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女神様の赤い糸  作者: もも野はち助
【本編】

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8/17

8.糸の効果

※青虫が出てくるので虫嫌いな方は、ご注意ください。

 エルネスト家を初めて訪問してから一週間後。

 シャーロット達は、縁談と称して再びエルネスト家へと向かっていた。


 だが二人が、エルネスト家を訪問する日は毎回週末のみだ。

 その理由として、現在のエルネスト領内の事業関連の処理は長男ではなく、次男のクラウスが行っている事が影響している。

 そしてその長男は現在、父であるエルネスト伯爵と共に王都の別宅に滞在しており、新たな取引先ルートの新規開拓や、代々王家より任されている織り機の性能向上に関して、研究事業の進捗管理などを携わっているらしい。

 その為、領地に不在の父や長男に代わって領内の管理を行っているクラウスは、週末ぐらいしかシャーロット達をもてなす時間が取れないのだ。


 しかし前回クラウスから、アデレード家との縁組にはあまり前向きではないと聞かされていたシャーロットは、この交流の意味を見出せないでいた。

 父親であるエルネスト伯爵と不仲なクラウスは、自分が父親の道具として扱われる事にかなり抵抗を感じるらしい。

 それなのに何故、この縁談と称した交流を続けるのだろうか……。

 そんな事を考えながら姉の様子を窺うと、珍しく浮かれた様子を見せている。


 先週エルネスト家を訪れてから、何故か姉の様子が少し変わった……。

 この一週間の姉は、急に自分の身なりを気にし出したり、幸福そうな表情で窓の外をぼぉーっと眺めていたり、以前あまり読まなかったロマンス小説を読み出したり、分かりやすいほど恋する乙女のような状態となっている。

 今日など着ていくドレスに一時間以上も迷い、髪型も二回も変更していた。


 今までクラウス以上の素敵な男性が、何人も姉に声を掛けてきたはずなのだが……どうやら姉は、すっかりクラウスに心を奪われてしまったようだ。

 そうなると前回訪問した際にあの書斎で、姉の心を鷲掴みにするような何かをクラウスが、行ったという事が考えられる。

 だが、その事を姉から聞き出そうとしても上手くはぐらかされてしまう。


「お姉様……そんなに今日、エルネスト家を訪問する事が楽しみなの?」

「ええ! だって途中になってしまった本の続きを早く読みたいもの!」


 だが姉が浮かれているのは、別の理由だとシャーロットは勘づいている。

 一体あの掴みどころのない令息は、姉にどんな魔法を掛けたのだろうか……。

 シャーロットに対しては、呪いのような小言しか言わなかったのに。

 そう思ったシャーロットは、モヤモヤした気分で自分の小指を見つめる。

 その小指の赤い糸は、現在向かっている方向へとピンっと糸を張っていた。


「いっそ、切ってしまおうかしら……」

「何を切るの?」


 思わず口に出してしまった言葉を姉に拾われ、慌てて口ごもる。


「えっと……そろそろ前髪を切った方がいいかなぁーと思って!」

「シャルは、いいわね。このサラサラの真っ直ぐな髪なら、こうやって前髪を作ってしまっても綺麗にまとまるから……。私の髪は少し癖があるから、前髪を作ってしまうと、手入れが大変なの」


