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「お母様とクレア嬢はいつもこんな感じ?」


 私が中空を見つめながら遠い目をしていると、蚊帳の外になっていたお兄様が話しかけてきた。


「そうですね。おおむね。

 程度の差こそあれ、わりといつもこんな感じです。」


「そうなんだ。

 なかなか楽しいお茶会をしているね。」


「お茶会という名の恋愛小説ファンの妄想の集いですからね。」


「ははは。」


 私はなんだか疲れてきてしまった。もうなんでもよくなってきて、直球で切り込むことにする。


「ところでお兄様、最近の恋愛小説事情はどこまでご存じですか?」


「最近の恋愛小説事情?」


「はい。最近は学園モノが流行しているみたいなんです。」


「学園って僕たちが通っている、あの学園?」


「そうです。その、学園です。」


「そんなことになっているんだね。たしかに、現実の僕達貴族の生活には学園が切り離せないものだし、年頃の男女が主役ならそれも当然の流れなのかもしれないね。

 そう思うと逆に、今までなかったのが不思議なくらいだよ。」


「はい。そんなわけで、最近は学園モノが流行りで、その学園モノには武術大会も出てくるんです。」


「武術大会も?なんだか意外だな。」


「そうですか?騎士団長子息とか、騎士様志望の男性がお相手として登場したりもするので当然の流れかと思うんですが。」


「ああ、そうか。アンディみたいなポジションの相手がいるんだ。」


「アドレアン様はクレアやお母様の格好の餌食です。」


「格好の餌食って・・・。」


「実際に今現在アドレアン様はクレアとお母様にカモられています。」


「アンディ、そんなことに・・・。」


「ともかく、アドレアン様みたいなお相手の男性が出場するので、主人公はそれを応援に行くんです。」


「うん。」


「それで応援の証というか、なんというか、お守りをアドレアン様に渡すわけですよ。」


「もう完全にアンディになってるけれど。」


「細かいことは気にしないでください。」


「わかった。

 お守りね。」


「そうです、お守りです。

 主人公がアドレアン様の無事と勝利を願って手作りするんです。」


「へえ、おもしろいね。」


「だから私達もお兄様にお守りを作ったんです。」


「僕に?アンディにじゃなくて?」


「やだなあ、クリストフ様ったら。

 いきなり私や夫人がカタル様にお守りを渡したら不自然じゃないですか。」


 クレアがいつのまにか復活してきた。


「ああ、たしかに。それで僕?」


「はい。それでクリストフ様です。」


「私達3人でクリストフのためにそれぞれ編んだのよ。まずは糸と石を選ぶところから始めて。

 もちろんクレアちゃんの分も編んだわ。」


「アンディやクレア嬢と違って、優勝候補とかじゃないから少し申し訳ないな。」


「気にしないでください、お兄様。

 みんなでお兄様の無事と勝利を祈って作ったんですよ。」


「そうですよ。

 それに安心してください。カタル様には主人公がちゃんと渡しますから。」


「え?主人公って・・・。」


「もちろんルーチェちゃんよ~。」


 お母様がそう言うと、お兄様は一瞬驚いたような表情になって、それからすぐに遠い目になった。なんだろう。すごくいたたまれない。


「そっか。そうだよね。

 ルーチェはアンディには日ごろから()()()()()お世話になってるもんね。そのくらいしてもバチは当たらないか。

 というか、そのくらいしないと逆に申し訳ないよね。」


 お兄様は全くこちらを見ていないというのに、私はお兄様の視線が痛かった。たしかにアドレアン様にはすごくお世話になっているけれど。


「そういうわけで、まずはクリストフに、私達が作ったお守りよ。」


 お母様の掛け声を合図に、それぞれラッピングしたお守りをお兄様に手渡す。


「ありがとうございます。

 お母様にクレア嬢まで。ルーチェも。」


 お兄様が受け取ってラッピングされた包みを開けていく。お母様が作ったのは紫と緑の糸にシルバールチルクォーツがあしらわれたお守りだった。続いてクレアのランドール家の色黒と金にお兄様の瞳の色であるマラカイトで作られたお守り、そして私が作ったお守りだ。見事にバラバラの色になった。


「本当にありがとう。

 これは、当日につけて武術大会に出場すればいいのかな?」


「そうよ。ちゃんとつけてね。」


「もちろんです。

 おかげでいつも以上に頑張れる気がします。

 ありがとうございます。」


「次はクレアちゃんのね。

 はい、どうぞクレアちゃん。」


「ありがとうございます。」


 お母様がかわいらしいラッピングの包みをクレアに手渡す。私も負けず劣らずかわいらしいラッピングの包みをクレアに渡した。


「2人はクレア嬢のものはかわいらしい感じにしたんですね。」


「そうよー。せっかくかわいいんだから可愛くしないと。」


「私が作ったのはクリストフ様に作ったのと同じでランドール家の色だから、全然合わなくって。」


「両手につけたらいいじゃない。

 右はかっこよくて、左は可愛い、みたいな。」


「そうなるわよね。

 たしかに可愛いんだけどね。でも武術大会のお守りなのよね。」


「可愛いから普段使いのアクセサリーにしてもいいと思うわ。」


「そうですね。武術大会が終わったら普段使いにします。」


 こうしてお兄様とクレアには無事にお守りが渡せた。残すところはアドレアン様だ。





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