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異世界姉妹と始める領地経営 婚約者が前世の妹で逃げられない  作者: 緋色の雨
第三章

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あらたな一歩 2

 ルコの町の、屋敷の者達の協力は取り付けた。だがそれは、住民達の支持を得ることと同義ではない。町の住民から見れば、屋敷の者はすべてロイド兄上の配下だ。


 むろん、ケープスが食料を取り寄せていたことなど知っていた者もいるかも知れない。だが、ロイド兄上が知らなかったように、多くの者はその事実を知らない。

 町の住民に対しても、俺とロイド兄上は違うと言うことを印象づける必要がある、


 ――ゆえに、俺は奴隷商のもとを再び訪ねた。商談をおこなうための応接間で、俺は彼と差しで向かい合う。彼はなにやら興味深そうな顔で俺を出迎えた。


「それで、今日はなにやらご提案があるとのことですが?」

「そうだ。おまえに、あらたな事業を興してもらいたい」

「……あらたな事業? 残念ですが、私は奴隷商です」


 彼の反論を手で遮る。


「おまえが奴隷を売買する理念は理解しているつもりだ。ゆえに、この話はおまえにもって来た。また、奴隷商を止めろという意味でもない」

「……聴かせていただきましょう」


 フィリップが聞く態勢に入る。それを見定め、開墾クジなる事業のために、迅速に町の人間の信頼と理解を得る必要があることを打ち明ける。

 だが、平民の識字率は低い。

 彼らの信頼と理解を得るには、人を使って説明するのが一番だ。


「ゆえに、おまえのところの奴隷を一時的に貸して欲しい」

「一時的に、ですか?」

「そうだ。むろん、相応の対価は支払うぞ」


 奴隷商というのは、買った人間をそのまま売るのが仕事ではない。最低限の教育を施したりして、その商品価値を高めて売りつけるのだ。

 むろん、そうでない奴隷商もいる。

 だが、フィリップの理念を考えれば、教育を施しているはずだ。そしてそういう人間であれば、町の住民達に開墾クジがなんなのか説明させることも難しくない。


「……なるほど。その一件のためだけに買うのはもったいない、と」

「こちらの事情としてはその通りだ」


 リーシアくらいの受け答えが出来る程度の奴隷はそれほど高くない。けれど、今回の一件のためにだけ買うには無駄が多すぎる。

 日雇いの労働者として貸し出して欲しいという提案だ。


「……話は分かりました。先払い、かつ一時金として担保を預けてくださるのであれば、奴隷を貸し出すことに異論はございません」


 それは助かると安堵する俺に対し、フィリップはですが――と続けた。


「アレン様はあらたな事業と仰いました。それはどういうことでしょう?」

「簡単なことだ。いまのやりとりを、そのまま事業にしないか? という話だ」


 普段はなんらかの仕事に就かせておき、能力に応じて必要とする場所に派遣する。その事業を奴隷商の副業としてはどうか、という提案だ。


「……奴隷を派遣、ということですか?」