 そう言って妹の前髪を優しく撫でる姉の表情は、いつも以上に優しげだ。

 ただこういう風に容姿の事を言い出す姉は、本当に珍しい。

 昔から容姿の事で不満を漏らすのは、いつもシャーロットだったからだ。


 お姉様のような天使みたいなフワフワの髪に生まれたかった。

 お姉様の愛らしい唇と薔薇色の頬は、本当に綺麗。

 お姉様の綺麗な形の眉とフサフサの睫毛は、神様の最高の贈り物だと思う。


 幼い頃から出掛ける前に身支度をする姉の横で、シャーロットは毎回そのように姉の優れた容姿を賞賛し、羨ましがり、そして憧れを抱いていた。

 だが今は、それが逆転している。

 それだけ現在、姉は自身の容姿を気に掛けているという事になる。

 少し前は、この完璧すぎる自身の容姿を鬱陶しく思っていたはずなのに……。


 だがここ最近の姉は、何故か自分を着飾る事へ、少しだけ興味を見せている。

 そんな姉と最近の流行の服装などの会話をしていたら、あっという間にエルネスト家の門が見えてきた。すると姉の瞳がキラキラと輝き出す。

 だがシャーロットは、急激に変化した姉の様子にかなり戸惑っていた。

 そしてその元凶なのが、この男である。


「ようこそおいで下さいました。セルフィーユ嬢。シャーロット嬢」


 前回と同じ客間に通されると、すぐにクラウスが柔らかい笑みを浮かべながら入室してきて、歓迎の言葉で出迎える。

 そんなクラウスに姉は、薔薇色の頬をさらに美しく染め上げ微笑む。


「セルフィーユ嬢、いかが致しますか? 先に軽くお茶でもされてから、書斎にて読書を楽しまれますか?」


 姉の書斎行きが、すでに前提とでも言いたげにクラウスが提案する。

 そもそもクラウスは姉が読書中の間、シャーロットにはチーズケーキを与えておけばいいとでも思っているのだろうか……。

 その考えが生まれてしまったシャーロットは、キッとクラウスを睨みつける。

 その視線に気付いたクラウスが、敢えてニッコリと笑みを深めて返して来た。


「もしセルフィーユ嬢の読書欲が押さえられないようであれば、早々に書斎の方にご案内致しますよ? もちろんその間、シャーロット嬢には我が家の自慢でもある中庭をご案内させて頂きますが」

「あの……ではお言葉に甘えて、すぐにでも書斎の方にご案内頂けますか?」


 その姉の言葉にシャーロットが、目を大きく見開いて驚く。

 今まで姉が、赤の他人に対して自己主張する姿など見た事がなかったからだ。

 そもそも姉は家族にすら遠慮し、常に自分よりも周りの意見を立てる。

 そんな姉の要望にクラウスが目を細めて微笑んだ。


「では書斎にご案内致します。シャーロット嬢は少々お待ち頂けますか?」


 するとシャーロットが、その手には乗らないとばかりにスクっと立ち上がる。


「お姉様! わたくしもご一緒したいのだけれど……」


 恐らく姉がクラウスに懐柔されたのは、あの書斎で過ごしている時だ。

 だったらその原因を探ってやろうと、シャーロットはあどけない笑顔を貼り付け、懇願するように妹特有の上目遣いを姉に発動する。

 そのシャーロットの様子に二人は一瞬、キョトンとした。

 恐らくクラウスがそれを阻止しようとしてくるだろうが、今回は絶対に引っ付いて行こうと決意していたシャーロット。

 しかし……それは、予想外の相手から阻まれる。


「シャルは堅苦しい本は苦手でしょう? そこの書斎には、あなたの好きなロマンス小説は一冊もないのよ? それよりもあなたは、お庭を見学させて貰った方が楽しいかと思うのだけれど……」


 何と姉セルフィーユが、シャーロットの書斎行きを阻んできたのだ。


「で、でも! ご自慢の書斎なのでしょう!? 私も拝見してみたいわ!」

「だけど……本当に詩集や純文学の作品しかないのよ? あなたはそういう本を読むと、すぐに眠くなってしまうでしょ? ご訪問先でお昼寝してしまうような事になったら、ご迷惑になってしまうわ」


