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婚約者と仲良くなる方法4

「第二閲覧室?」

リンダは聞き返した。

先ほど探していた第三閲覧室は、文学に特化した部屋だ。ゆっくり読めるように椅子が設置されているのもそれが理由。


しかし、第二閲覧室は、かなり専門的な調べものに使う資料が集められた部屋である。

利用者は、資料を選び、広い机のあるカウンター付近の筆記スペースを使う。

そのため、閲覧室内には椅子はない。

「大丈夫です。たぶん、間違いありません。お昼時で人も減ってきましたし、行くなら今です。お二人で行って来て下さい!!」


強く勧められると断るのも悪い気がして、リンダはフィリクスと顔を見合わせた。


「僕は構わないよ。もしその本が違っても、そこまで言ってくれる本に興味はあるし。・・リンダさんが良ければ。」


結局、フィリクスの言葉で、リンダも頷いた。


第二閲覧室に向かう二人を見送ると、スフィアはネックレスからアウラを呼び出す。

「アウラ。お願いできる?」

『うん。聞いてたよ。あの場所に案内すればいいんだね?』

「ええ。」


カウンター付近には今は、ほとんど人はいない。

アウラは、淡い光の玉になった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「第二閲覧室にあるとは思えないのだけど・・。」

案内するリンダは不安でいっぱいだった。


ディノス男爵とのやりとりに後悔はない。

でも、それが、まだ日の浅い婚約者にどう映ったかについては自信がなかった。


第二閲覧室には誰もいなかった。

性質上珍しくもない光景だ。

違っていたのは、そこに淡い光が一つ揺れていたことだった。

その光が閲覧室の壁で動きを止めた時。


「え??」

一瞬のことで、なぜそうなったのか全く分からないが、壁だった場所に空洞ができ、通路が出現したのだ。

そして、リンダ達を驚かせたのは、それだけではなかった。


『にゃあ。』

淡い光の玉は、徐々に形を取り始め、一匹の白猫が姿を現したのである。

白猫はそのまま、通路の向こうに姿を消してしまう。


「・・第二閲覧室って、こんな隠し通路があるの?」

尋ねたフィリクスに、リンダは夢でも見ているのかと思いながら、

「私も初めて見るわ。でも、猫はつかまえないと。」

と言いつつ、白猫を追って通路に入った。


通路の先にあったのは、本の並ぶ小さな部屋。

確かに猫を追ってきたはずなのに、その姿はどこにも見当たらない。

「・・いない・・。」

猫がいないことに困惑するリンダの横で、フィリクスは声をあげた。


「見つけた・・!」

「え?」


猫のことかと思ってフィリクスを見たリンダだったが、次の言葉は驚くべきものだった。


「間違いない。僕があの本を見つけたのは、この部屋だ!!」

あっけにとられたリンダの横で、フィリクスは興奮を抑えきれないようだった。


「そうか。イスじゃなくて踏み台だったんだ。それならきっと・・あった!」

確かにこの部屋は、本棚に囲まれていて、真ん中に丸椅子のような形の台が一つ置かれていた。

脚立や梯子がない理由は簡単だ。

この小部屋にある本はとても少なく、手が届くところに一冊ずつ、立て掛けるようにして置かれていたのである。

フィリクスは、すぐに、目当ての本を見つけた。


「リンダさん。ありがとう。間違いなくこの本だよ。ほら、これが表紙の挿し絵。」

フィリクスの横からリンダも見る。

確かにそこには、美しい女性と、彼女と見つめ合うようにして描かれた小鳥の姿があった。


それからフィリクスはその本を開いたのだが。

「・・あれ?」

「・・あら?」

二人は顔を見合わせた。


そこには、確かに文字があった。そう。たぶん、文字だ。しかし、それは・・

(読めないわ。この国の文字じゃない??)

フィリクスも同じことを思ったのだろう。

数ページめくったが、諦めて本を閉じてしまった。


「・・残念だったわね。」

フィリクスを気遣うリンダに、彼は微笑む。

その顔に失望はない。

フィリクスは、表紙の挿し絵にある女性を優しく撫でながら、リンダに告げた。


「幼いときにこの挿し絵に出会って、僕は母に出会えた気がしたんだ。なんとなく、雰囲気が似ていて。いまから思えばなんていうか・・この挿し絵が僕の初恋だったのかも。」


はにかんで笑う婚約者が、リンダの中でまだ幼い子どもに変わる。

熱心に挿し絵を見つめる小さなフィリクスが目に浮かぶようで、微笑ましい気持ちになった時、フィリクスは思わぬ言葉を続けた。


「でも今見ると、母にも似てるけど、この絵はリンダさんにもよく似ているね。」

自分の名前が飛び出して驚いたリンダは、その絵を愛おしそうに撫でるフィリクスの顔に、急激に恥ずかしくなってしまう。

嫌な気は全くしないのだけど。


そんなリンダの心を知ってか知らずか、フィリクスは、今度は真っ直ぐにリンダを見つめた。


「リンダさん。僕は、一生懸命話題を探しながら会話を楽しもうとして、いつも優しく話を聞いてくれるリンダさんも、仕事中に後輩の前に立って、男爵をやっつけるようなかっこいいリンダさんも、とても好ましく思っているよ。・・縁があって、リンダさんと婚約することができて本当に良かったと思っているんだ。」


(気にしてるの、たぶん、気づいてくれていたんだ・・。)

フィリクスの言葉でホッとして、同時に暖かい気持ちで満たされる。


「私も。・・私もフィリクスさんと婚約できて、良かったと思っています。」

精一杯伝えれば、フィリクスがくしゃっとした顔で笑う。

リンダはその笑顔がとても大好きだ、と心から思った。


「僕達は、まだまだお互いのことを知らないから、今日みたいにいっぱい話そう。リンダさんのことも、もっと知りたいんだ。・・末永くよろしくね、リンダさん。」


笑顔で応じながら、リンダはそう遠くない将来、フィリクスと作っていく家庭のことを思った。

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