シェリルの願い事(シェリル視点)3
ふと、目が覚めたのは夜中だった。
泣きながら寝てしまったせいで、顔が熱い。
それだけでなく、呼吸が苦しくて、シェリルは身じろぎをした。
母はまだ眠っている。
だが、苦しそうな顔をしていて、安眠とは言えなさそうだった。
そして、それよりも。
(くろいもやもや!!)
夜の闇とは違う、もっと濃い、何か。
シェリルは恐怖で動けない。
異変に気づいたのは、そうやってじっとしていたおかげでもあった。
黒いもやもやしたそれは、シェリルの方にも来るのだが、近づきすぎるとシュッという音をたてて消えてしまう。
やがてそれは、シェリルを遠巻きにして近づかなくなった。
(もやもや、いきものみたい。)
自分に触れてこないと分かったシェリルは、びくびくしながらそのもやもやに手を伸ばした。
シェリルを避けるようにもやもやが動く。
シェリルはそのまま、息が苦しそうな母をぎゅっと抱きしめた。
(もやもや、あっちにいけ!おかあさんをいじめないで!!)
ジュウ・・という嫌な音がして、黒いもやもやは霧散していく。
母の呼吸が穏やかになっても、朝がやってきても、シェリルはじっとそうしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふああああ!!」
盛大なあくびをしたシェリルを見ながらスフィアが微笑む。
「あらあら。珍しいわね。昨日は眠れなかったの?」
「うーん。・・あのね。スフィアおねえちゃん、ひみつ、まもれる?」
昼を迎えた書庫に、人はまばらだ。
スフィアは、冗談っぽく首をかしげながら、「もちろん」、とうけあう。
(スフィアおねえちゃんなら、きっとしんじてくれる。)
「あのね・・。」
シェリルが、昨夜の出来事を話し終わると。
「・・シェリルちゃん。ゲームをしましょうか。」
軽い感じで。
でも、どこか真面目な目で。
スフィアが言った。
「げーむ??」
シェリルが、聞き返すと、スフィアが『ゲーム』のルールを告げた。
その数分後。
シェリルは、なぜか現れたアッシュと共に、昨日王子様とお姫様を見た第三閲覧室にいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ルールその一 シェリルは、『オリオン』を捕まえる。
ルールその二 ただし、『オリオン』が納得していなければならない。
ヒント 『オリオン』は、色んな本に隠れられるけど、好物を見つけるとじっとしていられない。
「うーん。どこだろう?」
場所は昨日、時計を見つけたあたり。
シェリルはとりあえず、本棚の下や隙間をくまなく探す。
『スフィアがゲームって言うくらいだから、きっとシェリルちゃんならできるんだよ。』
アッシュは、スフィアの友達ということで、今日は助手をしてくれている。
「きょうは、とけい、ない。」
シェリルはどうしても、昨日の時計が気になってしょうがなかった。きっと、あれは特別な何かだ。
(あのとけいにさわってから、いろんなことがおきたもの。)
「とけい。とけい。・・アッシュおにいちゃん。ちょっと静かにしてみて。」
それは、気のせいなのかもしれない、くらいの小さな音。
チックタックチックタックチックタック・・
シェリルの耳は、時計の音をとらえた。
耳を頼りにもう一度棚をたどる。
「!?」
なぜ、さっきは気づかなかったのだろう。
棚の中に一冊、変な形の本があった。
(なにかはえてる・・あれは・・あ!)
「おみみしゃん!!」
シェリルは本に飛び付き抱きしめる。
『わああ!』
高めの、驚いた声がして、本からスポッとでてきたのは、赤い目と白いふわふわの体。長い耳が特徴の小さなウサギだった。
『なに、なに、なんだよ!?』
尻餅をついたウサギにシェリルは習いたてのお辞儀をする。
「こんにちは!わたしはシェリル。あなたはオリオン?」
『な、なんで俺の名前を!』
「やっぱり!えーと。オリオン。なっとくして、わたしにつかまってくだしゃい!」
オリオンは目を剥いた。
『嫌だー!』
「あ!」
そこからは一瞬。
「きえちゃった。」
『きえちゃったね。』
捕獲作戦第一ラウンドは、あっという間に終わってしまった。




