19話 野外授業 準備編
少し長いです
「じゃあ、行ってきまーす」
「あ、ちょっと待ってくれ」
待ち合わせの時間の40分前に家を出ようとしたところでアレキスに呼び止められ、俺は足を止め、振り返った。
「明後日の野外授業って二泊三日だよな?」
「そうだけど……」
「なら、二日分の食事を帰ったら作ってくれないか?」
「えー……」
手を合わせて拝んでいるアレキスを見ながら、面倒くさいので不満の声をもらす。
「フランさん達に作ってもらえばいいだろ?」
「いや、お前のがやっぱり一番うまいんだ。せめて夕食分だけでも作ってくれ」
前に一度、アレキス達に料理をふるまったことがあった。
この世界の料理は不味くはなく、むしろ美味しいのだが、やはり異世界。どちらかというと洋食よりだった。
そんな中、日本食を食べたくなるのは日本人のどうしようもない性である。
ある時、無性に食べたくなって作ってみたら、みんなに好評。賞賛の嵐だった。そのまま乗せられて、夕食を作るのは余程の用事がなければ俺になったのだ。
「うーん……分かった」
「!……いいのか?」
「まあ、もともと俺の当番だった訳だし」
朝はいつもアレキスが作ってくれてるしな。
「よっしゃ!サンキューな」
「その代わり食材は用意しといてくれよ」
「もちろんだ」
話が終わり、歩き出そうとすると、またアレキスが話かけてきた。
「あ、ちょっと待て」
「今度は何?」
呆れて振り返ると、アレキスが俺の目の前に銀貨を五枚出してきた。
「これは?」
「今日の小遣いだ。これで足りるよな」
足りるもなにも……多過ぎるくらいだ。
「いや、多いだろ?」
「まあ、少ないよりいいだろ? ほら、そろそろ時間だぞ。早く行ってこい」
時計を見ると、約束の時間まであと三十分だった。今から行けば十五分前までには余裕で着くだろう。
「そうだな。じゃあ行ってくる」
「おう」
そう言って、“飛翔”を使って校門前へと向かう。
ーーーーーーー
校門前に行くと、ミルとセレナが既にいた。
「早いね、二人とも。まだ十五分前なのに」
「ヴァルくんこそ」
ルイがまだ来ていないので、三人で話して待っていることにした。
「ルイ遅いな」
「あいつのことだから、時間ギリギリか、遅れてくるんじゃないかしら」
十分ありえる事だった。
それからしばらく雑談していると、ルイは遅れはしなかったものの、約束の時間ギリギリというかぴったりに来た。
「遅いわね」
「あれ?遅れたか?」
「遅れてはないけど、五分前行動が当たり前でしょ。今日の予定とか、色々確認することがあるのに」
そう言ってセレナはため息をついた。
「まあまあ、遅れて来なかっただけいいだろ?それよりほら、早く行こう。時間がなくなる」
「それもそうね」
遅れて来なかっただけ御の字。
セレナもそう思ったのか、ため息をつきつつもそれ以上はなにも言わなかった。
ーーーーー
「さてと、まずはなにから買おうか」
「そうね、バックを先に買いたいところだけど……小さかったりしたら嫌だし、先に軽食買って後のお金がなくなるのも嫌だし…まずは武器屋からかしら」
セレナの意見にみんなが賛成し、俺たちは武器屋が多くあるところへ行くことにした。
ーーーーー
商店街の東の方には、様々な武器屋があった。
正直全てを見て回りたいところだったが、そんなことをしていたら時間がなくなる。
俺たちは逸る気持ちを抑えて自分たちにあった武器屋を探して行く。
「あ、あれは?」
そう言ってミルが指したのは初心者向けの武器を売っている武器屋だった。
初めて魔物を狩る俺らにはまさにぴったりのところである。
「よし、じゃああそこに入ってみるか」
そう言って中に入ると、厳つい中年のおっさんがカウンターに肘をついて座っていた。
「お、よく来たな。冒険者学校の生徒か?」
「はい、そうです。野外授業で使う武器を探していて…」
そう言って店内を見回すと、そこには様々な武器が置いてあった。
「なるほどな。ま、わからないことがあったら聞いてくれ。俺はここに座ってるから」
「はい、ありがとうございます」
大口を開けて笑う彼を見て、俺は苦笑いしながら言った。
野外授業で使う武器は自分ですでに何種類か作っておいたため、防具を見て回ることにした。
(やっぱ、買うならローブか?)
