第8話 清十郎食事に満足する
清十郎はアボルグの街の屋敷の一室にいた
天井からはシャンデリアが吊り下げられ壁面には3本立ての燭台が設置されており
部屋を煌煌と照らしている
テーブルやソファーも意匠が凝らされたものが置かれていた
部屋の隅々には壷などの調度品が飾られており嫌味にならないように配置されており趣味の良さがうかがえる
アンガスと別れた後、ウェインと一緒に馬車に乗り案内された屋敷の一室だ
ウェインは清十郎をこの部屋へと案内すると食事を持ってくるから待っていてくれと言うと部屋を後にした
(うーむ・・・この座り物はなんとも気持ちのいいものじゃな・・・)
部屋で一人ソファーに座っている清十郎は深く体を包み込むような柔らかな感触に体をゆだねるとポンポンと手で座面をたたく
押すとポンと反発する
もう一回もう一回と押しては離すを繰り返す
やがて周りを見回すと
「ひ、ひとりじゃし、いいよな・・・」
清十郎は初めて座るソファーの反発性のある感触が楽しくて何回もバウンドしはじめた
(こ、これはたのしいぞ!)
清十郎は興がのり何回もバウンドして遊んで楽しんでいると正面の扉が開きブロンドの髪をシニヨンでまとめ黒を基調としたロングスカートにエプロンを身に着けた女性が食事をカートにのせて運んできた
部屋へとはいった女性と目が合う
切れ長の瞳の形で鼻筋が通っており涼やかな顔をした綺麗な緑色の瞳をした若い女性だ
(・・・・)
(・・・・)
お互いの瞳がばっちり合うと女性はクスリと笑う
硬直する清十郎をよそにカートにのせた食事をテーブルの上に載せていく
その間、自分の子供っぽい行動をばっちりみられてしまった恥ずかしさから清十郎は赤面した
やがてすべての料理を置くと女性は清十郎にお召し上がりくださいと言うと部屋の隅に移動し両手を体の前で合わせて姿勢よく立つ
気持ちを落ち着けてから清十郎は先ほどから食欲を刺激する香りを放つテーブル上に目をやると並べられた数々の豪華な料理に釘付けになる
(ふむ・・・見事な料理じゃな!
じゃが、箸はやはりないか・・・)
アンガスとの旅路の間に食べた時にこの世界には箸がないことは知っていた
薄味のスープに堅パンと一緒に渡されたフォークを見て使い方がわからずアンガスに箸はないかと聞いたらそんなものはないと言われ落胆した覚えがある
その時にここは清十郎が住んでいた国とは違うことを思い知った
それでもやはりきちんとした料理を前に箸がないと寂しさを覚えた
「どうかしましたか?」
表情にでていたのか部屋の女性が声をかけてくる
「いや・・・なんでもないぞ」
清十郎はしょんぼりしながら右側においてあるフォークを含めた銀製のカテラリーを見る
ないものは仕方がないとカテラリーのうちからフォークを右手で握ると野菜の盛り合わせから手を付ける
「!!!!!」
一口入れた瞬間パリッとした新鮮な野菜の感触と絶妙に合わせたソースが清十郎の口の中ではじける
(な、なんじゃこれは!今までこのようなうまいもの食べたことがないぞ!)
清十郎の手はもはや止まらない
ぺろりと野菜の盛り合わせを食べきると次にジャガイモのポタージュに手を付ける
口の中に濃厚で深みのある味わいが広がり香りが鼻を抜けていく
テーブルマナーなぞ知らない清十郎はポタージュの皿に直接口をつけて飲んでいく
「くはぁ!このようにうまいものは初めて食べたわ!
