第90話 職人科の子供たち
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清十郎はクマの子亭でランチを済ませると学院に戻り職人科の工房に向かうと扉の前でヘレンがすでに待っていた
「ヘレン殿済まぬ。またせてしまったかのう」
「いえ。大丈夫ですよ。では清十郎先生、中で生徒たちに紹介しますね」
ヘレンはそう言いながら工房の扉を開けて中に入ると部屋の中ではすでに生徒たちが作業台を前に座って待っていた。その一番前に生徒たちと向き合う形でヘレンは立ち清十郎もその横に並ぶ。
「はい。みなさん、今日は皆さんに指導していただける教官をお連れしました」
ヘレンが清十郎に目を向けると生徒たちからざわつく声が聞こえてくる
ほとんどが清十郎の外見からこんな子供が?という声だ
「うむ。いまヘレン殿が申した通り皆を指導することになった清十郎という者じゃ。よろしく頼む」
その瞬間、ざわつきは嘘のように静まり返る
はてと清十郎が思っていると一人の生徒が手を上げた
作業服を着た赤毛を三つ編みにした女生徒だ
「ふむ。そこの者なんじゃ?」
「はい。私の名前はルルと言います。清十郎教官はワーラスの英雄様ですか?」
目を輝かせ聞いてくるルルに清十郎はまたもでてきた英雄と言う言葉に小首を傾げる
「英雄とは先ほども言われたが儂自身はまったく身に覚えがないのじゃが何のことじゃ?」
「え?ちがうんですか?ワーラスの村でアンデッドの大群を相手にし王女様をお救いした
冒険者が清十郎と言われる方なのですが・・・」
そこで今まで言われてきたことがだんだんと見えてきた気がした
その瞬間、清十郎は眩暈に襲われる感覚に陥った
「わ、儂、いつの間にかそんなものに祭り上げられておるのか・・・」
「せ、清十郎先生、大丈夫ですか?」
壁に手をつきもう片方の手で目を抑える清十郎にヘレンが心配そうに声をかける
「う、うむ。突然のことで眩暈を覚えただけじゃ。しかしそのようなものに・・・」
「ということはワーラスで戦われたのは間違いないんですね!」
ルルの大きな声が室内に響くと教室は大歓声に包まれた
さて、どうしようかと迷っているうちにすでに確定事項となってしまったため清十郎はため息を吐く
「はぁー。皆の者静かに!」
清十郎のその外見からは出るとは思えない重厚感のある声に騒がしかった室内が静かになる
「たしかに儂はワーラスで戦いはした。じゃがここでは英雄ではなく教官じゃ!お主たちが職人として学ぶ気がないというならば儂は帰るぞ」
そこまで清十郎が言ったところでヘレンが声をかける
「みなさん、ここにおられるのはみなさんを職人として指導してくださる教官です。決して英雄としてお招きしたわけではありません。よろしいですね」
ヘレンが諭すと全員が首を縦に振る
「うむ。わかってくれたならそれでよい」
清十郎の声音が普通にもどったことで生徒たちが安堵の胸をなでおろす
「よし、ならさっそくみなの作業を見せてもらいたい。今、自分が作っているものをぜひとも
儂に見せてほしい」
生徒たちは声がかかると一斉に自分の作業台の上に作り上げているものを取り出し置いた
それらを清十郎はひとつひとつ見て回っていく
「ふむ・・・」
清十郎は生徒たちの作る各々の作品を見て眉間にしわを寄せる
「みんなは今までどういう風に教わっておった?」
「はい。教官がおられませんでしたので各自、独学でやっておりました」
ルルが代表して答える。おそらく彼女がこのクラスのリーダーなのだろう
「それでか・・・」
「何か問題でも?」
難しい顔をする清十郎にヘレンが心配そうに声をかける
「まず、基本がなっておらん。すべての作品がひどいものじゃ・・・」
清十郎のつぶやきに教室の生徒たちから驚きの声があがりやがて怒りの声となる
「せ、清十郎教官といえど言いすぎです!」
ルルが思わずといった感じで声を上げる
「ふむ。ルルといったな。そなたの作品を前に持ってまいれ」
清十郎の言葉にルルが自分の作品を言われた通りに持ってくる
ルルが作っているのは花柄の指輪だ。彫金技術で彫りを進めているが作品の完成度は非常に甘くいたるところにヤスリがけの甘さが滲み出ている。透かしについても中途半端で花が際立たずとても清十郎の目に適うものではない
「そなたの作品は相当ひどい。これでは作品が泣いておるぞ」
「なっ!これはきっと高くなくても売れる作品のはずです!」
「なら、ヘレン殿に価値を見定めてもらおう。それならばわかるであろう?」
そういって清十郎はヘレンに目配せする
ヘレンはうなずくと様々な角度からルルの作品を見ると首を振る
「まったくと言って価値がありません。ルルさんこれではだめですよ」
「そ、そんな・・・」
少しは自信があったであろう。涙目になりながらヘレンを見るが結果は変わらない
「さて、それではここからが授業じゃ。みなのもの前に来ると良い」
清十郎はそういうと生徒たちを前に集めると生徒に道具をもってこさせる
「今から、このルルの作品に手を加える。よく見ておるのじゃ良いな?」
そういうと清十郎はルルの甘かった部分に素早く手を加えていく鏨を使い彫りが甘いところは
より深く掘りすぎたところはヤスリを使い大胆に削り落とす。打ち出しが甘いところは鏨で細かく打ち出してきぱきと作業をこなしていく
あまりの速さと的確さに生徒たちは声も出ない。作業すること1時間ほどでルルの指輪は花を強調した見事な作品に生まれ変わった
唖然とする生徒たちに清十郎は苦笑いを浮かべると柏手を打つ
その音で正気に返った生徒たちは清十郎見つめる。もうその目に清十郎を侮る色はない
「さて、ヘレン殿、この指輪にいくらの価値をつける?」
清十郎に言われヘレンも正気に返ると慌てるように指輪を手にとり様々な角度から品を見定める
「大銀貨3枚はつくかと・・・」
その瞬間、教室中がざわめく
「まあ、儂も値段のつけ方についてはよく知らぬがこれが売れると自信を持って言えるぞ」
「私の作品が大銀貨3枚・・・」
茫然とし呟くように自分の作品を手にとり見つめるルル
「よし、みんな席に戻るのじゃ。これからは儂がしっかりと指導してやるでな。安心いたせ」
清十郎はそう言いながらルルの頭を優しくなでるように叩くと生徒たちに向かって笑みを向けるのだった
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