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 その試合の後も準備室に戻り、いくつか仕事をこなしている間に今日の試合は終了した。私の仕事もあといくつかを残すのみだ。仕事が全部終わったら、今日のねぎらいと明日に向けての打ち合わせを兼ねてのミーティングがある。試合に敗退した生徒達が案内係に復帰するので、明日は今日より人数が多い。出場者の数は減っているので、案内が必要な人数は減るし、試合数も減るので、その分仕事は楽になる。お兄様も明日は案内係に復帰する。今日一日仕事をしてみてだいぶ要領もつかめたので、そういう意味でも明日は今日よりも楽だろう。明日もアドレアン様は試合に出場するので、試合中の係の仕事はしない。武術大会終了後から復帰になる。試合終了後も出店が閉店するまでしばらくあるので、なかなかハードワークだ。

 私としても明日の応援はクレアとアドレアン様だけなので、気持ち的に楽だ。お兄様の時のようなハラハラドキドキはない。そもそも、クレアはともかくアドレアン様は目が追い付くかの問題もある。違う意味でハラハラドキドキさせられる可能性はある。とにもかくにも明日になってみなければわからない。少し楽しみではある。



 ミーティングは会場内にある広めの部屋で行われる。自分の仕事が終わった者から順次集まることになっている。私が室内に入った頃はまだ数人しかいなかったが、次第に人が集まってきた。試合を終えた生徒達も入ってきて、その中にアドレアン様の姿があることになぜかドキッとする。さっきまでのドキドキとか気まずさのようなものはもうないのだが、変に意識してしまっているのかもしれない。

 室内に入ってきたアドレアン様は、辺りを見回して私の姿を認めると歩いてきて隣の席に座った。


「もう熱はないみたいだな。」


「だから最初から熱なんてないですよ。」


 そう答えるとアドレアン様は、お守りのブレスレットをつけた右手で私の前髪をかき上げると顔を覗き込んでくる。


「いつもどおりです。」


「そうみたいだな。」


「私のことよりアドレアン様ですよ。

 お疲れ様です。剣術体術共に三回戦突破おめでとうございます。

 アドレアン様こそ疲れてないですか?」


「ありがとう。

 俺は試合時間が短かったし、打ち合いも組み合いもほぼしてないから疲れてない。むしろ暇すぎて疲れた気がするくらいだ。

 俺より疲れてるやつらはいっぱいいるんじゃないか?

 さっき見かけたときクリストフなんか、今にも倒れそうなくらいふらふらだったぞ。」


「・・・やっぱり。

 お兄様は接戦続きで体力を使い果たしてるんだと思います。アドレアン様みたいな余裕はなさそうでしたから。」


「クリストフはこの夏までまともに武術なんてやってこなかっただろ。そんなもんだよ。ふらふらになるまでやって、倒れて寝て、を繰り返して初めて体力がついていくんだ。

 試合にも慣れていないから、気疲れもすごいんじゃないか?」


「そんなものですか。」


「そんなもんなんだよ。」


「アドレアン様もクレアもすごいんですね。」


「ランドール家のしごきはすごいだろ。ランドール嬢は体力あると思うぞ。」


「私もそう思います。クレアは体力オバケですから。緊張もしませんし。」


「経験の差だな。辺境伯令嬢と一般の子息令嬢を一緒にしたら可哀そうだ。

 どうせ女子の優勝は剣術体術どっちもランドール嬢だろ。」


「私もそう思います。

 クレアが強すぎてつい対戦相手のお姉様を応援してしまいました。」


「いや、お前、それはさすがにないだろ。」


「クレアにめちゃくちゃ怒られました。

 人生初で壁ドンなんかされちゃいました。

 せっかくの胸キュンシーンなのに、全くときめきませんでした。」


「そりゃそうだろ。」


「むしろものすごく怖かったです。」


「だろうな。相手は貧弱な令嬢じゃないし。」


「そうなんですよ!

 被捕食者の気分になりました。凶暴な肉食獣を前にして身動きが取れなくなったというか。」


「よかったな。無傷で済んで。」


「本当ですよ。ただじゃすまないかと思いましたよ。」


「明日もうっかり対戦相手のお姉様を応援しないように気をつけろよ。」


「肝に銘じます。」



 その後もアドレアン様と主にクレアの話で盛り上がっていたら、やつれを感じさせるふらふらのお兄様が部屋に入ってきた。

 お兄様はふらふらしながらも生徒会幹部としての役割を立派に果たしているようだった。レイナルド殿下が来るまでに必要な準備を整えている。見かねた先輩達がお兄様のフォローに入ってくれて、みんなで和気あいあいとした雰囲気を作っている。私は手伝いに行こうかと思ったが、その様子を見て安心したのでアドレアン様との会話を続けることにした。



「アドレアン様の試合は剣術の第三試合しか観てないんですけど、速すぎて何が起きたのか全く見えませんでした。」


「ああ。知ってる。

 お前がいるのは見てたよ。」





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