こ、これは何という名前の料理なのじゃ?」
清十郎はそばに控えていた女性はあまりの清十郎の必死さに一瞬驚くがにこやかに笑うと料理を説明し始めた
「ふふ。それはポタージュというジャガイモをスープにしたものですよ
お口にあいましたか?」
「うむ。今までこのようなうまいものは食べたことはないな」
口の周りにスープをつけて力説する清十郎に女性はエプロンからハンカチを取り出す
「清十郎さま、少し動かないでくださいね」
優しく笑うと清十郎の口の周りをハンカチで拭いていく
思わぬ女性の行動に清十郎は固まる
「な、な、な・・・」
「な?」
「何でもないのじゃ・・・」
清十郎は顔が熱くなるのを感じるとふーっと気持ちを落ち着かせ女性に尋ねる
顔はまだ若干赤い
「なまえ・・・そなたの名はなんという?」
「あら、名乗っておりませんでしたね」
と女性は可愛らしく笑うと
「私の名前はイリアと申します
ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
イリアは清十郎の前で名乗るとお辞儀を行う
精練されたお辞儀に清十郎はほうっと思わず感心の声がでる
「既に知っておるようじゃがわしは清十郎じゃ
イリア殿よろしく頼む」
「はい。よろしくされました
ささ、せっかくの料理が冷めてしまいますわ
まだまだ清十郎さまがたべたことのないようなお料理がございますので続きをお楽しみください」
そう言うとにこりと笑い清十郎のそばを離れ再び部屋の隅へと移動する
ただ、先ほどよりもイリアが清十郎見る目は優しい
つぎに清十郎はローストされた肉に赤いソースがかかっている料理に手を付けた
肉をフォークで刺すとフォークが抵抗なく刺さる
その感触に一瞬驚くが清十郎は赤いソースを絡めて口に運ぶ
酸味と甘みが絡み合い柔らかな肉の感触が口の中を蹂躙する
「ふぉぉぉ・・・この噛んだ瞬間にあふれる肉のうまみがなんともいえぬ!
それにこの甘いタレが絡むことで噛めば噛むほどうまみが何倍にも膨れ上がったぞ!
むむ!これはたまらぬ!」
清十郎が口元にソースをつけながらペロリと肉を平らげる
そんな清十郎にイリアがそっと清十郎にちかよると甲斐甲斐しく口元のソースを拭いてくれる
「イ、イリア殿、大人の男にそれはちょっと恥ずかしいぞ・・・」
清十郎はたまらずイリアに言うが柔らかな笑みを浮かべるだけで口元を拭き終わるとまた部屋の隅にもどっていった
最後に黄色い山なりの料理が乗った皿を手に取った
台形型の黄色いに茶色が乗っているそのすぐそばには白い山が添えられていた
いわゆるプリンの生クリーム添えだ
清十郎はカテラリーの中からスプーンを選択するとスプーンですくい口に運ぶ
「こ、これは!なんと甘くとろける感触はたまらんのう・・・」
プリンを口にいれた瞬間とろける甘さの虜になった清十郎はあっという間に食べつくす
(むぅ・・・すぐなくなってしもうた
名残惜しいがこれはこれでちょうどいいのかもしれぬ)
「清十郎さま、ご満足いただけましたか?」
食べ終えたのを見計らってイリアが聞いてくる
「ふー・・・このようなうまい飯は食べたことがないのぅ・・・
満足じゃ」
それはようございました
イリアはてきぱきとテーブルの上を片付けると紅茶を入れ始める
部屋に紅茶の香りが漂う
「清十郎さま、どうぞ」
「かたじけない」
差し出された紅茶を口元に運ぶ
口に着けると若干の渋みと酸味が混ざった上品な味が舌を楽しませさわやかな香りが鼻を抜けていく
「いい香りじゃな
儂が飲んでおった茶とはまた違った香りと味じゃ
それに気楽に飲めるのも良いな」
「ふふ。清十郎さまはその紅茶をお気に召したようでございますね」
「ああ。気に入ったぞ
特にイリア殿が入れてくれておるから別格なのかもしれぬ」
「まぁ清十郎さまったら」
清十郎は初めて口にした紅茶の味を楽しみながらイリアとの会話を楽しんでいた
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