Ready for…
(何考えてんだ梓の奴!?偶然を装って化学の先生に話しかけろだと?)
一見簡単そうに思えるが話はこれだけでは終わらない。チャンスは1度きり、しかも1回でも俺の存在が誰かに認識されればこの仕事は失敗するとまで釘を刺されたのだ。
それで俺は今、誰もいない保健室で待機中な訳で……
『……保健室を出るタイミングは大河が教える。それまで話題でも考えておくことだな』
インカムを通じて梓に指示を受ける。とりあえずこれからよろしくお願いします的な挨拶をして、今後の勉強方法とか聞けばいいんだよな。元々理系科目は好きだし、授業が始まったらいろいろ聞くつもりだったから個人的には良い機会だと思っているんだが……
『梓、話しかけるタイミングも任せてくれねーか』
しかしそこで別室で待機中の大河がとんでもないことを口にした。叫びたくなる衝動を抑え、俺は梓の言葉を待つ。
『……いいぜ、お前と流星なら大丈夫だろう』
『つーわけで任せとけ流星』
「お前ら……話しかける方の身にもなって見極めろよな……」
どうやら俺の運命はこの2人に委ねられたらしい。もちろんこの仕事とやらの成功も。
とにかく俺の仕事は化学の桐谷先生に話しかけて雑談をすること。気負わずにさりげなく声を掛けよう。
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わいわい騒ぐ新入生が入学式を終え、全員校舎から出たことで保健室前の廊下もだいぶ静かになった。外から見られてもバレないようにベッドの陰で待つこと10分、ついに大河からゴーサインが出た。
『目標は2階の階段を上がっている。そのまま4階の俺らの教室まで向かってるから、気付かれないようにこっそりな』
「了解」
俺は音を抑えながら鍵を開けドアを閉めると静かに階段を上っていった。正直緊張していないと言ったら嘘になる。さっきまでは普通だったのに、いざ作戦が始まると心拍数が上がっているのが自分でも分かる。先生に話しかけるのを難しいと感じるなんて、まるで意中の女の子におはようとでも言うみたいだぜ。
『……流星、少しだけ急げ。それで4階に着いたらそのまま行け』
すると3階の階段を上がっている時に大河が指示をする。奴の声に焦りはなかったが俺は少し動揺していた。
だがもう後戻りはできない。
俺は2段飛ばしで階段を駆け上がり、4階に来て左に曲がると同時に言った。
「桐谷先生……?」
そこにいたのは、ツインテールの女子高生に手を伸ばす白衣姿の化学教師だった。
ちょっと長引きそうだったので今回はここで止めました←
そして続きは来週までのお預けということで(笑)
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