「その通りだ。購入側の利点は言うまでもないことだが、販売側にも利点は存在するぞ。普通の奴隷であれば、教育して売りに出せばそれで終わりだが……」

「派遣先でスキルを身に付けた奴隷は、次は料金を上乗せできる、ということですね」


 フィリップは即座にこちらの意図を読み取った。

 たとえばリーシア。

 ただの平民の娘である彼女は安価だったと考えられる。だが、貴族の屋敷で働いているいまの彼女は、購入価格よりもずっと高く売れるはずだ。

 もし彼女が派遣だったとすれば、二度目の派遣はずっと値段が高くなる。


 むろん、機密保持的な観念から重要な役回りを任せられないなどの問題もあるが、そういったデメリットを差し引いても需要はあるはずだ。


「利点は理解できました。ですが、他所の人間に取られる危険がありますね」

「そこは、お前が奴隷と同様に契約してしまえばいい」


 いまのこの国にとって、奴隷制度は残念ながら必要だ。ゆえに、俺は別に奴隷制度を廃止しようとしている訳ではない。

 奴隷商の事業を活性化させることで、奴隷の価値を高めるのが目的だ。


 派遣制度が広まれば、奴隷がぞんざいに扱われる可能性は減る。しっかりした場所に派遣を繰り返すことで、奴隷の派遣によって得られる値段が上がっていくからだ。

 また、奴隷の貸し出しに担保を出させることで、貸出先での扱いも良くなるはずだ。フィリップの幼馴染みのような悲劇も減るだろう。


「疑問があります。なぜ、貴方はその事業を自分でしようとしないのですか?」

「理由は二つある。一つは、俺に奴隷商としてのノウハウがないからだ」


 この事業に関しては、そこまで莫大な利益を生むとは考えていない。ゆえに、貴族制が脅かされる心配はない。出来る者がいるのなら、そいつに任せてしまえば良い。

 軌道に乗りさえすれば、派遣奴隷が全国的に広まっていくだろう。


「では二つ目の理由について質問です。貸し出すと言うことは、貸し出し相手がいないあいだのことも考えなければいけません。貴方はなにかアイディアがありますか?」

「むろん、いくつかある」


 一つ目は、実家から通わせる方法だ。

 多くのスキルを身に付けた高価な奴隷になると誘拐などの不安も出てくるが、そうでないのであれば有効な手段だ。なにより、リーシアのように、この冬を越せないからという理由で売られる者にとっては救いとなるだろう。


 二つ目は、奴隷商が奴隷のスキルに応じてなんらかの仕事を与えることだ。自分達の仕事を手伝わせても良いし、何か別に事業を興してもいい。


 それらのアイディアを伝えた俺は一息明けて、もしくは――と三つ目の提案をする。


「仕事がないあいだ、一部の奴隷を預かってやっても良いぞ。衣食住、それらと引き換えに、奴隷達の能力を鍛えてやろう、実地で」


 フィリップはキョトンと間の抜けた面を晒した。

 それからほどなく、声を上げて笑い始めた。


「くっ、くくくっ、なるほど、なるほど! 貴方は最低限の報酬と引き換えに、必要なときに必要な人材を得られる。私は余っている奴隷を貴方に預けることで維持費を抑え、なおかつ奴隷の商品価値を高められると、そう言うことですか!」


