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 馬車に揺られて領地に戻ってきた。ウィンサー家は侯爵家だけあって領地は王都からそんなに離れていない。馬車で半日もかからないところにある。だから行こうと思えばすぐに行ける距離だ。それもあってお母様はよくお父様のいる王都と行き来している。この国の社交シーズンは長いから、社交が混んでない時は領地にいて、必要な時だけ王都に出てくる家もあるらしい。我が家もその一つだ。我が家は領地と王都が近いからその日のうちに行って帰って来れるけれど、遠いところに領地があると大変だろうな、と思う。



 領地にある侯爵家の屋敷は当然王都より広い。使用人の数も多い。でも実際は王都にいる時間が長いから、あまり活用できていない。もったいない。侯爵家の土地自体は領地に住んでいる叔父様が管理してくれているんだけど、屋敷は別だ。王都には必要な時だけ通ってもっと領地で過ごせればいいんだけれどとは思うが、なかなかうまくいかないものらしい。前世でも領地で過ごした記憶はあまりない。


(今はお兄様も私も学園に通っていないから戻って来られるけれど、学園が始まってしまったらほとんど王都で過ごすことになるものね。)


 学園は王都にあるので社交シーズン以外も王都のタウンハウスから学園に通うことになる。もちろん長期休暇になれば領地へ戻るが、一年のうち大半を王都で過ごすことになる。

 私は娘なので結婚してしまえばそのお相手の家に移り、領地から離れることになる。今のうちにウィンサー侯爵領生活を満喫したいとも思うのだけれど、今年から私には家庭教師がつくことになる。今回も領地とはあまり縁のない生活になりそうだ。





**********




 家庭教師はお兄様を教えている人たちにお願いすることになった。

 さてここで問題がある。今の私は前世の記憶がある間違いなく現在のお兄様より勉強ができてしまうはずだ。就学前の子どもがそんなに賢いとおかしい。かといってできないふりをして教えてもらうのは退屈すぎる。多少怪しまれるのは仕方ないとして、どうにか手を講じなければならない。

 


 さほど怪しまれることなくよりハイレベルな学習に移行できる上手な言い訳は何だろう。思い浮かぶのは本で独学で勉強を続けていました!というもの。でもこれだけだと限界がある。子ども1人で勉強していたといっても限度があるし。

 いざとなったらやっぱりお茶会で一人になったタイミングで勉強に勤しんでいたことにするしかないか。お茶会で一緒になった少し年上の子息令嬢とかと一緒に勉強したとかなんとか。

 


 いい案が思い浮かばなかったので、私は行き当たりばったりそれでいってみることにした。そのために暇さえあれば図書室にこもる。

 基本は独学、いざとなったらお茶会で。私は天才だったみたいです!それで乗り切ることにした。





 家庭教師と初顔合わせの日、私は独学で勉強してきたことを伝えた。


「お兄様だけお勉強しているのが寂しくてうらやましくて、お兄様と一緒にお勉強できるように1人で頑張ったんです!」

 そう言って家庭教師の先生達やお母様、お兄様を胡麻化した。実際蓋を開けてみればお兄様より勉強は進んでいるわけだけれど、仕方ない。そこはよくわからなくてやりすぎたってことにしてもらおう。



 結局私はしばらく前世で勉強したことをおさらいがてら、どのくらい習得できているのか確認していくことになった。その結果次第でより高度な事を学んでいく、という事になる。

 お母様、お兄様あと王都にいるお父様ごめんなさい。こんなことになるんなら最初から前世の記憶があることを告白しておくんだった。信じられないような話だし、今更言い出しづらいので言わないけれど。



 そうこうしている間にも、私は宣言通りまめにアドレアン様にお手紙を書いた。一週間に一通は出している。さながら恋人のようだ。

 アドレアン様はあれだけ嫌がっていたにも関わらず、ちゃんとお返事をくれた。文面はそっけないけれどちゃんと読んでくれているのが伝わってくるので、それでもとても嬉しかった。

 手紙の内容は私の日記のようなものだった。今日はお兄様と何をしたー、とか、何を勉強したー、とか。アドレアン様が寂しくならないように私の日常を書いて送った。

 アドレアン様からの返事は今週は剣の訓練ばっかりだったー、とか私のものよりもっとざっくりした感じだったけれど、たまに私の日常への感想とかアドレアン様の生活がよくわかるようなこととかを書いてくれていて、それを読むのが楽しみだった。

 私の領地生活はアドレアン様との文通生活だったと言っても過言ではない。


(お母様にアドレアン様との文通が知られていたらどうしよう。冷やかされてしまうわ!)

 私は使用人たちにアドレアン様との文通のことは絶対にお母様にもお兄様にも知られないようにしてほしいと口止めをした。




 

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