第74話 鍛冶見学と指導
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アボルグの街の屋敷の一角から今日も大きなため息が聞こえる
その溜息の主は執務室の椅子に座り両肘をテーブルにつき緑の髪の毛を掴むように頭を抱えている
「ウェイン様、あまり溜息を吐くと幸せが逃げるといいますぞ」
ウェインにカイゼル髭がトレードマークのロムアがそう言いながらそっと紅茶を邪魔にならない場所に置く
「あ~・・・でもさ。これを見ても同じことが言えるかい?」
ウェインが顔をあげるとそばにあった山積みになった意匠を凝らした手紙をポンポンと叩く
手紙はすべて開けられウェインが目を通しているがその宛先は清十郎だ
「ふむ。清十郎様も女性を待たせるのは良くありませんな」
「え?そこ?ちがうでしょ!送り主が問題でしょ!」
ロムアのワザと主旨をずらしたと言ってもいい的外れな回答にウェインは髪を掻きむしりながら椅子の背もたれに体をあずけて天井をみる
「行儀がわるいですぞ。ふむ、一通失礼いたします」
ロムアは手紙に一通り目を通し読み終えると元の場所に置きカイゼル髭をなでながら目をつぶる
「ニルティーナ王女殿下にも困ったものですな。恋文をこのように送り付けるとは」
「そうなんだよ。おかげで清十郎は委細任せるって僕に押し付けるしさ
イリアがいるんだからってやんわり断っても妾は何人でも構いませんって送ってくるんだよ?
どうすればいいのさ。これ」
ウェインは姿勢を元に戻すとはぁーっと何度目かわからない溜息を吐く
「清十郎様も女泣かせですな。ご本人にその気がないのが余計に質が悪い」
ロムアがニヤリと笑う
「ロムア。君、面白がってるでしょ?ところで清十郎は?」
ジト目のウェインの視線をどこ吹く風でロムアは涼しい態度で答える
「かの御仁なら今日も例の場所ですぞ」
「ああ。なるほど・・・」
ウェインは少しでもこの手紙をなんとかしてほしいと思いながら溜息を吐くのであった
室内は熱気で常に汗をかく環境の中、鉄と鉄がぶつかり合う音が響く
その一角で黒髪で黒目の男がその作業の一部始終を見つめている
「あ、あの清十郎さん、そんなに見られると気が散るんですが」
「そんな集中力では良い物は作れぬぞ。さあこちらを気にせず打つんじゃ」
「はい・・・」
一人のドワーフがそう言われがっしりとした体を縮こまらせて打つ。槌を打ち付ける音が小さく聞こえるのは気のせいではないだろう
「ほれ、バラッドよ。しっかり打たぬか!」
「は、はいー!」
叱咤されバラッドの目から汗があふれ出ているように見える。朝からずっと清十郎に付きまとわれ作業をずっと見られているのだからそれも仕方がない
バングリーに見られているのとは違う威圧感を感じながらの作業にバラッドの精神はガリガリと音をたてて削られていく
「ふーむ。こうやって一連の作業を見ておると刀と似ているようで違うのがよりわかるな」
清十郎は腕を組みバラッドが必死で打っている剣を見ながら思いに耽る
今、バラッドが打っている剣は大剣だ。長さが2mほどの大剣を作り上げるために必死で金槌を振るう
「ほれ、バラッド熱し方が足らんぞ!もっと火床に風を送らんか!」
「はい~!」
鞴をで火床に風を送っていたバラッドに清十郎の指導の声が飛ぶ
見ているともどかしさが先立ちつい口を出してしまう
「おう!清十郎、あんまり弟子を虐めてくれるなよ」
そこに立派な口髭と顎髭を蓄えつるりとした頭をなでながら強面のドワーフが声をかけてくる
「バングリーよ。人聞きの悪いことを言うな」
バングリーと呼ばれたドワーフはがははと豪快に笑いながらバラッドを見る
「お前がここに来てくれるようになってから活気が出てきてな。どうだ?俺の工房で指導役でもやらんか?」
本気とも取れる声音で清十郎に尋ねるが清十郎は首を振る
「いや、儂はまだこれからもこの世界の剣をもっと知りたいしな。ありがたい話ではあるがいろいろやってみたいのよ」
「そうか。まあ、お前ならそういうと思ったぜ」
そう言いつつもバングリーは結構、本気で誘っていたのか肩をすくめ残念そうにする
「まあ、儂はここが気に居ておるしな。気が向いたら覗くから安心しろ。これバラッドもっとしっかりと満遍なく叩かぬか!」
清十郎は笑いながらバラッドを見ると叩きが甘いと叱り飛ばす
「は、はい~!」
バラッドの悲鳴ともとれる返事が響く中、その様子をみてバングリーと清十郎は顔を見合わせて笑いあうのであった
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