14話 校内案内
「それで、家に入ったら『六柱』の一席から四席まで全員揃っていたんだ。俺たちは最初、ヴァルが幻術かなんか見せてからかっているのかと思ったんだ」
昨日のことをみんなにに自慢しているのか、ルイがみんなに囲まれて、昨日のパーティでの出来事を話していた。それをみんなは目を輝かせて聞いていた。
「あ、ヴァルおはよう。昨日はありがとね」
「おはよう、ヴァルくん」
「ああ、おはよう、セレナ、ミル」
セレナ達も登校してきて、教室の中がさらに賑やかになった。
ところで、もう気づいているかもしれないが、昨日のパーティ以来、三人にはヴァルと呼ばれている。
この世界に来てから初めての友達。
少し不安だったが、それなりに上手くやれている証拠だろう。
「おーい、席につけー」
リークが教室に入って来たのでみんな席に座り始めた。
「じゃあ今日の予定言うぞー。昨日言った通り午前は校内案内、午後には早速実習授業だ」
(実習授業か……どんなんやんだろう。早く午後にならないかな)
午後の実習授業を楽しみにしながら、俺たちは教室を出て校内を見てまわった。
ーーー
「ここが訓練室だ。訓練室は合計20室あって、扉に書いてある番号の1から10番は魔法障壁が張ってあるから魔法の使用はオーケー。11番からは張ってないから使っちゃダメな。ここは実習授業でも使うから場所しっかり覚えておけよ」
そういって案内されたのは超でかい訓練室。
ひとつひとつの部屋がそれなりの大きさで、設備も揃っている。
「すっげーでっかいな」
「ほんとね。そうだヴァル。今度ここで剣で勝負しましょうよ」
「あっ、わたしは魔法教えて欲しい!」
「うんいいけど、ここって自由に使ってもいいのか?」
そういってリークのほうを見と、笑顔で頷いてくれた。どうやらいいらしい。
「はいはい!あたしもお願いしてもいい?」
「わたしにも魔法教えて欲しいです!」
そう言ってきたのは……確かベルとアリアだったはず。
「いいよ。えっと……リヴィエールさんとグラベラさんでいいんだよね?」
「なんか随分よそよそしいね。ベルでいいよ。私もヴァルって呼ぶからさ」
「わたしのこともアリアって呼んで下さい!よろしくお願いします、ヴァルさん!」
「ああ、よろしく。ベル、アリア」
そんな風に楽しく話していると今度は男子二人が話しかけてきた。
「楽しそうっすね。おれたちも混ぜて下さい!」
「…………」
確かリュカとリアム。リュカの方は友好的なんだが……リアムが凄い形相で睨んでくる。
「えっと……ロータスくん?」
黒いオーラが滲み出てるリアムに恐る恐る声をかけてみた。
「………………です」
「え?」
あまりに声が小さくて聞こえなかったため、思わず聞き返してしまった。
「だかっら、リ、リアムでいいですよ!」
「あ、ああ。よ、よろしくな、リアム」
リアム、俺がそういった瞬間にリアムは顔を真っ赤にして頬を綻ばせた。
「リアムさんは人見知りなんすよねー。それになんかヴァルさんのファンらしくて。あ、俺のことはリュカでいいっすよ」
「ばっ!」
リュカが笑顔でそう言うと、リアムが真っ赤になってリュカに関節技をきめている。
(よかった。嫌われていた訳ではないんだな)
リュカの言葉に胸をなでおろす。
「そうだ、今度みんなで勉強会しないか?魔法しか使えない奴も体術は必要だろうし、魔法使えない奴にも身体強化は出来るようになるだろうから。みんなで教え合おうよ」
そんな俺の提案にみんなは笑顔で頷く。
「……おーい。そろそろいいか?俺さっきから空気なんだが……」
リークがそう言ったことでみんなハッとした顔をした。
(そういえば校内案内の途中だったな……)
気を取り直して校内案内を再開する。
次に案内されたのは食堂。
「ここでは一年だけでなく他学年も使うからな。先輩達に絡まれないように、一年のうちは特に注意しておけよ」
え、なに?そんな物騒な学校なの?
