第4話 ギルド依頼3
何事もなく翌朝を迎えメンバー全員が起床し朝食を終えたところでテントを撤収し2か所目の休憩所へ馬車を進ませる
道中、すれ違う馬車が少なくなったことと何匹かゴブリンが寄ってきたがエリザが弓で一撃のもとにたおしたくらいで変わったこともなく夕方ごろには2か所目の休憩所へと着いた
「やっぱり2か所目ともなると1か所目より設営しているパーティーが少ないな」
「ここらで活動するのは平原中央組だしある程度の腕がないと死ぬのが関の山だしな」
アンガスは御車台で休憩所をみて様子を呟いたものを隣で座っていたエリザが答える
サランド平原は魔の森に近づけば近づくほど魔物の活動が活発化し現れる魔物の数も増える
もちろんとれる薬草の類も濃い魔素のおかげか珍しいものを採取できるため慣れてきたパーティーほど奥へと拠点をすすめる。その分、危険も増えるため、活動するパーティーは奥へ進めば進むほど減る
「エリザ道中、精霊の反応はどうだった?」
「相変わらず進めば進むほど反応は強くなってるぞ。今では、進むなと言っているくらいだ」
「そうか、なら一層、慎重にいかないとダメだな」
アンガスはエリザの言葉にうなずき馬車を所定の位置に停めた。メンバーは手分けして設営する
「よし、夕食後は昨日と同じく最初の見張りは俺とトリドル、後番はトドルとアルムでいくぞ」
設営を終えた後、アンガスはメンバーにむかって話しみんな頷いて了承を示した
「なら夕飯の準備にとりかかるか」
「よし!またこのアルムちゃんが腕によりをかけてご飯をつくっちゃ・・・」
「今夜は俺がつくろう!」
「なら、トドル頼めるか。毎回アルムに作ってもらうのも申し訳ないしな」
「うむ!しっかり筋肉が喜ぶ料理をふるまってやろう!」
「・・・ほどほどにな」
トドルが作ることになって不貞腐れたアルムをエリザがなだめるのをみやりながらアンガスは勝負は明日以降だと心をより一層引き締めた
その夜、メンバー全員、腹が張って大変な思いをしたのは言うまでもなかった
翌朝、見張りを終えてテントで眠っていたアンガスは朝食の匂いで目が覚めた。テントから出るとトドルとアルムが朝食を作り終えて鍋を囲み丸太に座ってスープをすすっていた
2人に朝の挨拶をするとアンガスは近場の丸太に座りアルムがよそってくれたスープをすすりながらパンをかじる。優しいスープの味が昨晩の胃のもたれを溶かしていく
しばらくするとエリザ、トリドルともに起きだし精霊の宴の面々がそろった。メンバー全員が朝食を終えた頃合いにアンガスが口を開く
「さて、今日はいよいよ3か所目に向かう。もし異変があるなら今日以降だ
今まで以上に警戒して向かおう。朝食を終えたらテントを撤収して向かうぞ」
アンガスがメンバーに向かって話すとメンバーはうなずき撤収に取り掛かりかかった。アンガスたちは素早く撤収すると休憩場を出発する。馬車を走らせて太陽が真上にきた頃合いにアンガスは異変に気付く
(いくら魔の森が近くてもここまで誰ともすれ違わないとは・・・)
馬車を一旦停め、昼食を兼ねて休憩する。携帯食と2か所目の休憩場で汲んでおいた水で沸かして作ったスープを摂る
「ここまで順調に進んでいるが誰ともすれ違わなかったことに気づいたか?」
アンガスはスープを口にしながらここまで進んで感じた異変をメンバーに伝える
「そういえば誰ともすれちがわなかったねー」
最初に言葉を発したのは青髪の少女アルムだ
「普通は3か所目に向かうとはいえ馬車組や徒歩組の一組くらいはすれちがうもんだがなぁ。俺の魔素探知が役にたたないのがもどかしいぜ」
「それは最初からわかっていたことだ。気にするなトリビス」
アルムに続くトリビスの悔し気な声音を聞きアンガスはなだめながらエリザを横目で見るとエリザは眉間に皺をよせ難しい顔をしていた