 その言葉に姉の後ろで控えるように立っているクラウスが、吹き出しそうになって何かを堪えている姿が目に入った。


「お、お姉様! 私、そんなすぐには眠ったりはしな……」

「でも以前、クレイモンドの詩集を貸してあげたら、三ページも読んでいないのにスヤスヤ眠ってしまったじゃない」


 その話にクラウスが、更に小刻みに震え出して完全に笑いを堪えている。

 そんなクラウスに怒りを覚えながら、シャーロットが真っ赤になって叫んだ。


「お姉様!! それ、今言わなくてもいいでしょ!!」

「だって……興味のない本を読むより、お庭見学の方があなたには楽しいはずなのに……必死でわたくし達に合わせようとしているから」


 その姉の言葉にシャーロットが、グッと口を(つぐ)む。

 確かに姉が好んで読む純文学や詩集の本は、開いたら三分以内に熟睡出来る。


「シャーロット嬢。姉上のご助言通り、中庭の見学になさいませんか?」


 瞳の端に薄っすら涙を浮かべながら、クラウスが姉の援護射撃をしてきた。

 その必死に笑いを堪えている様子が、ますますシャーロットの怒りを(あお)る。


「シャル。背伸びしないで、お庭のご案内をして頂きなさい?」


 優しく諭すような姉のその一言で、ついにシャーロットは項垂れ、折れる。

 そんなシャーロットを残し、二人は書斎へと向ってしまった……。




 それから十分もしない内にクラウスが戻って来て、現在その自慢でもある中庭を案内して貰っているのだが……。


「ぶっは! あはははは! 三分!? 純文学を読むと君は三分で眠れるの!?」


 先程から隣を歩いているクラウスが、姉の話を思い出しては瞳の縁に涙を浮かべ、お腹を抱えて大爆笑している。

 そんなクラウスをシャーロットは、射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけた。


「仕方ないでしょ!? ああいう作品、ちっとも面白くないのだもの!!」

「そうかなぁ。結構深い事が書いてあるし、情景描写や心理描写が繊細で、読むと心に響く作品が結構あるよ?」

「そういう複雑な描写をしている文章が、よく分からなくて面白くないの!!」

「シャーロット嬢は、まだまだ子供だねー」

「どうせ私は、夢見がちなロマンス小説しか読めない人間よ!!」


 すっかり機嫌を損ねてしまったシャーロットの様子にクラウスが苦笑する。


「まぁ、そんなに怒らないで。ほら、あそこが我が家自慢の薔薇園だよ?」

「薔薇園って……伯爵家以上のお屋敷では、そこまで珍しくないのでは?」

「うちの薔薇園は特別だから」


 クラウスに促されて目の前のガーデンアーチをくぐると、そこには色々な種類の白薔薇のみが咲き誇っていた。


「凄い……。これ全部、白薔薇なの!?」

「うん。母が凄く白い薔薇が好きでね。もう亡くなって十五年近く経つけれど、これだけは人間味のない父が珍しく拘って維持しているんだ」

「人間味が無いって……。亡くなられたお母様の好きだった薔薇園を大切になさっているのだから、十分人間味があると思うのだけれど……」

「人間味がある父親なら、病弱な十歳にも満たない長男を遠くの叔母の元へ追いやったりはしないよ?」


 そう言って、やや意地の悪い笑みを浮かべてきたクラウスの様子から、エルネスト伯爵の話は掘り下げない方がいいとシャーロットは判断した。

 だが、そうは言っても本当に管理が行き届いた見事な白薔薇園だ。

 これだけ手入れをされているのだから、クラウスの両親はかなり仲睦まじかったのではないだろうかと、シャーロットは思ってしまう。


 そんな事を考えながら、見事に咲き誇る白薔薇を眺めていると、その場所で少し浮いた存在の一本の木が、シャーロットの目に入って来た。


「ああ。ローレルだね。何故か分からないけれど、母が亡くなった後に父が植えるよう庭師に指示したらしい」

「ローレルを?」

「自分が好きな木だから、母の庭に植えたかったんじゃないかな? 母に対しては、一応人間らしい感情を抱いていたみたいだし」

「抱いていたみたいって……」

「母が亡くなったのは、僕がまだ四歳の頃だから、あまり記憶がないんだ。だから父が母にどのように接していたか覚えていないんだよ」

「そう……なの……」


 やや気まずそうにシャーロットが、そっとそのローレルの木に手を伸ばす。

 しかし、そこである物を目にしたシャーロットは、ニヤリと笑みを浮かべた。

 そして先程、散々笑われた仕返しをしてやろうと、ある事を企む。


「そういえばクラウス様は、我が家の養蚕業がどういった内容かご存知?」

「もちろん。蚕の繭を紡いで絹糸を生産しているんだろう?」

「ええ。そのお蚕様をご覧になった事は?」

「いや、ないけれど……」

「もし我が家に婿入りなさるお考えがございましたら、お蚕様にも慣れて頂く必要がございます。わたくしにとってお蚕様は、とても愛らしいお姿と感じますが……。見慣れていない方にとっては、なかなか衝撃的なお姿に見えてしまうようなので」