 フィリップは楽しげに手を叩く。

 そうしてひとしきり笑うと、俺に向かって手を差し出してきた。


「さすが、私が見込んだお方だ。詳細は後日話し合うことにして、まずは貴方がいま必要としているだけの奴隷を貴方に預けましょう」

「商談、成立だな」


 フィリップの手を握り返す。こうして、俺は必要最低限の報酬のみで、開墾クジの開催に必要な人材を手に入れた。



 そこからはあっという間だった。

 屋敷の者達に、借り受けた奴隷に必要なことを学ばせる。それと同時に開墾クジを開催すると町の者達に通達する。

 それがどういうもので、どういうメリットとデメリットがあるのか、借り受けた奴隷達を町の各所に派遣することで丁寧に説明をさせる。

 そういった努力により、目標としていた程度の参加者を集めることに成功した。


 また、能力に応じて報酬である食料を支払うことで、子供でも参加できるようにする。むろん金額は少ないが、口減らしを防ぐ一因とはなるだろう。


 仕事の内容は開墾、その他には水路を引いたり、水害の起きそうな場所の治水工事。それによって、町から近くとも手付かずだった土地に畑を増やして行く計画だ。

 そうして開墾が始まって数日経ったある日。視察に出向いた俺は、作業現場で見知った男を見つけた。リーシアの父親である。


「少し話を聞かせてもらえるか?」

「おや、あんたは……って、その恰好は――っ」


 服装から領主だと判断したのだろう。

 だが、その顔が見知った人間であることに気付いた彼はその場で跪いた。


「ま、まさか、領主様とは夢にも思わず、無礼な態度をお許しください」

「いや、構わない。それよりも、少し話がしたい」

「し、しかし、俺、いえ、私は見ての通り仕事中でして……」

「心配するな。俺と話すのも仕事のうちだ」


 それを聞いていた監視の男が、心得ておりますと応じる。それを見届け、俺は再びリーシアの父親へと視線を向け、立って楽にするように促す。


「そ、それで、話とはなんでしょう?」

「うん。まず、おまえがここで働いている理由だ。店は一時的に閉めたのか?」

「いえ、在庫がかさばっているので、工房だけを閉めました」

「つまり、店は開いているということか?」

「はい。店番は妻と息子にまかせています」

「なるほど……」


 俺はあらためて周囲を見回す。

 女子供もちらほらといるが、やはり圧倒的に男手が多い。おそらく、この男と同じように考えて行動に移している者が多いのだろう。


 効率的なやり方ではあるが、在庫が捌けるまでは商品の値段は戻りそうにない。リリアと交渉して、一部税率の引き下げに応じさせておいて正解だったな。

 それからいくつか話を聞いた俺は、あとで家を訪ねると伝えてその場を立ち去った。



 夕暮れ時。

 屋敷で所用を済ませた俺は、あらためてリーシアの実家を訪ねた。おばさんとラルフは、親父さんから俺の素性を聞いたのだろう。緊張した様子がうかがえる。

 どうやら、用件を伝えなかったがゆえに、不安を煽ってしまったようだ。


「気になっているようだから単刀直入にいこう。リーシアから手紙を預かってきた」


 羊皮紙は高価なので、差し出した手紙は木簡だ。

 親父さんに向かって差し出すと、それをラルフがかすめ取った。だがそこに書かれている文字に目を通すと「うわぁ、読めねぇ~」と頭を抱える。


「おまえはなにをやっているんだ、貸せ、俺が読んでやる」


 親父さんがラルフの手から木簡を奪い取り、その文字に目を通す。視線を動かしながら文章を読んでいた彼はそのまま黙り込んでしまう。


「父ちゃん、なんて書いてあるんだよ!」

「ご主人様によくしてもらっているから、心配しないで、だそうだ。だが、リーシアは名前くらいしか書けないはずだ。この文字は……」

「本文は代筆だが、名前は本人の手書きだぞ」

「あぁ……たしかに、その通りですね」


 それを聞いたおばさんとラルフが安堵の溜め息をつく。


「じゃあ、姉ちゃんは元気にやってるんだな!」

「ああ、そうだ。ここにはそう書いてある」


 無邪気なラルフと違って、親父さんは少しだけ憂い顔だ。木簡はその大きさから、必要最低限のことしか書かれていない。

 本当に彼女が大丈夫なのか、親父さんはまだ不安なのだろう。


 彼女が屋敷にいると伝えることは簡単だが、彼女はここに戻ることは出来ないと言っている。果たして、その辺りを伝えることが彼らにとってプラスになりうるか……


 視線を彷徨わせていた俺は、売り物である土器に目を向けた。平民が使う安価な食器だが、デザインは決して悪くない。

 陶器なら、特産品になり得るんじゃないか?


