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3 無知で行動する程怖いのはない

 


「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ?」


 すぐにユウスケが変だと思い止める為に声をかけたが、これはサヤなりの考えがあっての行動だった。


「こっちの方が近道なのよ。それに契約時間も迫ってるし、延長したくないでしょ」

「....確かに....」


 ユウスケはサヤの言葉に納得し後をついて行った。

 入り組んだ裏路地を通って行き、ある角を曲がった時だった。

 いきなり怒鳴り声が響いた。



「おい! いつまで黙ってるつもりだ? ああ“っ!」



 それを聞きサヤとユウスケの足が止まった。


「何とか言ったらどうなんだ!」

「早くお前が持ってる武器をよこせ!」


 そこには、大柄の男1人ととそれよりは小さい男2人が誰かを囲うように立っていた。

 そして、その男達に囲まれていたのは少女だった。


 それを知ったユウスケは、目を疑って動けずにいた。

 だが、サヤが見つかるのは良くないと思いユウスケの腕を引っ張り来た道を戻ろうとした時だった。


 ユウスケはいきなり引っ張られた為、急に方向転換した事で足元にあった缶を蹴ってしまった。

『カーン』と狭い裏路地に以外と大きな音が響いた。


「!?」


 その音にその場にいた者全員が、音をした方を見た。

 そしてユウスケと大柄の男の目が合った。


「....」


 2人は黙っているとサヤが声を出した。


「行くよ!」


 そのままユウスケの腕を掴んで、来た道を戻り始めた。

 だが、すぐに大柄の男が叫んだ。


「っ! 今そっちに行った奴らを逃がすな!」


 するとサヤの進んだ方向から、2人のガタイが良い男が現れ行く手を塞いだ。


「どこから....」


 サヤの足が止まり、ガタイの良い男達は片手に鉄パイプを持って迫って来た為、正面を向いたまま後退した。

 結果的に逃げる事が出来ず、見つかった場所に戻って来た。


「見られたからには、逃がすわけにはいかねぇな....」


 大柄の男が迫って来て、サヤとユウスケは壁に追いやられる。

 するとサヤが反論した。


「貴方の事は知っているは、『暴風』オウル。偶然、私達は道に迷って会ってしまっただけで、貴方のやってた事に口出す気は無いし、外に漏らすことしないわ。だから、逃してちょうだい」

