ハミルトンのため息6
時間に行ってみると、既に該当の人物たちが談笑していて驚いた。
面接はスムーズに終わり、一番気になるシェリル、という娘についても、問題ない、とスフィアからの伝言をリンダが伝える。
それ以外は、さすがもと騎士隊長だけあって、不審な点など一切なく。
「いやあ。騎士様クラスの方まで出入りなさるようになるとは。ぜひとも、もと部下の方にも利用してもらってください。今はあまり高貴な方はこられませんからねえ。」
唯一、サミュエル卿にイラついたくらいである。
「な(・)ぜ(・)か(・)いつも同じ人しかカウンターにおらず、人手不足は一目瞭然。これが、その解消になればよいですね。」
やや、強調気味に言うと、サミュエル卿も口をつぐんだ。
(自覚、あるんじゃねえか。)
雇用契約をつつがなく終えたことをラルフローレンに、報告にいく。
「さすが、仕事が早いね。これで一安心だ。」
意外なことに、ラルフローレンはそれだけ言うと、すぐにその場を終えてしまった。
後で聞いた話によると、その日は公爵令嬢とのお茶会だったらしい。第一王子に比べてマメなことである。
(時間が空いたな。飲みに行ける。)
ハミルトンは久しぶりにあいた予定に、フィリクスとの約束をいれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「・・そう。良かった。」
街の酒場にて。
ハミルトンは、一応眼鏡と髪型を変えて、平民の服でフィリクスと向かい合う。
「まあ、お前の婚約者は、もうすぐやめるんだろ? こちらとしては、情報はありがたかったけど。」
そう聞けば、フィリクスは、「それはそうだけどさ」、と言葉を濁した。
「やめるまでの間でも、この間みたいなことがあるのは嫌なんだよ。まあ、家にきても難癖をつける貴族とのやり取りはあるし、それは、リンダなら大丈夫だろうけど、揉めたときにさ、巡回の騎士を呼べばいい街と違って、あの場所は誰も呼べなかったんだ。」
衛兵がいる、ということで、騎士の見回りはない。
しかし、衛兵は、身分の壁で動けない。
(それにしても、恋ってのは人を変えるよな。)
フィリクスは、昔から少し人との距離が遠かった。
幼少期に母も兄も別の理由でなくしたのだから、いろいろあったのだろうが。
フィリクスが人の事情に踏み込んで心配していることに、ハミルトンはほっとする。
「それに、あの場所は、ちゃんと守った方がいいよ、兄さん。」
「ん?」
「リンダとの約束があるから、言えないこともあるけど、あの書庫とスフィアちゃんは、これから、何かすごく重要な役割を果たす気がする。」
フィリクスの「気がする」は、よく当たる。
(しかし、こいつ・・)
「約束」とは何か、は気になるところだが、フィリクスが言わないということは、今は伝える必要がないと判断しているということだ。だからそれはいい。
それよりも。
(・・いつの間に、婚約者を呼び捨てに!!)
うらやましい。
思えば書庫とスフィアに救われた一号は、フィリクスだ。
「スフィアちゃんって、司書見習いの子だよな?どんな娘なんだ?」
「・・兄さんには若すぎるよ。」
「わかってる。」
思い切り苦い顔で言ってやると、フィリクスは肩をすくめた。
「かわいくて、仕事熱心な娘だよ。今言えるのは、それだけ。」
それは、見ていたから分かる。
シェリルの面倒もよく見ていて、すぐに懐かれていた。
「俺も、相談してみようかな。」
ハミルトンは何気なく言ったのだが、フィリクスは大真面目に返してきた。
「相談したら、兄さんにもいい相手が本当にできるかも。俺、応援するよ。」
・・それは、それで、なんかムカつく。
(もうちょっと、自分で探すさ。)
そのためにも、せめて出会いがほしいハミルトンは、またもやこっそりため息をついた。