たしかアイリーン姉さん達もローブだったはず……
そう思ってローブを見ていくのだが…
火耐性、自動修復、魔法耐性etc…
あまりに豊富な付与のせいで俺は決められずにいた。
(まてまて、野外授業だ。必要最低限の付与魔法で充分なんだ)
そう考え手に取ったのは茶色のローブだった。
素材はフレイムラット。
炎を纏っているねずみのような魔物で、火に強いらしい。
それに魔耐と物理攻撃緩和の付与。
「おじさん、これいくら?」
「フレイムラットのローブか。それは銀貨一枚ってとこだな」
少し高いだろうか……そう思って悩んでいると、
「いいんじゃないか? 防具は多少立派なもんを買っといたほうがいい。怪我しないに越したことはないからな」
そうだよな、武器は自分で作っているわけだし、防具にはお金をかけるか。
そう考え、フレイムラットのローブと、剣を収めるホルダー、腰に付ける小さいバッグを買った。
「じゃあ、銀貨二枚、ちょうど貰ったぞ」
会計を終えた俺は、未だ武器で悩んでいるみんなのところへ向かう。
「あれ、ヴァルもう終わったのか?」
ルイは二本の剣を両手に持って、驚いた顔をこちらに向ける。
「まあね、それよりまだ悩んでるのか?」
「ああ、この二つで悩んでて…」
そう言って両手に持っていた剣を俺に見せてきた。
片方は魔物の角でできた剣、もう片方は鉄できた剣。
「俺はこっちがいいんだけど高いんだよなあ」
鉄でできた剣を見ながらため息をつくルイ。
金額を見ると銅貨五枚と銀貨一枚、魔物の角でできた剣の方が半額でたしかに安い。
「ルイがいくら持ってきたかにもよるけど…」
ちらっとルイを見ると、
「ああ、俺は銀貨四枚持ってきたけど」
四枚か……防具、バッグでそれぞれ一枚、軽食は余った銀貨で充分だし……
「鉄でできた方でいいんじゃないか?」
俺がそう答えると、ルイはぱあっと笑顔になった。
「やっぱそうだよな! よし、じゃあ防具選んで買って来るわ」
ルイもやはりそっちが欲しかったのだろう、軽やかな足取りで防具を見に行った。
さて、他のみんなは…
「お、もう買い終わったか?」
「うん、私は防具だけだから」
「私もすぐに決まったわ」
どうやら二人はすでに買い終わったようだ。
見せてもらうと、
ミルは俺よりも薄い色のローブ(レッドウルフ、物理攻撃緩和)、腰に付ける小さいバッグ。
セレナは薄くて軽い刀身の長い剣で、腰に付ける小さいバッグ、物理攻撃緩和の付与が付いた布製の防具服だった。
「あとはルイだけだね、多分そろそろ…」
「おー買ってきたぞー」
お、ちょうど来た。
全員が揃ったのを見て、おっさんに挨拶をしてから武器屋を出た。
「次はー、バッグでいいか? んで、余った分で軽食」
「うん、たしかバッグとかはここから近いところに売ってるはずだよ」
そんなわけで今度はバッグを買いに行くことにした。
4話 誰かのせいで を投稿するのを忘れていました。
もう本当にごめんなさいm(._.)m
ワイバーン襲来からアレキストの出会い流れが大変不自然になっていましたね(^^;;
4話を投稿したので、よかったら見てみてください!