Truth
「失礼します……」
レッドカーペットが広がる校長室には、高級感あふれる応接用のローテーブルにソファ、校長先生が使う木目のツヤがかった大きな机と黒革のふかふかそうなチェア、さらに両サイドには腰くらいの高さの棚が置いてあった。校長室にしては随分と豪華な感じがする。
「全く……どこをほっつき歩いていたんですか」
ラグビーでもやってそうなガタイの良い男性がため息をついてそう呟く。
「お待たせしてすみません西園先生、ちょうど彼にあったのでつい!」
しかし校長先生は気にもとめずにこやかに返した。西園先生の方はいつものことだから仕方ない、とでも言いたげな表情を浮かべている。
「あ、ご紹介が遅れましたね。こちらはキミの担任の西園先生です!教科は世界史で生活指導主任も……」
「校長先生、HRの時間が近づいているのでこのへんで」
「えぇ〜いいじゃないですか〜井上くんだって知りたいですよね?」
「あー……まぁ…………」
正直な話もうあらかたのことは分かった。つまりは怒らせるなと。
「……本人も十分承知しているようなので必要ありません」
「そのようですね。せっかく教えようと思ったのに残念です」
「あの2人して俺の心の中を読まないでくれませんか?」
この学校には超能力者が一体何人いるんだ?まさか教職員全員が心を読めるなんてことが……
「まぁ何かあったら西園先生に相談して下さい!しにくければ私でも構いませんがね」
俺の不安をよそに校長先生は笑顔で言う。(おそらく真意は筒抜けかもしれないが)
「あ……はい、ありがとうございます」
「行くぞ井上」
校長先生とは対照的に、西園先生は我関せずな態度で足早に校長室を出て行く。俺も校長先生に一礼して慌ててその後を追っていった。
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「……ところで井上』
不気味なくらい静かな階段を上り、4階の教室に向かう途中で西園先生が口を開いた。
「お前の成績には何も心配もない––––––––武格は別だがな」
"武格"の2文字を聞いた俺は俯いた。先生の言う通り、俺が1番嫌いな教科は間違いなく武格実習だ。高校から必修になったこの教科のせいで俺は退学させられたといっても過言ではない。かと言って転入先のこの高校でも武格は避けることが出来ない。
「武器の方は使えそうか?」
「……使えたら転校なんてしてませんよ」
「そうだろうな」
淡々と返事をする西園先生だが、かえってそっちの方がありがたい。前の学校は文武両道が当たり前みたいな風潮が強かった分、少し気楽でいられそうな気がした。
確かに俺はあの日以来、鞘から刀が抜けないままでいる。これは武格以前の問題だ。戦う意思を示そうとしない者に評価がつけられないのは当たり前。だから俺は退学になったのだ。
「––––––でも、この学校なら出来る気がするんです」
先生が一瞬こちらを向いたが、すぐに教室の扉に視線を戻し手をかけた。
ガララッ、と扉が開く音がする。
そうさ……だって俺がこれから過ごすのは––––––––––
「ほぼ100%女子のハーレムな環境……!!」
「「「Welcome to 紅葉橋ーーー!!!」」」
「そこに不可能など……………………」
クラッカーが鳴り響く中、俺は違和感を感じじっくりと教室を見渡してみた。
「「「………………………………………………え?」」」
パンッ!とクラッカーが虚しく音を立てる。
教室の至るところに落書きや刃物の斬り痕があり、机は無造作に置いてあった。
いや驚くのはそこじゃない。
「「「何で女子じゃねぇんだよ!?」」」
男、男、男。360度見渡してもそこには男しかいなかった。
待ってくれ!俺の……俺のハーレムな高校生活は夢オチに終わるのか!!
「……流星?」
悲しみに暮れる中、1番後ろの席に座っていた1人の男子生徒が俺を見て勢いよく立ち上がった。ワックスで立てた金髪に片耳の十字架ピアス、女子モテ不可避なルックスの男子生徒。
おおっ!まさか、あいつは––––––––––
「早く席に戻らんかお前らぁっ!!」
感動の再会より西園先生の堪忍袋の緒が切れる方が先だった。
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