X-70話 人生の舵取り
「お主らには、客人らしいもてなしもできず、迷惑をかけたな」
「気にすることないですよ、先生。俺たちは、旅人である前に、一端の冒険者だ。そこが、どんな場所だって気にせず、その状況を楽しんで前に進むだけだから」
アルゴーの本来の集落から、少し離れたところに設けられた野営地。ユウシの手によって突如として猛威を振るった火災から逃げるように、この場所に舞い込んだ人が集まって共生している場所だ。
昼は、木々の隙間から鳥の顔が窺え、彼らの掛け声に呼応する形で時間が流れる。時折、風によって運ばれる新緑の葉と朗らかな春の陽気。それらが、人々の頬を撫で、そして髪を靡かせるのだ。まるで、集落で負った傷を毎日癒そうとしているかのように。
一変して、夜になるとその表情とは真反対の顔を浮かべる。夜の暗闇が明けるまでの、永遠の時間を埋めるように、夜行性の鳥によって返事が返ってこない鳴き声を、森に浸透させるのだ。気温も一気に下がり、もはや昼間の陽気さを垣間見える瞬間すら存在しない。あるのは、静寂に包まれ、何人からも見られない森の姿だ。
現在の時刻は、朝。まだ、日が完全に上りきってはいないから、正確には明け方と表現した方がいいだろう。ここは、夜とはまた違った静寂が森を包み込んでいた。この静寂は人々に不安を与えるものとは異なる。与えるのは、希望。行く末が分からず、真っ黒な道のりを、朝の日差しが微かにだが照らし出していた。
「目的地は決まってるの? クーリエさん?」
「決まってるさ。なぁ、ユウシ」
尋ねるコルルの質問に、俺は視線を横に向ける。その先にいるユウシに向かって、それは確かに伸びていた。まぁ、彼はそれを一目を向けることすらしないが。なんて冷たいやつなんだ!
「先生。この集落は立ち直れますか?」
「それは、ユウシ。お主が気にすることではない。なぁに、どうにかなるよ。この集落は神に認められ、才能が集う場所なんだからな」
そうですね、ユウシはそう言葉を残す。そして、くるりと野営地に向かって背中を向けた。そのまま、振り返ることなく、彼は歩き始めた。何者にも舵を任せず、自分の目的を自分の力で切り開いていく冒険を迎えにいくように。