「何を適当な事を....」


 大柄な男の横にいた男がそう叫ぶと、大柄な男がそれを止めた。


「ほう、俺を知っているとはな。お前ただ者じゃないな」

「私は中央王都の案内人をやってるから、色々と知っているだけよ」


 大柄な男こと、オウルの問いかけにサヤは動じずに答えた。


「俺を知ってる奴と会うのは久しいから、見逃してやってもいいと思ったが......やっぱり、無しだ」

「な、何でっ?」


 サヤはすぐに問いかけるとオウルがユウスケの事を指差して答えた。


「そいつの目が俺に反抗的な目をしているからだ!」

「....」


 サヤがユウスケを見ると、オウルの言う通りユウスケは睨む様にオウルの事を見ていた。


「ちょっと、何してんのよ!」


 サヤは小声でユウスケに訴えかけた。

 すると、ユウスケは真剣な表情で答えた。


「何かあの子を放っておくのは、やっぱりダメな気がする」

「は? 人の事心配出来る身じゃないでしょ!」

「でも、ここで見捨てちゃいけないってそう思うんだよ! 何か分かんないけどさぁ」

「はぁ〜?」


 ユウスケとサヤが言い合っているとオウルが割って入って来た。


「オイオイ、俺を無視するじゃなねぇよ。俺は無視されるのが一番きらぇねぇんだよぉ!」


 オウルは勢いよく鉄パイプを振り上げて2人目掛けて振り下ろした。

 2人は離れる様にして鉄パイプを避けた。

 するとサヤに向かってユウスケはあるものを投げた。


「! ....何これ!?」


 サヤはユウスケから投げられた物を受け取り驚く。

 それはガスマスクだったのだ。


「いいから、それを被れ!」


 ユウスケの手にも同じ物があり、サヤに命令した。


「これを被ってどうするのよ!?」

「今から俺が一瞬だけ隙を作るから、アンタがあの子を連れて来てくれ!」

「何を言って....」

「いいから、早く!」


 サヤはユウスケに押し切られる様に、ガスマスクを被り言う事を聞いた。

 するとユウスケは、咄嗟にバックからスーパーボール程の球を3つ取り出した。


「!?」


 それを見たオウルは首を傾げた。

 そしてユウスケもガスマスクを被り、スーパーボール程の球を持ったまま手を挙げて、勢いよく振り下ろした。

 するとあたり一帯が煙の様な物で覆われた。


「ふっ! これで目くらましのつもりか....」


 オウルはすぐに鉄パイプを振りかざして、あたりの煙を払おうとした。



「おぉぉおらぁぁ....あっ....あっ........ハックション!!」



 何故かオウルはその場で大きなくしゃみをしてしまう。


「何だ....はぁ.....はぁ....ハックション!!」


 再びくしゃみをするオウル。

 それから目が痒くなり、手で擦りまたくしゃみをする。

 それは、オウルだけではなく周りにいた仲間も同様の現象が起こっていた。


「ハックション! ハックション!」

「め、目がぁぁはぁっくぢょん!」

「かいいよぉ〜ハックション!」


 それを見てユウスケがサヤに再度指示した。


「今のうちだ! 早く!」


 そう言われサヤは、一直線に少女の元に行き抱きかかえるとユウスケの元に戻り話す。


「さぁ、行くわよ!」


 サヤの言葉に頷くユウスケ。

 そして2人は、来た路地を戻り始めた。

 ユウスケは、またスーパーボール程の球を取り出して、向かってくるガタイが良い男達に投げつけた。


「ハックション! ハックション!」


 ガタイが良い男達はくしゃみが止まらず、サヤとユウスケを捕まえる事が出来ず、逃してしまう。

 そしてユウスケが、さらに逃げながらスーパーボール程の球を何個も落としていきサヤの後を付いて逃げた。


「ハックション! ハックション! ....クッソがぁぁ!!」


 するとオウルが片腕を振り上げると、手首のリングが光ってから振り降ろすと辺りに風が吹き通り、煙が消えた。


「まだ目が....」

「ハックション! ....うぅ〜....ボス....」

「テェメラァ! さっさとアイツらを追え!」

「でも、まだあの煙が....」


 仲間の奴が、ユウスケ達が逃げた先にも煙がまだ立ち上がっている事を伝え、少し怯えていた。


「こんなもんに怯えんじゃねぇよ!」


 オウルがその先に向かって腕を振り降ろすと、通路を覆っていた煙が消えた。


「イケェ!」

「あぁ、はぁい!!」


 仲間達は、すぐにユウスケ達を追いかけた。

 そしてオウルは、壁に向かって鉄パイプを叩きつけた。



「あのやろぉ....小賢しいマネをしやがって、誰に喧嘩を売ったか思い知らせてやる....!」



 オウルは、内ポケットから筒状の物を取り出し、付いていたスイッチを押すと宙にビジョンが映し出された。


「おい、テェラァ聞こえるか?例のガキが逃げ出した。王都の出入り口を全て見張って見つけ次第、拘束しろ!ガキを守ろうとする奴は、誰だろうと潰して構わん!」

「承知!」


 宙のビジョンから返答が返って来て、オウルはビジョンを消した。

 そしてオウルもユウスケ達が逃げた方に歩き出した。


 ――――――


「ハァ....ハァ....ハァ....」

「ヒィ....ヒィ....ヒィ....」


 ユウスケとサヤは通路を抜け、裏路地を出て人通りの多い広場のベンチに座って切らした息を整えていた。



「あんた....なんて事してんの....」

「だって....その子を....見捨てるなんて出来なかったんだよ....」



 ユウスケとサヤが助け出した少女は、少し服がボロボロで、髪もボサボサで、表情があまり変わらず黙りっぱなしだった。


「....」

「で、これからどうすんのあんた?」

「どうするって、何が?」

「はぁ?」

「え?」


 ユウスケとサヤは、両者の顔を見つめて互いに何を言っているのか分からなかった。


「いやいや、まさか何の考え無しであのオウルに喧嘩を売ったの!?」

「別に喧嘩売った訳じゃないぞ。その子を放って置けなかったんだよ....何て言うか、うまく説明出来ないけど、あのままじゃダメだと感じたんだ....」


「はぁー、呆れた。いい、オウルはこの街じゃ有名な裏社会のドンと呼ばれている人物よ。いくら初めてと言っても噂ぐらいは聞いたことがあるでしょう!」


