5 何でもかんでも触ればいいってもんじゃないよ
馬車にてオウル達の部下から逃げきって3日が経過していた。
「おい、サヤ....俺達どうなるんだ....」
「そんなの、私に聞かないでよ....」
「またまた....何か、策があるんだろ....」
「....ないわよ....」
「....」
「....っ、そんな見つめても何もないって....」
今のユウスケ達の状態はのどを乾かし空腹の状態であった。
馬車で北へ向かって進んでいたが、2日目当りで魔物に馬車が襲われ、持っていた荷物の大半を失いながらも逃げ切ったが、残った手持ちの食料や水もほとんどなく、すぐに尽きてしまう量だった。
そのまま、街を探して歩き続けるが見つける街々は全て廃墟のようになっており、食材も水も確保できずに歩き続けていた。
そして、次の街を目指してトボトボと歩いていたナイがその場で座り込んで声を上げた。
「ナイ、もう歩けない! 喉乾いた! お腹空いた!」
その訴えはユウスケとサヤも同じ状態であった。
そして、ユウスケがナイに近づき膝をついてナイと同じ目線でやさしく話した。
「すまん、ナイ。もう少しだけ頑張ってくれ」
「ユウスケ、嘘つき。それ前も言ってた」
「あれ....」
ユウスケは、思わぬナイの言葉にうろたえてしまい、サヤの方に助けを求めた。
「はぁ~、あんたね....」
サヤはため息を漏らしながらユウスケに近づき、ナイに言葉をかけた。
「ナイちゃん。さっき拾ったこの地図だとこの先に水飲み場があるらしいから、そこまでがんばろ。ね」
「....それ、本当?」
「っ....本当よ」
「分かった。サヤを信じる」
そう言ってナイは、立ち上がり歩き出した。
そして、ユウスケとサヤはこそこそ話を始めた。
「おい、さっきの本当かよ?」
「......嘘よ。でもあぁでも言わないと、動かなったでしょ」
「うわぁ~....お前、ナイに嫌われたな」
サヤの答えに引くユウスケ。
「そんなの分かってるわよ。あとそんなこと言うなら、次は絶対に助けてあげないから」
サヤは立ち上がってナイの後を追った。
「おい、ちょっと、それは勘弁してくれ」
そんなやり取りをしながら、3人は歩き続けた。
そして、次の街へ辿りついた。
「街だ!」
見るやいなや、ナイは走って街の中に入って行く。
「おい、一人で行くんじゃない」
ユウスケは、すぐさまナイの後を追って捕まえて街の散策を始めた。
「(やっぱり、ここも誰もいないか・・・今まで見て来た街より、まだましだが....)」
「ユウスケ! 水は? 水はどこにあるの?」
「あ、あぁ~....どこだろうな。サヤに聞いてみるか」
とユウスケは後ろを振り返り、サヤに話しかけようとしたがそこにサヤの姿がなかった。
「あれ? サヤ? おーい、サヤー。どこだー!」
ユウスケはサヤに呼びかけたが、返事がなかった。
「(おい、どこいったサヤ....)」
急にサヤがいなくなったことに不安を感じ、どうしていいか分からず立ち尽くしていると遠くでサヤの声が聞こえた。
「ユウスケ! ナイ! 早くこっちに来て!!」
「!」
その声を聞いてユウスケは、ナイの手を握ってサヤの声がした方へ向かった。
そして、サヤを見つけるとその前には真っ黒い真四角の小さい倉庫が建っていた。
「サヤ、これはなんだ?」
ユウスケの問いかけにゆっくり振り返りサヤは、少しににやけながら答えた。
「たぶんだけど、これ備蓄庫よ」
「ビチクコ?」
ナイは、首をかしげながら聞き返すとサヤが答えた。
「そう、食材や水がある倉庫よ」
「本当!!」
喜ぶナイに水をさすようにユウスケが問いかけた。
「でもよ、サヤ。今までみたいに中身が空だったり、腐っていたりする可能性もあるだろ」
その問いかけにサヤは、自信を持って首を横に振った。
「これに限ってはそれはないと言えるわ。この備蓄庫は一度王都で見たことがあるの。その時は頑丈で傷つくことのない鉱石を混ぜて作っている備蓄庫だったから、中身は無事のはずよ。それに、荒れてはいるけどこの辺は市場みたいな箇所だと推測するから、必ず食料や水があるはずよ。」
そういわれてユウスケは、周囲を見ると確かに市場のテントらしき布や果物などをいれる箱らしき破片が落ちていることに気付いた。
するとサヤは、そのまま備蓄庫の扉に手をかけて勢いよく開けた。
そして、中身を見て言葉を失った。
「な....なにこれ....」
様子が変なサヤに気付きユウスケが中を覗いた。
「何も....ないじゃないか....」
備蓄庫の中には、何もないただの部屋だったのだ。
その衝撃に耐えられず、サヤはその場で膝から崩れた。
「嘘......こんなの、嘘よ....」
