3話 ワイバーン襲来、そして独り
いつものように朝起きて、朝食を食べながら今日の訓練についてエリスとヴァーシスと話していた時の事だ。
突然村の男が大慌てで家の中に入ってきて、青い顔で叫んだ。
「大変だ‼︎ワイバーンが…!ワイバーンが村に…!」
「なんだと…!」
俺たちが慌てて外を見ると、ワイバーンがすぐそこにまで迫ってきていた。
「何でこんなところに……お前たちは家の中に入れ!いいか、絶対に外に出るなよ!」
ヴァーシスはそう言って、先程の男と手分けして村中の男たちに声をかけ、ワイバーンの討伐に向かった。
弓矢、攻撃魔法……腕のある者は斧や槍などを手に取り、村を守るため、勇敢にもワイバーンに挑んだ。
しかしワイバーンは、沢山の魔法が飛んでくるなか、そんなもの痛くも痒くもないと言うようにブレスを吐き、目についた村人を全て喰らっている。
村人は涙を流し、叫び声をあげながらワイバーンに身体を貫かれ、なす術なく食べられている。
ワイバーンのブレスで村は炎の海と化している。
そして、その牙は俺たちのところにも来た。
ワイバーンが俺に向かって飛んできたのだ。
しかしその時ーー
「ヴァル君‼︎」
俺を呼ぶ声が聞こえた。
ワイバーンはその声の主に意識を向ける。
ワイバーンが振り返ったその先にいたのは……アリスだ。
運が悪く、アリスは俺よりもワイバーンに近い位置にいた。
ワイバーンは方向を変えて、アリスの所へ向かう。
「あぁ……い、いやぁ…た、助け…」
「アリス‼︎」
「ひっ!いやぁあああ!…がっ…」
そんな俺の叫び声も虚しく、アリスはワイバーンに食べられてしまった。
「ア、アリス?そんな…!アリス⁉︎アリス⁉︎アリス‼︎」
俺は必死に叫ぶ。
そんな俺のところにワイバーンは飛んで来た。
「あ…あぁ…」
「ヴァル‼︎」
エリスの声だ。
「母さん!来るな‼︎」
それでもエリスは向かって来る。
エリスが来てしまっては、二人とも食べられてしまう。
俺はエリスの前に立つ。
「食べるなら…俺を食べろ‼︎」
ワイバーンは俺を串刺しにしようと、爪を立てて攻撃してきた。
「っ…‼︎」
ドスッ…そんな音が辺りに響き渡る。
(……あれ?痛くない)
ゆっくり目を開ける。
するとそこには…
「父さん⁉︎母さん⁉︎」
エリスとヴァーシスが、ワイバーンに体を串刺しにされていた。
ヴァーシスが口から血を吐きながら言う。
「ヴァル…すまん…。遠くからお前が襲われているのを見て…必死に走ったのだが…」
ヴァーシスは絶命したエリスの頬を撫でる。
「母さんを…守れなかった…アリスも。駄目な父さんでごめ…んな」
そこでヴァーシスはガハッと血を吐く。
「父さん‼︎待って!今から治癒魔法かけるから‼︎」
俺は必死に治癒魔法をかけようとする。
しかしヴァーシスはそれを拒む。
「もう…無理だ。それより…顔をもっとよく見せてくれ…」
俺は黙ってヴァーシスの方を見た。ヴァーシスは泣いていた。
「あぁ…もっと、一緒に遊びたかっ…た。もっと抱きしめたかった…。一緒に…訓練して強くなって…いつか、一緒に狩りに出たかった…。ヴァルが…成長していく様子を見れないのが…辛い…」
ヴァーシスが俺の頬を撫でる。
「できれば…お前の前で死にたく…なかった…。カッコいい父さんで…いたかった…」
ヴァーシスは自分の腰にささっている剣を差し出す。俺はそれを黙って受け取った。
「ヴァル、お前は優しい…。そして…優秀…だ。お前なら…大切な人を…守れる。この剣を…ヴァルに…や…る」
「父さん…」
ヴァーシスは微笑んで、言った。
「俺たちのもとに…生まれてきて…ありが……と…う」
そこでヴァーシスの瞳の輝きが失われ、動かなくなった。
「父さん…?父さん⁉︎父さん‼︎」
「ガアァァァァァ‼︎」
俺がエリスとヴァーシスの前で泣いていると、ワイバーンが攻撃をしてきた。
(こいつに…こいつに殺された。父さんも、母さんも、アリスも村の人達も‼︎)
「…許さない」
ゆっくりと立ち上がる。
「…許さない。許さない!許さない‼︎」
ワイバーンは一瞬立ち止まる。しかし、こんな子供に、と思ったのかまた向かって来る。
「…殺す。殺す!殺してやる‼︎」
その刹那。俺を中心に炎の柱が出現する。
「あぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「ガッ!グガァァ‼︎」
ワイバーンが悲鳴をあげる。
「死ねぇぇぇぇぇ‼︎」
「ウガッ‼︎ガアァァァァァ‼︎」
ドオォォォォン‼︎
ワイバーンが大きい音を立てて倒れた。
「ハァッハァッハァッハァ…ハァ…」
すっと意識が途切れる。