5話 さしのべられた手
それから数時間後、国の兵士らしき人が来た。
…遅い。何もかも。
どうして今頃…
「これは酷い…。生存者はいるか⁉︎」
「流石に…これはもう…」
そこで俺はゆっくりと立ち上がる。
「⁉︎…おい!生存者だ‼︎」
「何⁉︎」
兵士達は俺のところへ来る。
「おい!大丈夫か⁉︎ ワイバーンは? ワイバーンはどうなった⁉︎」
俺はワイバーンの死体を黙って指差す。
「そうか、ありがとう」
兵士達は確認の為、俺と一緒にワイバーンのもとへ行く。
「こ…これは⁉︎」
「黒焦げ…」
「一体、誰がやったんだ?」
「恐らく、村の男達だろう。火の使い手たちが魔法を使い、最後は両方力尽きた…か?」
「でも、その割にはワイバーンの周りにいる人達が少ないんじゃないか?」
そこで俺は静かに手を挙げる。
「どうした?」
俺がやった。
…そう言いたい。
村の人達も、俺のせいで…
でも、口が震えて声が出ない。
そんな様子を見ていた一人の赤い髪の兵士…いや、装備からして騎士というべきか。
騎士が俺の近くへ来た。
「ア…アレキス様⁉︎」
どうやら、相当偉い人の様だ。
「お前が…やったのか?」
俺は黙って頷く。
「お前の名は?」
俺は震える声で言った。
「ヴァ…ヴァリス…・エ…エルドリクス」
「そうか、ヴァリスよ。これはお前がやったんだな?」
「…はい」
「その時のこと、説明してくれるか?」
俺はあの時の事を思い出す。
そして、糸が切れた様に泣き出すと、
「俺が、俺がやったんだ! 俺が…その、ワイバーンも、村の人達も‼︎ 俺のせいで!!」
「お前のせい?」
そこから俺は泣きながら伝えた。あの時のことを。
「本当にお前一人で? 見たところ、まだ子どものように見えるが……」
「頭が真っ白になって…そしたら、魔法が暴走して…炎が…」
アレキスは、暫く黙っていたが突然兵士を呼びつける。
「おい!連絡係!……ああ、……そうだ。分かったか?じゃあ頼んだぞ」
連絡係だと思わしき兵士が、ビシッと敬礼してそのまま馬に乗ってどこかへ行ってしまう。
アレキスはその兵士を見送った後、こちらをみて言った。
「とりあえず、ここを離れよう。ここにいてはお前も辛いだろう。まずは王都に来てくれないか?」
一瞬、何のことか分からなかった。
(それは、俺の故郷を離れろってことか?今離れたら、きっともうここには戻れない。それに俺はみんなを……俺にはここを離れて生きる資格は無い)
そんな事を考えていたら、涙が、そして怒りが込み上がってきた。
(この人は悪くない。分かってる。だけど……だけど……!)
「何言ってんだお前⁉︎ ふざけんな‼︎ 俺はみんなを殺した。俺は償わなければならないんだ‼︎ 一生この村で、一人で過ごして…! 俺が殺したのに。俺だけ生き残って…そんなの。許される訳ないだろ⁉︎」
「ヴァリス…」
「来るな‼︎」
それでも向かってくるアレキスに、ファイアーボールをとばそうとした。
…が、魔力が尽きていて、発動しない。
俺はヴァーシスから貰った剣を抜き、アレキスに向けた。しかし、アレキスは歩みを止めない。
「これ以上近づくな‼︎」
「…その剣、父親の形見か?」
「っ‼︎…うるさい‼︎」
俺はアレキスに切りかかる。
こいつは国の騎士だ。
こんなの避けられる、そう思って。
しかし、アレキスは避けなかった。俺が振りかぶった剣は、アレキスの肩に刺さっている。
「あ…ああ…」
頭が真っ白になった。
剣から赤い液体が滴り落ちる。
……血だ。
あの時の、アリスが、エリスとヴァーシスが自分を身を挺して守った時の映像が、フラッシュバックする。
俺は剣を離し自分の手を見る。
(…また、やってしまった)
意識がとびかける。
しかし、
「大丈夫だ。俺はこんなものでは死なん。…さっきの話を聞いたところ、お前の父親は大切な人を守る為にこの剣を振るえと言ったな。お前はこの剣を今何の為に振るった?少なくとも、自分や大切な人を守る為…ではないな。その剣は、そんな醜い感情で振るってはいけない。」
「…。」
「…お前は、約束したのだろう?父親と。お前は賢い。それを忘れていたのではないだろう?それに…お前のした行動を罪だなんて言うな。お前の両親は、お前に生きて欲しいと願った。お前はその想いを踏み躙るのか?…大丈夫だ。お前が何と言われようと、俺はお前の味方だ。」
気がついたら、俺は大声で泣いていた。
いい年こいて、大声で泣いた。
そして眠くなり、いつの間にか寝ていた。