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第9話 異世界人という事実

 清十郎が紅茶を飲み一息ついたところで扉がノックされる


「ウェインだ。入るよ」


 扉が開きブロンドのの髪で整った顔立ちの長身の細身の男が入ってきた。その目は開いているか開いていないかわからないくらい細い。先ほどまでのプレートアーマー姿ではなく上品な白のシャツに紺のズボン姿だ


 ウェインは入ってくると清十郎の対面のソファーに座る。それに合わせてイリアが紅茶をウェインの前に置いた


「清十郎殿、待たせたね。食事は口にあったかい?」


「ウェイン殿、これほどの饗応を受けるとは思わなんだ。本当に感謝の念に堪えぬ」


 清十郎そういうとウェインに頭を下げる


「はは。清十郎殿はまじめだね

 これはアンガスたちを助けてもらった礼だし、満足してくれたならよかったよ

 さあ、もういいから頭をあげてくれないかな」


 ウェインはにこやかに答えると清十郎の頭をあげさせる


 清十郎が頭をあげるとそのタイミングを見計らってイリアが淹れ直した紅茶を差し出す


 ウェインと清十郎は紅茶に口をつけてから一息つくとウェインが口を開いた


「さて、清十郎殿にはいろいろ聞きたいことがあるんだがいいかな?」


「構わぬぞ。なんでも聞いてくれ」


「そう言ってもらえると助かるよ。実は、エリザからある程度、話は聞いていてね」


 清十郎の頭に長身の銀髪の笹穂の女性が浮かぶ


「ふむ。たしかエルフとかいうおなごであったな」


「うん。彼女が組んでいる精霊の宴とは僕も付き合いが長くてね。エリザも友人なんだ。まあ、その話はおいおいするとして・・・」


 そこでウェインは居住まいをただし先ほどまでのにこやかな雰囲気から真剣な雰囲気に変える


「清十郎殿は別の世界から来たのは本当なのかい?」


「ふむ・・・エリザ殿はそのように?」


 ウェインの頷く様子を見ると清十郎は紅茶を口にすると続きを話す


「儂もそう思う」


「思う?」


「儂もわからんのじゃ。死んだと思ったらあそこにいたんじゃからな」


「うーん・・・。話が見えないな。なら清十郎殿、生まれから順に教えてくれるかい?」


 ウェインは腕を組むと清十郎に話をするように促す


 清十郎はうなずくと前世の話からこの世界に来て今に至るまで事細かにウェインに話した。かれこれ1時間以上は話していただろうか。ウェインは清十郎の話を静かに聞き続け聞き終えるとほぅっと息を吐いた


「・・・うん。今の話を聞いた限り清十郎殿、君は間違いなく異なる世界から来た者、異世界者だ」


 ウェインは冷めた紅茶に口をつけるとそれを気にせずそう言い切った。清十郎はそうだろうなと思った。すでにオーガやゴブリンといった前世ではみたことのないものやエリザが使っていた精霊魔法とやらを見ているからだ


「ただ、ここ100年ほどはいなかったはずだし清十郎殿のように若返っていきなりこの世界で立っていた。なんて話は初めてきいたけどね」


「うむ。わしも若返るとは思わなかったな」


 ウェインと清十郎はどちらかともなく笑いだす。しばらく笑う合うと再びウェインは真剣な雰囲気で話を始める


「清十郎殿、これからはその話は一切、誰にも話してはいけない。もちろん、アンガスやエリザ、トドル達には口止めをしておく」


「なぜじゃ?」


「疑問に思うのはわかるよ。ただこの国、いやこの世界は異世界者を非常に重要視してるんだ。過去、異世界たちは例にもれず格別した力を持っていてね

 人類存亡の危機に現れて元凶となった魔王を倒したり乱世の時代にあらわれた時には数多の国を滅ぼして帝国を築いたりね。もちろん寿命があるからすでにみんないないけどね」


「ふむ・・・。ウェイン殿の言うことは分かった。これからは儂の身の上の話は一切しないでおく」


「そうしてくれると嬉しいかな」


 ウェインは考えこむように頤に手をやりちらりと清十郎をみると一つの例を話す

 その細い目はなんとなくイタズラ気に笑っている気がする


「例えばある国に知られると清十郎殿は一生涯祭り上げられて飼い殺しにされるよ。子種だけを目的にして」


 ふふ、と笑うとウェインは紅茶を飲む。冷めた紅茶に今更に気づいたのかイリアに淹れ直してくれるように頼む


「こ、子種じゃと・・・」


「お。興味があるかい?

