど、それは自分より強い人に憧れるという意味もあったのかもしれませんね。」


「クレア嬢がアンディに?なんだか意外な組み合わせだな。

 いや、でも考えてみればお似合い、なのかな?」


 お兄様の口から出てきたお似合いの言葉に胸がざわつく。やはりお兄様から見てもお似合いに見えるのだ。他の人の目から見てもそうだろう。謎のざわつきに心を落ち着かせようとしている中に、お兄様の声が響く。


「アンディには婚約者もいないし、クレア嬢なんていいんじゃないかな。」


 聞こえてくる声をかき消すように私は口を開いた。


「婚約者ならお兄様にもいないではありませんか。」


「そうなんだけれどね。年齢的にもそろそろ婚約者がいてもおかしくない頃合いだし。それに2人はお似合いだし、立場的にもつり合いが取れるし。」


「お兄様にはそういうご令嬢はおりませんの?」


「僕は文系だからね。アンディとクレア嬢みたいに部門の出で、力量的にも釣り合って、みたいなのは難しいかな。」


「お兄様はクレアとアドレアン様が婚約したらいいと思っているんですの?」


「2人とも大切な友人だからね。2人が幸せになってくれるのなら僕も嬉しいよ。」


「クレアとアドレアン様が結婚するのと2人が幸せになるのは同じことなのでしょうか。」


「それは2人の関係次第だと思うけれど・・・。

 どうしたんだい?やけにつっかかるね。」


「ごめんなさい。そういうつもりではなかったのですけれど。」


「いや。仲良くしているクレア嬢が急に遠くに行ってしまうように感じたのかもしれないね。クレア嬢がアンディと結婚したって、クレア嬢をアンディにとられてしまうわけではないよ。」


「2人が結婚するわけではありません。」


「そうだったね。

 ごめん、つい言葉のあやで。」


 お兄様の言うことは半分当たっていて半分間違っている。2人が結婚とまではいかなくとも、婚約することにより突然私の手の届かない遠くに行ってしまうように感じたのは事実だ。ただしそれはクレアが、ではない。クレアは婚約したって結婚したって変わらず私の親友だ。それはわかっている。だからクレアはいいのだ。

 私は気分を変えるようにお兄様に話しかけた。


「今日はお兄様も係の仕事についてくれるので、とても気が楽です。」


「ああ、昨日はみんなに負担をかけてしまったからね。今日は昨日の分まで働くよ。」


「試合への案内とかは昨日たくさんあったので慣れてきましたけれど、今日は表彰式とかもありますし、勝手が違うのでお兄様がいてくれると心強いですわ。」


「僕の天使をこんなに不安にさせていたなんて、僕はダメな兄だな。」


 お兄様も一夜明けていつもの調子が戻ってきたらしい。私は胸のざわつきや苛立ちをかみ殺すように、お兄様と和やかに会話を続けた。





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