X-3話 終わりを告げる鐘の音
コメント、評価、ブックマークはしていただけると作者にとって大変心嬉しくなるものですので、ぜひよろしくお願いします。
この物語は、主人公ークーリエーが赤ちゃんになるまでに異世界を完全攻略します。
では、物語の世界に飛び込んでみてください!
「一つ、尋ねても良いでしょうか」
夕食が終わり、食べ切れるか不安視される程てんこ盛りに盛り付けられたはずの料理の皿だとは思えないほど、綺麗に跡形もなかったかのようにその中身を空にし食卓の上に並んでいる。これを片付けるための作業を手伝いながら、皿の上に食べるときに用いたスプーンなどを乗せた状態で、両手で2枚同時に台所に運んでいた父親に声をかける。
「なんだろうか、何か生活する上で不便なことでもあっただろうか?」
スプーンやフォークがすでにシンクに置かれていた食器とぶつかり合い、金属音をかき鳴らしながら乱雑にそれらの隣に置かれる。
「いえ、不便なことは何一つないですよ。こんな大怪我をした自分の看病までしてくれて、かつ食事までお世話になっているのですから。感謝しかありません」
「では、何かな?」
低く、でもどこか畏怖してしまうような強みのある声でこちらをまっすぐに見つめる。その目線から思わず視線を逸らしてしまいそうになるが、なんとか寸前のところで踏みとどまる。
「大したことじゃないのですが、あの食事が始まる前の一連の行動はなんなのかなって最初に聞いた時から疑問に思っていまして。俺が幼い頃にこの土地で暮らしていたときはそのような文化というか習慣はなかったもので、いつ頃からどのような経緯で行われるようになったのかなって」
質問に答える前に、顎で手に持っていた食器をシンクの中に置くように促される。それに従い音がならないように気を使いながら食器を置くと、父親は一気にシンクに備え付けられた水道の蛇口を開いた。閉ざされいた門が開けられ、水は激しい音を立てながらシンク内へと流れ落ち、食器にぶつかると同時に水飛沫として多岐の方角に飛び跳ねていく。
「君がここで生活をしていたのはおよそ20年ほど前だと言ったね」
食器に手を伸ばしながら、泡のついたスポンジを片手に持ちながら父親は重そうにその口を開いた。そこには、どこか言いづらいことを今から話し始めるかのような雰囲気が立ち込めている。
「はい、そうです。ちょうど10歳になった頃だったと記憶しています」
「うん、そうだな。じゃあ、その頃にはなくて、今はあるものがあるだろう。なんだと思う?」
しばらく顎に手を当て考え込み、ゆっくりと思いついた答えを口にする。
「——ウェルム教の教会ですかね。昔も教会はありましたが、もっと小さくて宗派もそれではなかったと記憶しています。アンディー牧師は昔から教会で働いていられたのでこの変化を思い出すのにしばらく時間がかかりました。でも、変わらずこちらにいらっしゃるようですが」
父親は蛇口を捻り、流れ落ちる水を止める。途端に静かになるが、彼の手にはまだたくさんの泡がついており、洗わなければならない食器もまだ複数枚残っているように見えた。だが、彼の目線はこちらを見つめてはいない。付け加えるなら、食器すら見ていないように思える。焦点の合わない目でただ何かをじっと見つめている。
「それが私たちが行なっている—— 一連の行為の経緯だよ」
「いや、ちょっと答えになっていな——」
ドゴォォォォ!!!!!!!
凄まじいほどの音を立て、視覚にも捉えないほどの速さで何かがこの家の天井を貫いて侵入してくる。
それは、この幸せな時間が一瞬にして壊れたことを伝える終焉の始まりを告げる音でもあった。何故何者かの侵入が分かったかというと、音と共に家中を物体が地面に着地することで生じる衝撃波が俺をいやこの家全てを襲ったからだ。一瞬にして今まで見ていた景色が一変する。激しい音は衝撃波の後も家具やその他物品が壊れ続けているため依然として鳴り止むことを知らない。
先ほどまで皆で食事をしていたテーブルも吹き飛ばされ今では壁に突き刺さっている。そこには以前の原型はなく、ただ木材の破片が壁に亀裂を生み出している。ほんの数時間前のあの温かな食事が嘘のように思えるほどの惨劇がそこには広がっていた。そんなこと言う俺も立っていた場所から一気に壁にまで吹き飛ばされ、思い切り頭と壁が衝突する。壁に衝突の勢いからかピキピキと音をたて亀裂が縦に走る。鋭い痛みがすでに負っている傷と相まって襲いかかってくるがそんなことはどうでもいい。
「何が起きたんだ!? お父さんは大丈夫ですか??」
シンクがあった方に目をやる。だが、そこにあった景色は一度で完全に視認できるほど甘いものでもなかった。光源が全て吹き飛び部屋から明かりが奪われ、夜の暗闇が家中を覆っており状況を確認するのが困難であることも十二分にその要因としてあるが、何よりそこにあったはずのシンクが俺から少し離れた壁を突き抜けて外にまで飛ばされており、辺り一面シンク内の食器やらその後ろに設置されていた食器棚に入っていたものが破壊された残骸が散らばっている。ただでさえ視界が悪いのに、それを遮るものも多く地面に向かって倒れ込んでいた。それでも何度も強く瞬きをしながら父親の姿を探すが、そこにはいなかった。
「お——」
「父さん!父さん、しっかりしてよ!!」
泣き喚く甲高い声が俺の鼓膜をビリビリと震わせる。その声は上澄み、呼吸も大きく荒れている。だが、一瞬たりともその呼びかける声をやめようとはしない。精一杯の力を振り絞り意識をこちら側の世界に戻そうと試みている。天井が大きな音を立てながら崩れ落ち、地面に落下するや部屋全体を埋め尽くすほどの砂煙を巻き起こす。声は聞こえてはいるが、それがどこから発されているのかこの暗闇の中では見当が付かない。
かつてリビングだった場所からゆっくりと倒れていた身体を起こし、隣の壁の穴から外へと重い足取りで抜け出す。外にはこの大きな物音を聞いて駆けつけてくれた周りの住民の姿がうかがえた。その格好は皆他所様に見せるようなおしゃれを詰め込んだ服装ではなく、家の中でのみ着られる服装姿なのがいかにこれが異常事態であるのかを物語っていた。