 この国から南に神聖アルバート帝国って国があってね。そこがさっきの話にでてきた帝国なんだ。帝国では異世界者は神の御使いとして保護することを謳っていてね

 保護されたが最後、常に宮殿の奥に大事にしまわれて子孫を残すためだけに生きる飼い殺しの生活が待っているってわけさ。まぁ、たくさんの美女を侍らせてお手付きし放題は魅力かもね」


「な、なんじゃその、破廉恥な生活は・・・儂は嫌じゃぞ、そのような生活。それに自由を奪われるなんぞ苦でしかないわ」


 前世では自由に刀を打ち腕を競い合いたいがために仕官の話が来てもすべて断っていた清十郎だ。いかに美女を用意すると言われても籠の中の鳥の生活を想像すると背筋が寒くなった


 ちょうどイリアがタイミングよく淹れ直した紅茶をウェインと清十郎の前に置く


 ウェインと清十郎は淹れ直してもらった暖かい紅茶に口をつけカップを置いたところでウェインが続きを話し始める


「なんでもアルバート帝国の始祖が異世界者らしくてね。当時の国の王女と結婚し王位、帝国になってからは皇帝になったのさ。代々、特別な力を受け継がれているらしく、それもあって囲いたがるんだろね」


「先ほどから特別な力と言っておるがそれはなんなのじゃ?

 儂は今のところそのような力は感じたことはないが・・・」


「うーん・・・

 僕もそこまで詳しくはないからわからないけど力が強くなったとか何かが見えるとか

 なにかないかい?」


 ウェインに言われて清十郎はこの世界にきてからのことを思い出す。たしかにオーガと戦った時に踏み込みや刀の振り切りの加減が強くなっていた気がする

 前世の今時分の体の時はそこまで力があったとは思えない


「うむ。言われてみれば力が全体的に強くなった気がするな。あと体の反応も鋭くなった気がするぞ」


「うん。異世界者全員に共通することはその力の強さなんだ。この世界の住人よりも上回る力を持っていたと記録があるね。他にも特殊技能を授かっているはずなんだけどその様子を見る限り思い当たる節は無さそうだね」


「すまぬな。お主の言う通り今のところは思い当たる節がない」


 すまなそうな清十郎にウェインはにこやかに笑い首を振る


「いやいや。無理を言っているのはこちらだからね

 よし。聞きたいこともあらかた聞き終えたし今日のところはそろそろ終わろうか」


 ウェインはちらりと部屋に置いてある置時計に目をやる

 時計は針は0時を少し過ぎたところを指していた


「ずいぶん遅くなってしまったね。清十郎殿、泊まるあてはあるかい?」


「特にはないのぅ・・・実は文無しでな

 これが終わったらアンガスを頼りに泊まるあてを探そうと思っていたんじゃ

 アンガスが見つからなければ今日は野宿じゃのう」


 呵々とわらう清十郎にアンガスは嘆息する


「その様子だとアンガスも誘うのを忘れているね

 えっと、文無しだっけ?それはニュアンスからお金がないということかな?」


「うむ。金がないということじゃな」


 なるほどとウェインは納得する

 よくよく考えれば異世界に来てすぐにこの世界の金を持っているわけがない


「よし、なら清十郎殿、今夜はこの屋敷にとまるといいよ」


「良いのか?」


「うん。大丈夫。この屋敷は僕の屋敷だからね」


「なんと、この屋敷はお主のものか」


 清十郎が案内された屋敷は兵士が2人、門を守っていて門をくぐると手入れのされた庭が広がっていた

 その先にそびえる2階建てのしっかりとした作りの建物、外観だけでも何十人も泊まることができそうな屋敷があった。案内された時のことを思い出しているとウェインはそれとと続ける


