第一章幕間 「とある少女の独白」
初めて彼を遠くから目にした時の第一印象は、普通の人とそう変わらない人というのが、少女の正直な感想だった。
賑やかなギルドの中で一人、黙々と本を読んでいた少年。
彼の周囲だけ異様に冒険者の数が少ない、という以外には特に変わった点はなかった。
少しだけ気になる、そんな感じの人だった。
けれど、少女の保護者である精霊が、その少年が色々とおかしい点があると教えてくれた。
その少年の周囲にいる精霊の数が異常に多いと。
それは少女の興味を引く要素ではなかった。保護者の精霊がもう少し近くで見たいと言ったのもあったので、少年の方に足を運んだ。
少女にとってはよくあることで、途中で他の男性の冒険者に声をかけられた。一緒に食事でもしないか、と。
もし、その声をかけてきた人が少女の興味を引くにたる人物だったなら、食事をするのも吝かではない。しかし、大抵の場合、少女にそうした話を持ち掛けてくる人というのは、そういった人ではない。
故に、その誘いは断り、目的の少年に近づいた。
少年の近くまで辿り着いて、少女はその雰囲気に驚愕した。
他の冒険者達が少年と距離をとっているのは、これが理由かと納得した。
圧倒的な負の空気、周囲の人間を拒絶する雰囲気、――濃密なまでの、死臭。
普通の少年だと思っていたが、それは大きな間違いだったようだ。
これほどまでに異常な空気を纏い、光のない目と無感情な顔をしていて、それでも平然としているように見える人は初めて見る。
この少年は今までの人達とは比べものにならないくらい、酷い状態だった。
その瞬間に、少女はこの少年を絶対に助けると決めたのだ。
この少年が囚われている闇を、この少年が抱え込んでいる闇を、――この少年のことを、知っていかなければ。
そして、その断片が見えた。
それはあまりにも惨いことで、少女の想像を絶するようなあまりにも残酷すぎることで、少女が思っている以上に、少年は壊れてしまっていた。
なのに、壊れてしまっているのに、その少年は――。
今まで何人も、この少年と同じような『目』をした人と、出会ってきた。
今まで何人も、この少年と同じような『目』をした人を、助けてきた。
今まで何人も、この少年と同じような『目』をした人を、救えなかった。
そんな人達とは全く異なる少年が、あまりにも少女の心を痛めつける。
だから、彼女は……だからこそ、彼女は……。
もし、彼が自分に生きる理由がないと言うのならば、自分がその理由をつくろう。
もし、彼が自分に生きる価値がないと言うのならば、自分がその価値をつけよう。
もし、彼が自分に生きる意味がないと言うのならば、自分がその意味を探そう。
もしそれでも、生きる理由も、意味も、価値もあったとしても、彼が意味が無いと言うのならば、無くたって生きていてもいいのだと、伝えたい。
全てを諦めて、それでも死ぬことだけは諦められなかった少年を、少女は決して見過ごせない、見過ごさない。
確かに世界には悲しい出来事が溢れている。
それを少女は身をもって知っている。
死んでしまいたくなるような悲惨な出来事を、死んでしまいたくなるような地獄のような惨劇を。
小さな絶望の積み重ねを、その人にとって最も大切な何かが失われる事が、どれだけ辛い事なのかを。
それでも、死んでしまいたくなるほど辛くても、苦しくても、――悲しくても、生きて欲しい。
だから彼女は、今の彼を殺すのだ。
辛くて、苦しくて、悲しくても、前を向いて、この世界には輝いている物が溢れているのだと、知って欲しいから。
生きて、生きて、生き足掻いて、そして――生きていて良かったと、生きていたいと、そう思って欲しいから。
ねえ、そうでしょ……、
一度きりの人生で死を願うなんて、間違っている。




