シェリルの願い事4
話は少し、さかのぼる。
リンダが、先日退職した。
新しい職員も迎え、引き継ぎも終えた。
分かっていた期日だが、不安だし寂しい。
「大丈夫よ。フィリクスも、時々一緒に来ようって言ってくれているし、ハミルトンさんも様子を見に来てくれるって言っていたわ。転売も、ディノス元男爵が捕まったし、しばらくは安心。」
リンダは表情の暗いスフィアの頭を優しく撫でる。
(うん。笑顔で見送らなくちゃね。)
スフィアは精一杯の笑顔を見せた。
ジュードは単に睨みを効かせるだけではなく、誠実に仕事をみつけて動いてくれる。
バックヤードでの書類仕事だが、学園での成績もまずまずだったというジュードは、字が綺麗で数字にも強い。
資料の分類や台帳の管理が任せられるのは大きかった。
(シェリルも可愛いし!)
シェリルは毎日、探検と称して『精霊探し』をしている。心配なので、アウラについてもらっているが、今のところ危なげなく楽しんでいるようだ。今はまだ、それがなにを意味するのか分からないままだが。
(精霊たちが心を開いてくれて、シェリルと言葉を交わすようになったら、シェリルの力が安定して自分で使えるようになるわ。)
その第一歩として、書庫の精霊たちは最適だ。
シェリルは気づいていないようだが、すでに何人かの精霊は、シェリルとのかくれんぼを楽しみ始めていた。
・・シェリルの様子に変化が見られたのは、アウラによると、『オリオンの金時計』にシェリルが触れてからのようだ。
シェリルの魔力が目に見えて上がり、『光寄り』になった。
そして、気になることがひとつ。
シェリルは、母親からの黒いもやを見た、と言った。
スフィアには、思い当たるものがある。
シェリルに『ゲーム』を持ちかけて、送り出した一方・・。
ジュードにいくつかの質問をして、スフィアの疑惑は確信にかわる。
(それなら、もしかしたらシェリルちゃん次第で。)
思いもよらないところで、ジュードたち家族に光が射すかもしれない。
アウラは、最近やたらとシェリルに肩入れしていて、大事にしている。
少年の姿をとって、アッシュと名乗った時は驚いたっけ。
アウラとシェリルなら、見つけられるかもしれない。
かくれんぼが得意なオリオン。
『時』と『光』をつかさどる精霊。
シェリルとの相性はかなりいい。
(私は、知識があるだけ。体力も、魔力もないけれど、導くことならできるわ。)
あとは本人次第だ。
でも、とスフィアは思う。
全てが必然なら。
スフィアとであった時点でシェリルたちの運命は廻り始めている。
シェリルはきっとオリオンをみつけるだろう。
スフィアには、妙な確信があった。




