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結果から言うと、お兄様とアドレアン様は一試合目、同じ時間だった。アドレアン様~。くじ運悪いんだよ。しかもアドレアン様の対戦相手は私の想像通り、最上級生でしかも優勝候補の一角とされている人だった。やっぱり。アドレアン様相当に運が悪い。そういえばお茶会サボっている時もことごとく私に邪魔されていたし。運がいい人には到底思えない。ああ~。もう。諦めよう。一回戦で負けないようにだけしっかり伝えて、精一杯お兄様を応援しよう。
クレアは一回戦は最後の方だったので、時間がかぶることはなさそうだ。まあ時間がかぶったらお兄様だけれど。剣術の授業でも体術の授業でもクレアは無双していたし、別に観られなくても負けることはないだろうから大丈夫だろう。たぶん。
3人とも剣術も体術もエントリーしているが、剣術と体術の試合は交互に行われることになるから、試合が進まないうちは結構ハードな予定だ。お兄様の体力がもつか心配だ。アドレアン様はわからないが、クレアは体力オバケなので心配はしていない。
今日は男子は三回戦まで実施されるので、順調に勝ち進めば六回も試合に出ることになる。女子の方は出場人数が少ないので二回戦までだ。クレアには余裕だろう。お兄様と体力を交換してもらいたいくらいだ。
明日は女子は準々決勝から始まるので三試合。男子はもう一試合多くて四試合ある。もし万が一お兄様が決勝もしくは三位決定戦に進むとしたら、明日は八試合だ。今日の六試合の疲れを残したうえで八試合。無理だろう。そんなに出場したら死んでしまう。いや、よくてもしばらく寝たきりになるのではないだろうか。オルファス様ってすごいんだな。さすがクレアのお兄様といったところか。明日の試合はアドレアン様に頑張ってもらうことにして、今日はお兄様の応援に死力を尽くそうと思う。
いま会場に簡易の仕切りが設えられている。会場を四か所に区切って同時に試合を行うのだ。午前中に剣術、体術それぞれ一回戦。午後に二回戦と三回戦を予定している。今日は男子の試合と女子の試合が同時に行われるため、時間がかぶったらお兄様の応援一択だ。
明日は会場を区切ることはせず、広く使って一試合ずつ行われる。まずは午前中に女子の試合から始めて、男子の四回戦。午後に男子の準々決勝から決勝までが行われて表彰式、閉会式となる。
待っていたら会場の設営完了の連絡があった。まもなく試合が始まる。自分の担当の控室の選手達に声をかけるべく立ち上がった。
控室に向かい、一試合目に出場する選手達に声をかける。選手達を連れて各会場へと案内していく。一番最後はアドレアン様だ。私は意を決して口を開く。
「アドレアン様。私達案内係には関係者の試合の観戦が許可されています。私はこれから、その権利を行使して観戦にまわるつもりです。」
「知ってる。
それで、何が言いたいんだよ。」
「アドレアン様はご存じだと思いますが、この一試合目にエントリーされているのはアドレアン様だけではないんです。」
「ああ、知ってるよ。クリストフだろ?
お前はクリストフの応援に行くんだろ?」
「その通りです。
アドレアン様くじ運悪すぎるんですよ!
お兄様と時間かぶるし、対戦相手は優勝候補の一角と言われている先輩だし。」
「仕方ないだろ。
俺が引いたくじじゃない。」
「今までだってもれなく三試合目でオルファス様と当たっていたんですよね?」
「俺が引いたくじじゃない。」
「自分で引いたらいいくじを引けました?」
「やってみないとわからないだろ。」
「わかりますよ。アドレアン様はきっと相当くじ運が悪いと思います!」
「なんで言い切るんだよ。」
「とーにーかーく、私は観戦できないので、絶対負けちゃダメですよ!
お兄様は明日はいないと思うので、明日ゆっくりアドレアン様の試合を観戦するつもりなんです。
ちゃんと勝ち残ってください。」
「相手次第だろ。くじ運が悪いから何とも言えないな。」
「くじ運が悪くても今年は三回戦でオルファス様に当たりませんから!
それにアドレアン様は優勝候補の筆頭なんですから、そんなことを言わないて下さい。」
「勝手だな。」
「観客なんてそんなものです。」
「お前は俺に優勝してほしいのか?」
「もちろんです!」
「ふうん。」
私が願いを込めてお守りを作り、そのお守りをつけたアドレアン様が優勝する。そんなロマンティックなシナリオは小説にしかない。でもアドレアン様ならそれを現実にしてくれると信じている。私はキラキラした笑顔をアドレアン様に向けた。
「試合頑張ってくださいね。」
「ああ。」
「優勝を目指すなら・・・。」
「?」
「クリストフに当たったら叩きつぶすからな。」
「やむをえません。
死なない程度に、いや、動けなくなる程度に遠慮なくやってください。」
「わかった。
まあ適当にやるよ。」
「頑張ってください!」