「何故、急に丁寧な口調に? シャーロット嬢、少し不気味だよ?」


 怪訝そうな表情で、失礼な事を言って来たクラウスの言葉をサラリと聞き流したシャーロットは、ローレルの木の前からそっと右側にずれる。

 すると、先程までシャーロットが目を向けていたローレルの葉の上に丸みを帯びた愛らしい姿の青虫が、ちょこんと乗っていた。


「コモンブルーボトルの幼虫だね……」

「お蚕様は、ちょうどこの青虫のような愛らしいお姿をしておりますの。もちろん、我がアデレード家にクラウス様が婿入りするような事があれば、領内の視察の際は、当然お蚕様に触れて頂く機会があるかと思いますが……。多くの殿方はそのお話をすると、青いお顔をなさって逃げて行かれるのです」

「なるほど。毎回そうやって姉上に群がる害虫駆除をしていたのか……」

「害虫駆除だなんて人聞きの悪い。これぐらい触れられないようであれば、我が家の次期領主など務まらな……」


 シャーロットが言い終わらない内にクラウスは、無言でスッとローレルの木に近づく。そしてムニュッと、その青虫を左手の四本の指で軽く摘まみ上げた。

 その行動にシャーロットがギョッとする。


「シャーロット嬢。僕はこう見えても幼少期は、かなりやんちゃな子供でね。よく庭に集まる虫を捕まえては、寝たきりの兄に見せびらかしていたんだ。君の姉上の周りに集まっていた箱入り令息には無理だろうけれど……僕は、こういうのに触る事は、案外平気なんだよね?」


 そういってニコニコしながら、ムニュムニュ動く丸いフォルムの青虫を摘まんでいるクラウスの様子から、何故かシャーロットは嫌な予感を抱く。

 その青虫を摘まんでいる左手の小指には、自分と繋がっている赤い糸が、しっかりと結ばれていた。

 だがその赤い糸で繋がった相手は、何とも言えない不穏な空気をまとっている。


「もちろん、お蚕様に触る事が出来るシャーロット嬢も平気だよね?」


 そのクラウスの言葉にシャーロットが、ビクリと体を強張らせる。

 蚕に関しては、物心付いた頃から身近な存在だった為、もちろんシャーロットは平気で触れるし、掌に乗せて愛でたりも出来る。


 しかし……それ以外の虫に関しては、シャーロットは苦手なのだ……。

 視界に入れる事は苦ではないが、触れる事は絶対に無理だ。

 しかし目の前でニコニコしているこの男は、シャーロットがもっとも恐れている事を企んでいるように見える。

 それを感じ取ってしまったシャーロットは、思わず一歩後ろに下がる。


「君も……手に乗せてみるかい?」


 そう言って、クラウスがジリジリと近づいてくる……。

 その行動にシャーロットは、背中をゾクリとさせて更に後ろへと下がった。

 しかしクラウスは極上の笑みを浮かべながら、青虫をシャーロットに向けて、更に距離を縮めてくる。


「嫌ぁぁぁぁぁぁ~!! こっち、来ないでぇぇぇぇ~!!」


 慌てて逃げようとしたシャーロットは、自分の足に絡まり転びそうになる。

 するとクラウスが、虫を摘まんでいない方の手で、シャーロットの左手を素早く掴んで引っ張った。

 その引っ張られる反動で、シャーロットは体勢を立て直し転ばずに済む。


「人に嫌がらせをしようと企むから、こういう目に遭うんだよ?」

「私がお蚕様以外の虫はダメだって、知っていたわね!?」

「知っていたと言うか……大抵の女性は普通、虫全般が苦手だろ?」

「でもお蚕様が平気なのだから、普通その事には気付かないでしょ!?」

「でもやっぱりお蚕様以外の虫は、苦手なんだよね?」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、確認してくるクラウスをシャーロットは涙目で睨みつけた。