そんな不安そうな顔を俺たちがしていると、
「ああ、最悪模擬戦させられてみんなの前で恥かかされる可能性もあるが、こっちにはエルドリクスがいるな。大丈夫だろ」
そんなリークの軽い言葉に俺たちは眉をしかめる。
「まあ、それは置いといて。えー、この食堂にはメニューがたくさんあるんだ。どれも美味しいぞ。食べてみるといい。……よし、次行こう」
リークが早口でそう告げて、その場から逃げるように去っていく。
……って、いや待てよ!
俺たちもすぐに追いかける。
次は保健室、職員室、図書館、実験室その他諸々。
そして最後はグラウンドへ行った。
グラウンドでは二年生が授業をしていた。
「今は対人戦をやっているな。少し見てくか」
それぞれが木刀や魔法を使って対戦をしている。
(あれ?そんなに強くない?)
二年生だから仕方ないのかな、そんな風に考えていると、
「おお!レベル高いな、さすが二年生だ!」
ルイが興奮気味にそんな事を言っている。
「え……」
「そうだな。今ここでやっているのは2のBだ。Aクラス程じゃないが、それなりの実力だぞ。この後、この中から一人だけBクラスの首位の奴と対戦することが出来るんだが……エルドリクス出来るか?」
え、俺?
ぽかーんとした顔で俺がリークを見ていると、
「ああ、嫌なら別にやらなくていいんだぞ?この後実習授業もあるしな。魔力や体力が無くなったら困るし」
「いや、それは大丈夫ですけど……」
俺が少し言いにくそうにしていると、ルイが察した様で代わりに言ってくれた。
「センセーそうじゃない。ヴァルは相手のことを気にして言ってるんだ」
「は?どういうことだ?」
訳がわからないという顔をするリークにルイは得意そうに説明する。
「だって、ヴァルが二年生とやったら絶対にヴァルが勝つぜ? アレキス様に聞いたんだけど、ヴァルが6歳の頃にアイリーン様達と2対1で模擬戦したらしいんだけど、なんでも圧勝だったって。きっとその先輩のプライドがズタズタになるぞ?」
「アイリーン様達に圧勝……」
ルイの話を聞いてリークが顔をひきつらせる。
「でも、私たちはやりたくないわよ。2のBトップとだなんて、結果が目に見えるわ」
セレナがそう言うと、みんなもコクコクと首を縦に振る。その様子を見て、暫くしてからリークが口を開く。
「……そうだな。やはり、エルドリクスくん、お願い出来るか?」
「いいのですか?」
「ああ。最近この学校のレベルが下がってきてる。君に負け、今まで以上に精進し欲しいと思う。いいか?」
「はい!」
「全力でやれ……って言いたいところだが、最低でも3分はやらせてやれ。流石に1分も経たないうちにやられてしまうと、俺たちもいたたまれないからな」
苦笑しながらそういう先生に俺は返事をする。
「じゃあ少し待ってろな」
ーーー
ーー5分後
「お前がヴァリスか?はっ、ひょろひょろだなぁ、おい。こんなのが首席なのか?今年の一年は相当弱いんだなぁ。これじゃあすぐに終わるんじゃあねえの?悪いけど俺、手ぇ抜かねえからな」
いかにも頭が悪そうな奴が俺の目の前にいる。
(こんなのがBクラスの首位か?こんな馬鹿みたいなセリフを吐きまくる奴が?)
みんながいる方を見ると、ルイ達は明らかにイラついてて、リークは額に手を当ててうなだれている。
「おい、早くやろーぜ。どうせ結果は見えてんだからさあ」
「そうですね。早くやりましょうか。どうせすぐ終わってしまうんでしょうし」
(ある意味、ね)
「おお、お前も意外と分かる奴だな。じゃあ始めるか」
「はい。お互い全力でやりましょうね」
そうして、模擬戦が始まった。
次回、模擬戦