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婚約者と仲良くなる方法5

フィリクスが買ってきてくれたサンドイッチを交互に食べて、スフィアとリンダはカウンターに立っていた。

フィリクスは閲覧室から出ると、なぜかディノス男爵について、いくつかの質問をしたあと、用事を思い出したとかで、急いでお昼を買ってきてくれて、そのまま書庫を後にした。


スフィアは、その様子に、一瞬失敗したのかと不安になったが、別れを惜しむように明らかに甘い視線をかわす二人にホッとする。


一方で、カウンターに二人立てば、チラチラとこちらを見るリンダからは、好奇心が滲んでいるわけで。


「・・ねえ。あの部屋のこと、知っていたの?」

(そうよね。聞くよね?)


とっさに送り出したものの、もう少し言い訳を考えておくんだったとすぐに後悔したのだ。

『精霊の隠し部屋』という名前の特別な部屋。そこにフィリクスの本がある、と確信めいた気持ちになったのは、『彼ら』の一人である『リリー』の言葉に引っ掛かりを覚えたからだ。


書庫に住まう精霊たち。『彼ら』は、フィリクスがやってきたとき、きゃっきゃと話をしていた。


『少し前にきた子にちょっと似ているわ。可愛かったのよね。』

『またいたずらしたんでしょう?』

『初恋って、とっても素敵なんですもの。今でも・・。』


フィリクスの笑顔は、恋の精霊、リリーの好みストライクだ。

長い時を生きる精霊たちにとって、10年くらいの時の流れは『少し』である。


(私との日々も、『彼ら』にとってはそう昔のことじゃないのだもの。)


それを踏まえて考えれば考えるほど、フィリクス少年は『精霊の隠し部屋』に誘われ、『リリーの詩集』を見たのだとしか思えなかった。


自分をかばうために婚約者の前で、貴族であるディノス男爵を言い負かすことになったリンダが、フィリクスの反応を気にしているのが申し訳なくて、押し出してしまったのだが。


自分より後にきた見習いが、知るはずのない隠し部屋を知っていたら、疑問に思って当然なのである。


「・・えっと・・あの部屋ですか??」

(ヤバい。どう説明しよう?)


「第二閲覧室にあるってスフィアが言ったときは驚いたけど、あれって、あの小部屋のことを言っていたのよね?」

「えーと、それは・・。」

「確かにフィリクスさんの言っていた特徴と合っていたし本もあったけど、普通はあんな場所、知らないわよね?」

「まあ、その・・。」

「あなた、一体・・。」

「あ、あの!さっきは、ディノス男爵の応対、助けていただいてありがとうございました!あんなにすらすらと言葉が出ていてびっくりしました。す、すごいです!」

あからさまに被せたが、リンダは応じてくれる。

「・・ええ。以前友人が、ディノス男爵が最近質屋に出入りしていることは教えてくれたの。もし本当に転売していたらいくらくらいになるのか、単純に興味があったから調べたことがあったのよね。こんな風に役に立つとは思わなかったけど。」


(うーん。どうしようかな。)

リンダとて、スフィアが何か言えない事情があることは察した。

恐らく、リンダがディノス男爵を言い負かしたせいでフィリクスの心証を悪くしたのではと青い顔をしたから、助けたくて教えてくれたのだろう。


問い詰めて、困らせたいわけではない。むしろ、そのおかげで婚約者との距離が縮まったのだから。


「はあ。いいわ。すごく興味はあるけど、我慢する。・・あの部屋のことは秘密、ね?」

まあ、普通は入れない場所なんだろうし、と続ければ、スフィアはうるっとした目でこくこくと頷く。

「そうしてもらえたら、すごく嬉しいです。」


(しょうがないわね。・・あ。)

「ねえ、一つだけ、確認させて。」

「何でしょうか?」

「白い猫を見たの。私があの部屋に入ったのは、むしろ、そちらが気になったからなんだけど。」


当然ながら、資料や本を傷つける可能性がある動物を、そのままにはできない。


「あー・・えっと。詳しくは説明できないのですが、大丈夫なのは約束できます!」


「そう。・・知の女神、メティスファーラに誓って?」


「・・・・・・はい。」


返事に妙な間が空いてしまったのは、アウラに不安があったから、ではもちろんない。

(メティスファーラ、か。)


知の宝庫である王宮書庫で、メティスファーラの名を出すのは決して不自然ではない。

書庫に勤めることをあまりよいことに思っていなかったリンダが自らその名を出したのは、他意はなく、和やかにこの場を終わらせようという配慮に違いなかった。


(メティスファーラに?もちろん誓えるわ。)

むしろ、この世で一番誓える相手である。


「リンダさんが見た猫が、書庫を荒らすことはありません。メティスファーラに誓って、絶対に。」


「・・なら、いいわ。」

リンダは、スフィアの目から、嘘がないことを感じて、信じることにした。

普通の猫ではないことは確かだったからだ。



しばらくの間、ディノス男爵のことを警戒していたのだが、その日以降彼が書庫を訪れることは何故かなく・・・・次にディノス男爵の名前を聞いたのは、なんと、横領の罪で爵位を取り上げられた、という話題でだった。


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