 そんなシャーロットの手を放し、クラウスは再びローレルの木の方へ向かう。

 そして摘まんでいた青虫を優しく、その葉の上に戻した。


「この青虫は成虫になると、黒地に螺鈿(らでん)みたいな青緑色のラインの入った、とても美しい蝶になるんだよ」

「そうなの?」

「そもそもさっき僕が、この青虫の名前を呟いた時点で、虫に詳しいのだから平気だって気づかなかった?」

「そ、そう言えば……」


 またいい様にやり込められてしまったシャーロットが悔しそうにしていると、少し悲しげな笑みをクラウスが向けてきた。


「この庭にいる大抵の生物は、幼少期の頃に観察済だよ。なんせずっと寝たきりで自室から出られなかった兄に少しでも外の世界の物を見せてあげたくて、よく捕まえたりしていたから……。虫もそうだけど、花等の植物とかもね」


 クラウスがそう呟きながら、先程ローレルの木に戻した青虫に目を向ける。

 その言葉から何となくシャーロットは、自分の姿を重ねてしまった。

 幼少期のシャーロットもクラウスと同じ想いを抱いた事があったからだ。


 容姿に恵まれ何でもできる姉セルフィーユは、同年代の子供達の間では敬遠され、孤立する事が多かったのだ。

 その時はまだ幼かったシャーロットだが、そんな姉の寂しそうな様子を見ると、何故か酷く心が痛くなった。だから少しでも姉の寂しさを無くそうと、幼少期は過剰に姉にまとわりついていたのだ。


 同時にその素晴らしい姉が、遠巻きにされる状況にも疑問を感じていた。

 やがてそれは成長する中で、受け入れようとしない人間に対する不満となる。

 今でも姉に嫌味を言ってくる令嬢達には、真っ向勝負なシャーロットだが、恐らくクラウスの場合、その相手が父親であるエルネスト伯爵なのだろう。


「クラウス様は、本当にお兄様の事が大好きなのね……」


 そのシャーロットの言葉にクラウスが、珍しく驚いたように目を見開く。

 だがそれは、すぐに困ったような笑みへと変わっていった。


「姉上を慕い過ぎて番犬とまで呼ばれている君から、そういう言葉を掛けられると、何だか複雑な気分になるのだけれど……」

「それ、どういう意味!?」

「そうだなぁ。同類とは思われたくないって意味かなぁ」

「わ、私だってあなたと同類って思われたくないわ!」


 不機嫌そうにシャーロットがツンっとそっぽを向くと、クラウスが苦笑した。


「でも……確かに僕は兄の事が好きではあるけれど」


 そう言って今まで一番の柔らかい笑みを向けてきたクラウスの様子にシャーロットが、一瞬息を呑む。

 同時に自分の中でのクラウスの印象が、大分変わってしまっている事にも気付いてしまった……。そしてその気付きが、シャーロットを深く動揺させる。


「シャーロット嬢?」


 急に固まる様に動きを止めてしまったシャーロットを不思議に思い、クラウスが様子を窺うように呼びかけてきた。

 だがシャーロットはクラウスに名前を呼ばれた途端、心臓が跳ね上がる。


「あ、あの! そろそろお姉様もお呼びして、お茶でも……」


 急に慌て出したシャーロットの様子に怪訝そうな表情を浮かべたクラウスだが、確かにそろそろお茶の時間ではあった。


「そうだね。戻ろうか?」


 そう言って、シャーロットを連れて屋敷の方へと歩き出す。

 しかしその後に続くシャーロットの足取りは、やけに重かった……。

作中に出てくるコモンブルーボトルという蝶は、別名アオスジアゲハという蝶で、日本でも5月くらいから、その辺をよく飛んでいます。

作者も虫は大の苦手なのですが、この蝶の幼虫はちょっと可愛いと思ってしまう程、丸っこいフォルムの青虫です。(でも触るのは絶対、無理!)

ですが、虫嫌いの方は興味本位で画像検索しない方がいいです。(^^;)

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