絶対の自信があった分か、思いもよらいない結果に受け入れられず頭を抱えていた。
それを見てユウスケは、何を言っていいか分からず立ち尽くしたままだった。
そんな絶望しかけていた2人を横目にナイが備蓄庫に入って行き奥の壁に片手を付けて一言呟いた。
「なんか、思ってたより狭いね。外からだともう少し広そうなのに」
「っ!」
その言葉を聞き、サヤがすぐざま顔を上げてナイの方に近づき壁を軽く叩いた。
すると、奥に空洞があるような乾いた音が返って来た。
それを聞くと、次は外へ飛び出し備蓄庫の周囲をじっくり見ながら一周して再び中に入って来た。
「ど、どうしたんだよサヤ?」
その行動に驚き、ユウスケが問いかけるとサヤは長考したのち口を開いた。
「やっぱり、ナイちゃんの言う通りこの備蓄庫外から見るより少し狭いわ」
「え? どういうこと?」
そして、サヤが説明し始めた。
「いい、この備蓄庫全体が10だとして今私たちがいる備蓄庫の中は8ってこと」
「? ....つまり?」
「つまり、この備蓄庫には隠し部屋的な空間があるってこと。それが、あの壁の奥かもしれないのよ」
サヤが、指さした先を見るとそこは先ほど、ナイが手を当てた壁だった。
ユウスケは、壁に近づきノックすると乾いた音が返って来た。
「本当だ....奥に空間がある音がする」
「とりあえず、壊すわよ!」
そう後ろからサヤの声がして、振り返るとサヤはハンマーのようなものを持って突っ込んで来た。
「はぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょ、ちょ、あぶなっ!」
『バギィ!!』
サヤが振り下ろした武器が、壁に突き刺さりりユウスケは、その場で尻もちをついていた。
「ちょっと、何してんの!ユウスケも早く手伝って。外にこんなの落ちてるから、早く」
「お、おう」
言われるがまま、外に落ちている武器を広い、サヤと一緒に壁を壊し始めた。
ナイも加わろうとしたが危ないので、ユウスケが止めて少し離れた所で見ててもらうように説得した。
そして、ついに壁の一部が奥の空間へと繋がった。そのまま、開いた所から広げるように壁を壊していきついに奥の隠し空間へ入った。
「あ、あ、あ....あったーー!」
奥の空間には食料や水が備蓄されており、それを見てユウスケが声を上げて喜んだ。
そして、3人はすぐさま水を飲み喉を潤し、空腹の胃に久しぶりの食事を流し込んだ。
「ふ~....こんな缶詰でも空腹だから最高にうまいな!」
「そうね。本当にあってよかったわ。一時はどうなるかと....」
「ねぇ、もう一個食べてもいい?」
「一個だけだぞ」
「やったー!」
ユウスケの許しをもらい、ナイは食べる缶詰を選び始めた。
すると、ユウスケが部屋の端に何か光ものを見つけ、それに手を伸ばして引き寄せるとそこには短剣と一枚の折り畳んだ紙が出て来た。
「何だこれ?」
「どうしたの?」
とサヤが近づいて来た。その間にユウスケが先に紙を広げるとそこには地図が書かれていた。
「これって....」
「すごいじゃない、これ! 現在地まで書いてある地図なんてめったに見れないものよ」
サヤが横取りするように奪うとぺらぺらをすごさを語りだした。
それをユウスケは、右から左に聞き流すともう一つ見つけた短剣に手を伸ばした。
「ねぇ、ちょっと聞いてるのユウスケ....っ!」
途中でサヤが話しかけて来た時、ユウスケが手を伸ばした短剣に気付きそれを見て声を上げた。
「待って! それに触っちゃ....」
そう言いかけた時には、すでにユウスケの手は短剣に触れてしまっていた。
「えっ....何? ....もしかしてこれ、ヤバいやつ?」
しばらくユウスケは、その状態で固まっていたが、すぐさま手を引っ込めた。
そして、すぐにサヤが近づいて来て手を顔に当てて目を開く様にして見られた。
「な、なに....」
「今、ユウスケが触ったのはただの武器じゃないの。それは呪われた武器よ」
「呪われた武器?」
すると、サヤはユウスケの目に異変がないことが分かると手を放して一息ついた。
「見たところ、触った時間が短かったから異変は起こらなかった見たいね。良かったわ」
「で、その....呪われた武器ってなんだ?」
ユウスケが説明を求めると、サヤが今まで以上に真剣に話し始めた。
「呪われた武器っていうのは、一言でいうと人の命を多く奪った武器のことよ。それを所持したら最後その武器の意のまま操られて死ぬまで手放すことができないのよ」
その説明を聞いて、唾を『ゴクッ』と飲み込んだ。
「いい、ひとまずその武器には....」
と言いかけた時だった。
「ねぇ、これはなに?」