「エリザ、気になることはあるか?」
エリザはしばらく黙っていたが意を決したように口を開く
「なぁ、アンガス。私は命はあってのものだと思うんだ。この依頼、失敗扱いでいいから今からでも引き返さないか」
突然のエリザの言葉にアンガス他、メンバーは驚いた
唯一驚いていないのは馬車の横で食後のトレーニングと称して大剣の素振りをしていたトドルぐらいだった
「・・・引き返すのは構わないが理由を聞いてもいいか」
エリザがこういう言い方をする時は必ずといっていいほど命にかかわる場面だ
最初の頃はエリザの言うことを聞かず強硬しアンガスは死にかけ危うくメンバー全員死ぬ場面もあった。それ以来、エリザの発言は必ず尊重するのが精霊の宴の方針となっている
今回もエリザが引き返すといった段階でアンガスは内心では引き返すことを決めていた
理由を聞くのはただ理由も聞かずに引き返すにはパーティーの結束上よくないからだ
「先ほどから精霊がうるさいほど危険を囁いてくるんだ。こんなこと今までなかった。これ以上すすめば下手をしたらみんな死ぬぞ」
「俺もそう思う。さっきから嫌な予感が筋肉を刺激するぜ。こんなことは今までなかったぞ」
エリザはぽつぽつと語る。普段、こういった場面では口を挟まないトドルもエリザに賛同するように言う。それを聞いてアンガスは引き返す決断を口にしようとしたところで何かが飛来するのが見えた
(なんだあれは?)
メンバーたちはこちらへ飛来する何かを見ていた。そのうち自由落下をはじめ飛来物がアンガスたちの近くに落ち転がる
ドッコロコロ・・・
「これはっ!まずい!すぐ逃げるぞ!」
エリザが逃げるにように促した瞬間街道の後ろで大きな音がした
アンガスはそちらを見ると街道を人の背丈ほどの幅の木が倒されていた
「無理だ!逃げ道をふさがれた!すぐにも敵は来るぞ!」
「俺とトドルは前衛、アルムとトリビスは真ん中、後ろはエリザ!」
逃げるよう進言するエリザをアンガスは退けメンバーに指示をだす。メンバーも慣れたように陣形を組む
「ひっ・・・」
アルムがおびえた声をだす。メンバーたちのそばに落ちたもの。それは苦悶と恐怖を混ぜ合わせたような表情を浮かべる首だった
ドッコロコロ・・・ドッコロコロ・・・
生首はその後もアンガスたちのそばに転がってきた。アンガスたちの反応を楽しむように
飛んできた生首は5つ男の首が3つ、女の首が2つ。そのすべてに見覚えがあった。アンガスは唇を噛む
(龍の翼か・・・それに女も男も関係なしか)
龍の翼はアンガスたちと同じくC級ランクの5人パーティーだ。気のいい奴らだった。ほぼ同じころに冒険者として活動しだし競い合っていた仲だった
(もうすぐ一緒になるんだとか言ってたな・・・)
先日、一緒に飲んだ時にリーダーの男が同じパーティーの女と結婚しもうすぐ引退すると幸せそうに言っていたことをアンガスは思い出していた
(大金が手に入るようなことを言っていたがまさかこいつらも同じ依頼だったとはな
しかしこいつらがやられたとなるといよいよやばいかもしれん)
アンガスは悲しみを一旦、心の隅においやり心を切り替える。冒険者であれば死ぬ危険は常に付きまとう。知り合いが死んだことなど今更だ
「アンガスくるぞ!」
エリザの声で意識をそちらに向ける
平原の奥からのそりと立ち上がるその姿は人の身の丈より2回りは大きく筋肉質で顔は口から生えた牙がよく目立つ
”オーガ”
人の数倍以上の膂力を持ち人を襲い人を喰らう鬼
そのオーガがのそりとつぎつぎにたちあがりこちらを見据える。その数6匹
お前らに俺らを殺せるか
その顔は醜悪に笑っているようにも見えた
ブックマークの登録、評価をしていただけると嬉しいです
感想もおまちしております