「これは提案なんだけど、清十郎殿はどうもこの世界のことを何も知らないようだ

 ここに住んでしばらくこの世界のことを覚えてはどうかな」


「それはありがたい話じゃが・・・

 まだそなたと知り合って間もないのに迷惑を掛けすぎているのではないか?」


 清十郎の申し訳なさそうな話しぶりにウェインは首を振る


「むしろ何も知らないAランクの魔物を簡単に屠れる人物を放りだす方が怖いよ。それにさっきもいっただろう?あらゆる国が清十郎殿を狙っているんだ

 ここで放り出してでもしたら僕が国王陛下から叱られるよ」


 ウェインは清十郎に改めて真剣に話しかける


「じゃがなぁ・・・」


 なおも遠慮する清十郎にウェインは言い募る


「遠慮しなくてもいいんだ。これは今も話したけれど必要な措置だし清十郎殿は衣食住をここで世話を受ける。その代わりこの世界についてしっかりと学ぶ

 清十郎殿の嫌いな自由を奪う行為を僕はするけど生活面は保障すると言っているんだ遠慮は無用だよ。あとお金がないと言っていたね」


 清十郎が頷くのを見てからウェインは続ける


「あれは今回、オーガを倒した報奨金と入手した魔石で十分にお金は手に入るから心配しなくてもいいよ」


 ウェインは言い終わるとどうかな?と清十郎に尋ねる


「うむ・・・。わしも飼い殺しは嫌じゃからな。そなたの好意にあまえさせていただくことにしよう

 ウェイン殿あらためてよろしく頼む」


 清十郎の回答に満足そうにウェインは頷く


「日中、僕は仕事で留守にするから教師役はそこにいるイリアをつけるからしっかりとこの世界のことを学んでね。イリアも頼むね」


「はい。かしこまりました」


 ウェインの視線を受けイリアは返事をしきれいなお辞儀をする


「あぁ、一つ言い忘れてたよ

 清十郎殿、僕のことはウェインと呼び捨てにしてくれて構わない。その代わり僕も清十郎と呼び捨てにしてもかまわないかな?」


 ウェインは忘れていたといった様子で清十郎に尋ねる


「はは。なんじゃそんなことか、構わぬ。清十郎と呼び捨てにしてくれ。そちらのほうが儂も気が楽じゃよウェイン」


 呵々と笑って了承する清十郎にウェインは満足そうにうなずいた


「それじゃあイリア、清十郎を客室へ案内してあげて」


「はい。では清十郎さま客室へご案内いたしますのでついてきてください」


「うむ。ではウェインこれで失礼する」


「ああ。お休み、清十郎」


 ソファーからたちあがりウェインと清十郎は握手を交わすと清十郎はイリアについて部屋をでていった

 部屋にのこされたウェインは執務室へと移動する。たったいま、聞かされた清十郎の話を書類にまとめるためだ

 執務室は清十郎をもてなした応接室と同じ階にあり一番奥にある。無駄な調度品がなく質実剛健があてはまるような簡素な執務室だ。執務室へ移動したウェインは椅子にもたれかかるとふーっと溜息をこぼす


「異世界者か・・・しかし、あのオーガを一人で屠る腕前で剣士でないとは」


 ウェインは先ほどの清十郎の話を頭の中で反芻し考えをまとめ直していた


 剣士じゃないのかと問えば本人は違うと答え刀工と言う。刀工はなんぞやと尋ねればたたらが・・・とか刀鍛冶が・・・とか。いろいろそれらに関する説明を受けるがウェインはいまいちピンと来なかった

 しかし鍛冶という単語と前後の文脈で鍛冶師に近いものだと理解した。そのうえで魔法もスキルもない世界で身一つで戦いあう世界からきたという


(魔法もない、スキルもない世界か。たしか帝国の初代皇帝もそのように言っていたと聞いたことがあるな。となると、初代皇帝と同じ国からの異世界者か・・・)


 思考に耽っていたウェインは扉が叩かれた音に我に返る


「入ってくれ」


 ドアから入ってきたのはイリアだ。イリアは失礼しますといって入ってくると机の前に立つ


「清十郎は休まれたか?」


 ウェインはあの後の清十郎の様子を聞くとイリアは軽く頷いた


「はい。あのあと、部屋の使い方を説明させていただいたあとすぐにお休みになられました」


「そうか」


 ウェインは清十郎の様子を聞くとしばしの沈黙の後、イリアに尋ねる


「イリア、お前の目から見て清十郎はどのように映った?」


「お兄様、清十郎さまはとてもまっすぐで誠実なお方でしたわ」


「まっすぐで誠実か・・・怒らせては駄目だな」


 イリアは姿勢をまっすぐにしたまま兄であるウェインにそう答えるとウェインは頤に指をあてて呟いた。おそらく考えをまとめ直しているうちにでた呟きだろう


 ウェインはイリアに事前にメイドの恰好をさせて清十郎を見定めさせた。なぜならそれはイリアが持つ審議眼というスキルによるものだからだ。審議眼のスキルはその者が嘘をいっているか見破るスキルだ

 イリアはこのスキルのせいで貴族の社交界にでればすべての人物が嘘にまみれた者にしかみえず社交界に行くのが億劫となり滅多に顔を見せることをしなくなった


 イリアの年は現在23、嫁ぎ遅れの年に差し掛かっていた

 この世界では成人は15で成人し貴族の娘は生まれた時から婚約していたり早ければ成人と同時に結婚する


 イリアからみて清十郎は先ほどの会話で嘘をまったくいわずこういう男もいるのだ感心したほどだ。ただし一瞬、帝国の奥の話になった時に一瞬、嘘をついたなとイリア気づいたがはやはり男の子だなと審議眼が発動しても好ましく思っていたりしたが


 ふむとウェインは呟くと頤から指を話し机の上で両手を組むとイリアを見据える


「明日からの世話はお前に任せる。清十郎にこの世界をしっかり教えてやってくれ

 たぶんだがアンガスが近々来訪すると思うから面会は自由に差配してくれ」


「はい。わかりました」


「なら、お前も明日からはやい。もう休みなさい」


 兄に休めと促されてもイリアは動かない。不信に思っているとイリアは涼やかな顔を厳しくして兄を見る


「・・・清十郎さまをご利用なされるのですか?」


 イリアの言葉にウェインは黙っている


「・・・すぐには利用するつもりはない。だが当面はうちが後ろ盾にならねばならない」


「わかりました。すぐに利用する気がないのであれば私は言うことはありません。それではお先に休ませていただきます」


 イリアはそういうとカーテシーを行い部屋からでていった


(これは清十郎にやられたかな)


 ウェインは出ていくイリアの背中を見ながら兄として嬉しい気持ちを抱いたが目の前の白紙の束を見てこれから書かなければならない報告書に頭を悩めるのだった



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