とユウスケとサヤが話している間にナイが短剣を握りしめて、問いかけて来たのだった。
「な、な、何してるのナイちゃん! すぐにそれを離して!」
「な、ナイ! 何してるんだ!」
すぐさま、ユウスケがナイから短剣を取り上げる。その内にサヤがナイに異常が起きていないか確認した。
「....だ、大丈夫そうよ」
「ふ~う....良かった....」
ナイの無事を知りユウスケが、一息ついているとサヤがユウスケに向かって声を上げた。
「って、ユウスケそれ!」
「ん? ....うぁぁ!!」
ユウスケはナイから取り上げた短剣をずっと握りっぱなしだったことを忘れており、長い時間触れていた。
そして、すぐさま手を離すユウスケ。
「....」
そのまましばらくユウスケは、立ち尽くしてサヤはナイを引き寄せたまま硬直していた。
「....ユウスケ、何ともないの?」
「あ、あぁ。何ともないぞ....」
サヤは、ユウスケが呪われた武器に取りつかれたと思っていたが、ユウスケの状態は何ら変わりない状態だった。
「え、嘘....結構しっかり握ってたのに?」
「おう、そうなんだが異変は特にないな....」
ユウスケとサヤは『キョトン』とした顔で見つめ合っていた。
「と言うか、何でサヤは呪われた武器とかまで知ってんだ?王都でも見たことあったのか?」
「えっ....そ、そんなところよ」
「ふ~ん....」
ユウスケは、少し疑いの目を向けたがサヤはすぐに話の話題を変えた。
「まぁ、何ともないなら良かったわ。それじゃ、ここの食料や水を詰める袋でも探しましょうか。ずっとここにはいられないしさ」
そう言って、さそくさと外へ探しに行ってしまった。
「(まぁ、いいか。そんな問い詰めても仕方ないことだしな)」
そう考え、ユウスケも残りの食料と水の数を数えだした。
その後、サヤが見つけて来たバックにナイと一緒に持てる分の食料と水を詰め込んだ。
「こんなもんかな。で、残りはどうする? また、隠しとくか?」
「そうね、開けた穴を何かで塞いでおきましょうか」
そう言って隠し部屋から出た時だった。備蓄庫の外から獣が唸る声が聞こえて来た。
「ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"......」
そこには、備蓄庫の前に狼のような魔物が3体待ち構えていた。大きさは約2・3メートル程あるように見えた。
「何で急に魔物がここに....」
ユウスケとサヤはナイを隠し部屋の方に下がらせた。
「なぁ、サヤって攻撃的な魔法は使えたっけ?」
「いや、私はそんなもの使えないよ....」
「そうだよな....」
2人は、ジリジリと迫ってくる魔物に少しずつ後退していた。
「(くそっ! どうする。どうすれば、いい俺! ......っ!)」
とユウスケは何かを思い出したように、行動を起こした。そして、一旦隠し部屋に入り何かを持ってきてそれを構えた。
「そ、それはっ!」
それを見て驚愕するサヤ。
なんと、それは呪われた武器の短剣だったのだ。
「ちょ、ちょっと何してんの!」
「何って武器だよ。こいつが呪われていようが俺には影響がなかっただろ。だったら普通に武器として使えると思ってさ」
「そうだけど、でも....」
「どのみち、ここで戦わなきゃ一方的に死ぬだけだ。だったら、こいつにかけるしかないだろ!」
そのままユウスケは、短剣を構えて一歩前に踏み出すと、魔物達が一歩引いた。
「(アイツらも、これが普通の物じゃないって分かっているのか? ならっ!)」
ユウスケは、勢いよく外にいる魔物達の目の前まで走り短剣を『ブンブン』と振って威嚇した。
魔物達は、急な行動に驚いたのか飛ぶように後方へ下がったが、引く様子はなく唸り返していた。
「(くそ、引いてくれないか....)」
と次の瞬間だった、ユウスケが握っていた短剣が急に光りだしたのだ。
「な、なんだ!?」
その光は一瞬で周囲を包み込んだが、すぐにその光は消えてしまう。
「なんだったんだ、今のは....」
「ユウスケ! 前っ!」
「っ!」
ユウスケが光のことをに気を取られていると、そこに魔獣の1体が飛び掛かって来た。
だがそれに気づいておらず、サヤの呼びかけで初めて気付いたため、直撃は免れないとそう思った次の瞬間だった。
『ザジュウッ!!』
と何かが焦げ切れる音が響く。
すると、先ほどユウスケに襲い掛かっていた魔獣が胴体から半分に斬られて地面に転がっていた。
サヤはその光景に驚き、ユウスケの方を向くとユウスケは、咄嗟に短剣を振り上げるようにしていた。
「な、何をしたの....ユウスケ?」
すると、ゆっくり振り返って困った顔で答えた。
「......わからん」