 サヤの言葉にユウスケは、すぐ答えた。


「いや、知らないぞ....まぁ、やっちまった事はしょうがないだろ」


 ユウスケは自分の行動を後悔はしていなかった。

 そしてユウスケは立ち上がって、サヤの方を向いて口を開いた。


「その....何だ....ここまで色々と教えてくれてありがとう。最後は巻き込んじまったみたいで申し訳ない」


 頭を下げてサヤに謝った。



「こっからは俺の問題だ。その、お詫びとしてこれ貰ってくれ」



 そう言って銀札5枚を渡して、助け出した少女の方に行って話し出して、手を繋いで歩き出した。

 最後にもう一度振り返り、軽くお辞儀をして人の群れへと消えて行った。



「....向こうからそう言ってくれて助かったわ。厄介ごとは困るし、多めに貰えたし良かったのよ」



 サヤは、ユウスケから貰った銀札を強く握りしめながら呟いていた。

 そして立ち上がり、ユウスケとは逆の方に歩き出した。

 サヤは、おもむろに顔を隠す様にフードの様な布を取り出して頭に被せて歩いていた。



「......あいつは、いつもの客よ。私は悪くないわ....そう、関わるべきじゃない」



 そう『ブツブツ』言いながら歩いていたが、何故だか心に引っかかっていた。


「(じゃ、何でこんなに心に引っかかる?どうして私がそんな事を考えているの?)」


 サヤは自分の中の葛藤と戦っていた。

 そこに、前方から走って2組がサヤの横を通った時に話し声が聞こえて来た。


「もうどの門も封鎖済みで逃げ場はない。後は見つけるだけだ!」

「!」


 それを聞くと、サヤはその場で止まり振り返った。


「(もしかして、今のはオウルの部下....)」


 だが、すぐに首を振って元の方に体を戻してある始めた。



「(何してんだ....もう関係ないだろ。自分の事を考えろ、私っ!)」



 サヤはすぐに切り替えて歩き続けたが、途中で立ち止まって大きくため息をついた。

 そして、再び振り返り走り出した。



「あぁ〜もうっ!」



 ――――――



「(さて、ああ言って引き離して来たがどうするか....それにこの子も何も表情が変わらないし....う〜ん〜....)」



 ユウスケは少し困りながら、助けた少女を真横に引き連れて歩いていた。

 そして、少女の方をチラッと見て考えた。



「(やっとさっき親もいないって聞き出したけど、このまま連れては行けないしな.....う〜ん....しょうがない、ここまで来たけど一度〈ハマラジ〉に戻って預かってもらうか)」



 ユウスケは、そう決めると王都にやって来た場所の門に向かって歩き出した。

 そして歩きながら、少女に話した。


「え、え〜っと、名前まだ聞いてなかったけど君の名前は?」

「....」


 少女はユウスケの方を見て、首を傾げた。


「名前だよ、名前。さっきも言ったが俺はユウスケ」

「....名前....ユウスケ....」


 少女はユウスケを指差して呟いた。


「そうそう....それで君は?」

「........私....名前.....ない」

「ナイ?」

「ない」

「ナイ....か」


 そして2人の間に少し沈黙の時間が流れたが、すぐにユウスケがそれを破った。


「じゃ、ナイ。このまま俺の旅に付き合わせられないから、一度〈ハマラジ〉に戻るから俺の家で暮らしていけ。あそこは皆んな優しいし、楽しくやっていけるはずだ」

「ない? ....ハマラジ....家....皆んな....楽しい....」


 ユウスケと少女の会話が少し噛み合っていないが、そのままユウスケは気付かず話を進めた。


「お前に何があったかは分からないが、このまま投げ出すことはしないからな」

「....ユウスケ....」

「ここで話すより、歩こうか。雑談でもしながらさ」

「雑....談....?」


 ユウスケと少女は、チグハグながらも話しながらユウスケがやって来た南門へと向かった。



 ――――――



 サヤは息を切らしながら、王都の南門近くの物陰に隠れていた。


「ハァ....ハァ....ふぅー......アイツは、もう来たのかしら」


 サヤはあれから、裏道を使って最短で南門まで辿り着いてユウスケを探していた。


「オウルの部下が沢山居るみたいだけど、もしかしてもう捕まってたり....」


 そんな心配をしていると、サヤの近くにオウルの部下が近寄って休憩を始めた。



「おい、言われた人物は本当にここに来るのか?」

「ボスの言うことですし、合ってる筈ですよ。それに、そいつボスに喧嘩を売った奴らしいですよ。」

「マジかよ! それは終わったな。」



 そんな話をしていると、遠くの別の奴に呼ばれてそっちに言ってしまった。


「ユウスケの奴、まだここに来てない。既にこの国から出てる事は考えにくい....」


 サヤは、その場で少し考えた後に、来た道を戻り始めた。


「女の子を連れている状態だし、どっかで休んでいたりするのかも」


 そのままサヤは、裏道を駆け抜けて行った。



 ――――――



「う〜ん....」


 ユウスケは、物陰に隠れて表通りを見て唸っていた。


「どうしたの....ユウスケ....?」

「いやな、さっきから俺達を探している奴らがウロチョロしてるみたいなんだよ」

「?」


 ナイは、あまり状況が分かっていないので頭を傾げていたが、ユウスケは見つかるのは何か危ないと思い隠れながら南門へと向かっていた。


「これじゃ、南門にたどり着けないな....それに、どんどん探してる奴らが増えてる気がするな....」


 ユウスケとナイは、ほとんど身動きが取れない状態に陥っていた。

 そこに後ろから、ユウスケの肩に手を乗せられた。


「!!」


 ビックリしたユウスケが、ゆっくり振り返るとそこには、膝に手を当てて俯いて息を切らしていたサヤがいた。



「....サヤ....か?」

「サ....ヤ?」



 ユウスケに続いてナイが同じように呟いた。



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