シェリルの願い事(シェリル視点)
「ねこしゃん、ことりしゃん。いぬしゃんに、しっぽしゃん!」
「犬じゃなくて、フェンリルっていうのよ。しっぽさんは・・たぶんサラマンダーかしら?」
お父さんと来るこの本がいっぱいの建物がシェリルは好きだ。
ここでは、嘘も隠し事も要らない。
自分が見たものを共有してくれる人がいる。
「おかしなことを言うのよ。気味が悪いわ。」
「あなたたちがかまってないからじゃないの?ちゃんと子育てしなさい。」
「嘘つきには神様の罰がくだるのよ。」
頭に嫌な言葉がよみがえり、シェリルは頭をポカポカたたく。
「大丈夫!彼らが姿を見せたってことは、だいぶシェリルちゃんに心を開いてるってことだわ。」
「・・ほんとう?シェリルもおなはしできるようになる?」
スフィアは本当に素敵なお姉さんだ。
何より、今までシェリルが、見えるだけで終わりだった不思議な彼らと、話せるのだ。
「ええ。なるわ。・・そうねえ。あと見つけてないのは小さなペガサスと、あとはオリオン・・。」
「ペガサスしってる!おうましゃん!・・オリオンは、ライオン?」
「ふふ。違うわよ。でもとっても賢くて、すぐにかくれちゃうの。」
「しゃがす!」
王宮書庫での『彼ら』探しは、シェリルの任務だ。
全部見つけたら、スフィアからご褒美がもらえることになっている。
(あ、きょうもいる!)
スフィアが書庫の探検を始めると、最初に会った不思議な白い猫が現れて、ついてくる。
(やさしく、だっこ。)
乱暴な男の子たちみたいに、いたずらしたりしないのだ。シェリルは猫を抱き上げて、書庫を進む。
「ぜんぶ、みつけたら・・おかあさんなおるかな。」
楽しい気持ちの中に、ふいに不安が入り込み、シェリルは誰に言うとでもなく、それを口に出した。
「やっぱり苦労しすぎなのよ。」
「旦那が働けないからむりしたのよ。」
「子どももまだまだ聞き分けもないし、手がかかるものね。可哀想に。」
思い出すと、涙がにじむ。
大人たちは、気付かない。
大人の会話は大人にしか理解できないと思っている。
でも、シェリルには分かる。
だから、預けられるのが嫌で、でも両親に迷惑をかけるのも嫌で、ずっといろんなことを我慢してきた。
それでも。
(おかあさんがたおれたのは、わたしがききわけないせい?)
シェリルにしか見えない『彼ら』の話をしても、母は怒らない。
そんな母に甘えて、シェリルはたくさん話をしたし、いつもついてまわっていた。
母が倒れた時も側にいた。
本当に、本当に怖かった。
(おかあさん、くろいもやもやにつれていかれたら・・。)
一度だけ、見えた。
シェリルも熱を出して寝込んだときに、母から見えた黒いもや。
雲みたいなのに、どろっとしていてなんだかとても嫌だった。
父には見えていなかったし、シェリルも熱が下がってからは見ていない。
気のせいなのかもしれない。
でも、回復しない母が、心配なのだ。
(みんなみつけたら、ごほうび。)
シェリルのいられる場所。
シェリルの希望。
(・・あれ?)
部屋のすみに、見覚えのないものをみつけて、シェリルは立ち上がった。




