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婚約者と仲良くなる方法2

「タイトルの分からない本・・ですか。」

就業後の司書室にて。

リンダはスフィアに街で見つけた焼き菓子を振る舞いながら、相談事を切り出した。


「そうなの。フィリクスさん・・婚約者がね。昔この王宮書庫でみつけた本らしいの。ずっと気になっているそうで、今度一緒に探すことになったんだけど、どうしたら分かると思う?」


スフィアは口元にこぶしを当てて考える。

「何か特徴は分かるんですか?」


「子ども向けの絵本ではなくて、文字がたくさん書いてあって、でも表紙やところどころに描かれた絵がとても美しかったのを覚えているそうよ。あった場所は、たぶん書庫の奥の方で、本棚に囲まれるように椅子があったことは覚えているって。だからたぶん、第三閲覧室あたりかなとは思うんだけど。」


「絵の特徴は?」


「美しい女性の絵と、鳥、ですって。」


スフィアは記憶をたどるが、ピンとは来ない。


「うーん。それだけだと分からないです。実際に見た方がいいとは思います。」


挿し絵にあるからといって、その女性と鳥がメインの登場人物とは限らない。

興味はひかれるが・・

(まあ、デートの邪魔はするべきじゃないわね。)


付いていくのはダメだということくらいは、そういったことに疎いスフィアにもちゃんと分かる。


「リンダさんは、フィリクスさんの本探し、一緒にしてあげてくださいね。その日の業務は、力試しだと思って頑張ります!」

力強く請け負えば、さすがにリンダに焦りが見えた。

「いや、嬉しいけど、全部押し付けるつもりなんてないから!あくまでも仕事の一部、だからね?」


(リンダさんって、いい人なのよね。)

スフィアはにっこりしてしまう。


最近分かってきたことだが、初日に紹介された三人のうち、実務をしているのは基本的にリンダさんのみだ。

館長のサミュエルと、一緒にいた女性(サミュエルの娘のマーガレットというそうだ)は、仕事ができないわけではないが、基本的には来ないということだった。

だから仕事は今は二人だし、リンダさんがいなくなれば一人で行うことになる。


利用者が増えつつある今は、そのことがやや不安ではあった。


(それにしても・・。)

邪魔しないと決めたものの、少ない手がかりから本をみつけるというミッションは、スフィアをそわそわさせてしまう。


「あえて言うなら、棚の下半分を重点的に探した方がいいかもしれませんね。」

「あら、それはなぜ?」

スフィアは微笑んだ。

「小さい子どもの視野は限られますから。たぶんその本は、子どもの目線で手が届くところにあるのだと思います。」

リンダはフィリクスの幼い頃を想像して、思わず笑ってしまう。

「ええ、そうするわ。ありがとう、スフィア。」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「やあ。今日はよろしくね、リンダさん。」

その日、フィリクスは朝からやってきた。

爽やかなイケメンににわかに沸き立つ『彼ら』を感じ、スフィアはこっそり苦笑いする。


『少し前にきた子にちょっと似ているわ。可愛かったのよね。』

『またいたずらしたんでしょう?』

『初恋って、とっても素敵なんですもの。今でも・・。』


スフィア以外には聞こえないから咎められないが、『彼ら』の会話は賑やかだ。


反応しないようにポーカーフェイスで業務を進める。

一段落したところで、リンダがジェスチャーで、

(様子を見てきていい?)

と合図をしたので、笑顔で頷いた。


第三閲覧室の様子は、ここからでも少し確認できる。

本を確認しながら話している二人は、楽しそうで、仲も良さそうに見えた。

(デートはいい感じかな?)


彼らを邪魔しないためにも、業務に集中だ。

(うーん。でも、何か、引っ掛かるのよね・・。)

カウンターで利用者の応対をしながら、ただ、スフィアは何か大事なことを見落としているような、小さな違和感に首をかしげていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・この場所じゃないのかしら。」

一通り見てみたが、フィリクスの記憶の本はなく、リンダはため息まじりに呟いた。


「記憶も曖昧だからね。でも、なんだか懐かしくて、いろいろ思い出してきたよ。」

いつの間にか話し方から敬語が抜け、親しみのある笑顔でフィリクスが言った。

「昔はよく?」

「うん。うちは文官の家系だからね。父の調べものに付き合って、この書庫で時間を潰すことがよくあったんだ。母が早くに亡くなってるから・・。」

「そう・・。」

「でも、本はあまり得意じゃなくて。探検気分であちこちに入り込んだり、居心地のいい場所をみつけてうとうとすることの方が多かったかな。」

沈んだ空気になりそうなのを察知して、にこやかに続けるフィリクスに、リンダも笑顔で応じる。

「見つかって怒られなかった?」

「それが、一回もなかったんだ。ちょうどタイミングよく、見つかる前に戻れてね。今思うと不思議だ。」

「本当ね。」


念のために高い場所も見上げながら、確認し、二人で休憩のためにソファーに腰かける。

(スフィアは大丈夫かしら。ついつい話し込んでしまったわ。)

ふと気になってカウンターを見たリンダは、さっと顔色を変えた。


「ごめんなさい、ちょっとカウンターに戻るわ。」


リンダの目に入ったのは、厄介な利用者に絡まれているスフィアの姿だった。

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