「親父さん、陶器を作ってみるつもりはないか?」

「陶器、ですか? 話には聞いたことがありますが、あれはたしか高温の炉がいるのでは?」

「その気があるのなら、新しい炉などは手配してやるし、必要な初期費用は融資してやる。むろん、商売が軌道にのったのなら返してはもらうがな」

「それは、たしかに魅力的な話ではありますが……」


 ざらついた土器ならそこらで手に入るが、ガラスのように艶のある陶器は希少だ。シャンプーやリンスのように新しい商品ではないが、珍しい商品ではある。

 もしそれを作って販売できるのであれば、店は一気に建て直すことが出来るだろう。

 だが、上手い話には裏がある――と警戒しているのだろう。彼は、どうして私にそのような話をと問い掛けてきた。


「一つは産業の幅を持たせたいからだ」


 同じモノばかり作るから飽和して価格が崩壊するのだ。産業に幅を持たせれば、今回のようなことが起きてもここまで値崩れすることはなかったはずだ。


「そしてもう一つ。リーシアは俺の屋敷でメイドとして働いている」

「……なっ」

「――ど、どういうことだよ!? おまえは俺を騙してたのか!?」


 一瞬の沈黙をはさみ、ラルフが掴みかかってくる。

 それより一呼吸おいて、我に返った両親がラルフを止めようとする。が、俺は構わないとそれを遮った。そのうえで落ち着けと、ラルフに声を掛ける。


「ラルフ、よく考えて行動しろ。お前の言うとおり、俺がおまえを騙していた悪人なら、こんなことをして、おまえの姉がどんな扱いをされても文句は言えないぞ」

「そ、それは……」

「それに、おまえの誤解だった場合はどうだ? 味方かも知れない相手に喧嘩を売って、おまえの姉の扱いが良くなるのか?」

「うぐ……」


 考えなしだったのだろう。俺の服を掴む力が弱くなる。


「まぁ、姉を心配する気持ちは分かるけどな。ひとまず事情を話すからその手を放せ」

「……分かった。その……ごめんなさい」

「分かれば良い」


 素直なのは良いことだと、俺はラルフの頭をぽんぽんと叩いた。


「さて。単刀直入に言おう。調べて分かったことだが、領主が代わる際に補充されたメイドの一人がリーシアだった。彼女はいま、屋敷で働いている」


 通常、奴隷が貴族の家でメイドに抜擢されるようなことはない。領主が急に代わったことで出来た例外のように印象づけておく。


「じゃあ、姉ちゃんは本当に元気に暮らしてるのか……ですか?」

「……ああ、おまえの姉ちゃんは元気だ。奴隷として購入した以上、この家に戻してやることは出来ないが――新しい事業の連絡役に任命することは出来る」


 その言葉と共にこの工房の売り物である土器へと視線を向ける。

 リーシアは、経済状況的に家に戻ることは出来ないと言った。ならば、一緒に仕事をさせてやれば良い。そのうえで、この工房の経済状況が好転したときに彼女を譲渡する。

 俺はメイドを一人失うことになるが、この工房との連絡役を失うことはない。


「無理強いはしない。だが悪い話ではないはずだ」

「……はい。どうかそのお話、承らせてください」


 こうして、新しい事業の計画が立ち上がった。

 だが、陶器を作るにはいくつか専用の道具が必要となる。ひとまずは開墾クジの現場で働くように指示を出し、準備についてはクリス姉さんに依頼する。


 そうして一ヶ月ほど過ぎたある日。

 町の広場では第一回の開墾クジの発表がおこなわれていた。


 日雇いとしての報酬である食料は毎回渡しているのでその点は信頼されているが、クジの当選については今回が初めてだ。

 一応集まってはいるが、半信半疑な者が多いように見受けられる。


 だが、一番下のアタリが発表され、少量ながらも食料が追加で与えられていく。その当選数は非常に多く、当選者はむろん、家族や友人から当選者が出ることで驚きの声が上がる。

 それからぐっと数は減り、あらたな農具などが配られていく。


 ちなみに、あらたな農具とは、ジェニスの町で広まりつつある農具のことである。

 ジェニスの町ではイヌミミ族から順次、その道具の利便性を広めていった。この町では、アタリの賞品として手に入れた者達が使うことで、その利便性を広める予定だ。


 そして最後は、あらたに開拓された畑。治水工事によって一等地となった畑を手に入れた者達は狂喜して、他の者達は当選者に羨望の眼差しを向ける。


 こうして、第一回の開墾クジは終了して、続けて第二回の開墾クジを開催する。第一回の開墾クジの結果が喧伝となり、参加者は大きくその数を増やしていった。


 こうして、産業が一時的に抑制されることにより供給過多の状態は終わり、少しだけ取り引きに掛かる税を下げることで商人達が立ち寄るようになる。

 ルコの町の景気は少しずつ、けれど確実に復調していった。


 ――そして、更に数週間過ぎたある日。

 俺はエントランスホールに集まった屋敷の者達に別れを告げていた。町の立て直しを終えた俺は、再びジェニスの町へと戻ることになったからだ。


 ただ、俺が色々と新しいことを始めたため、町の管理は引き続き俺がおこなう。その代官となる者に引き継ぎを終え、俺は屋敷の者達に別れを告げた。


「アレン様、何から何までありがとうございました」


 リーシアが屋敷の者達を代表するようにぺこりと頭を下げる。彼女は新しい事業の連絡役として、町と屋敷を行き来している。

 最近とみに明るくなったことと、決して無関係ではないだろう。


「私、こんなにも色々としてもらったのになにも返せていません。どうしたら良いですか?」

「俺は町を離れるが、これからもルコの町は俺の管轄下だ。だから、おまえは、おまえ達は、この町を護るために全力を尽くせ」

「……分かりました」


 リーシアは一度佇まいをただし、深々と頭を下げる。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様。おかえりをいつまでもお待ちしています」


 その言葉に呼応するように、他の者達までもが一斉に頭を下げる。それを見届けた俺は、行ってくると告げ、クルリと身を翻した。

 

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悪役令嬢の執事様
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