11話 模擬戦〈 VSアイリーン&アイリス 〉
「次の方はいつ来るんですか?」
二人がいなくなっていたのに気付かず、置いて行かれてしょんぼりしていふアレキスを横目で見ながら、フランに聞いた。
「さっきに模擬戦見てたと思うから、そろそろくると思うよ。……あ、ほら来た」
そう言って指した先に、赤い髪の女が二人いた。
「やっほー!観てたよ観てたよさっきの模擬戦!君動きいいねー。あ、私アイリーン・ライ・ラックだよ。アイリーン姉さんとでも呼んでちょうだいな」
髪を一つにまとめた、元気な女の人が言った。
「……特に最後、良かったと思うよ。……ああ、私はアイリス・ライ・ラック。アイリス姉さんと呼んで」
髪を短く切った、クールな女の人が続けて言う。
二人は双子で、アイリーンが姉らしい。二人ともめちゃくちゃ似てる。
「アイリーンさん、アイリスさん、初めま」
「「姉さん」」
……なんで姉さんを推してくるんだ?
初対面なんだけど……。
「……アイリーン姉さん、アイリス姉さん、初めまして。ヴァリス・エルドリクスです。今日はよろしくお願いします」
なんか色々と面倒くさかったので抵抗せず、二人の言うことを聞いた。
「いや〜、アレキスから聞いてたよ!ホントにちっちゃいねー」
「……うん、可愛い」
「……ところで今度はどこで模擬戦を?」
男としてはあまり嬉しくないことを言われ、また、飛び掛かって来そうだったので、早速本題に入った。
「ん?場所かあ……ヴァリス君は魔法の威力が凄いって聞いたから、少し強めの結界が張ってあるところにしようかな、ついて来て」
そう言って場所を移動した。
ーーー
「ここでどうかな?」
着いた先はドーム型の結界が張られている場所だった。
「いいですね。ところでルールは?」
「……ルールは魔法はもちろん、武器の使用オーケー。相手が降参するまで」
「武器は何でもいいのですか?」
「……?訓練用なら」
それなら新しい武器でも試してみよう。
「……ところで、最初はどちらと?」
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あ、そっか。私たち、何時も二対ニしかやらないんだよね。もう一人連れて来ようかな……?」
「……別に一対一でもいいんじゃない?」
「ていうか二対一でもいいですよ」
「「……え?」」
見事にハモったな。
「あ、俺一人で十分とか、そういうのではなく、二人で戦うっていうのがお二人の全力なら、それに一人で立ち向かいたいっていうか」
暫く呆けた顔をしていた二人だったが、ふっと表情を崩した。
「分かったよ!そこまで言うなら全力でやってあげる!」
「……ええ、どうやら君には秘策があるっぽいしね」
そんなこんなで、『六柱』の二人と二対一で模擬戦をすることになった。
ーーー
「本当に大丈夫かい?」
フランが心配そうに呟く。
「大丈夫だろ。ヴァルは魔法のスペシャリストだ。もしかしたら勝つかもな」
「二人相手でも?そんなに強いのかい?」
「ああ、強いぞあいつは。最近、新しい武器を作ったらしくてな。それを試せると喜んでいたぞ」
「新しい武器?」
「まあ、見てなって。ほら、始まるぞ」
そう言って見ると、試合開始のゴングが鳴っていた。
ーーー
ゴーーーン‼︎
まるでボクシングの試合のゴングが鳴り、試合が始まった。
先に動いたのはアイリーン達だ。
二人は流石双子、と言いたくなる連携でヴァリスを翻弄してきた。
動いている間、何かブツブツ言っていたが、魔法の詠唱だろう。
「それじゃ、いくよ!」
その言葉と同時に、アイリーンからは“火弾”、アイリスからは“水弾”が無数飛んできた。
俺はそれを魔法障壁で難無く防いだ。
「!……無詠唱」
俺が魔法障壁を解いた隙にを突いて、木刀で攻撃してきた。
流石に二人の絶え間ない攻撃に耐えられ無いと思い、一旦距離を取る。
まずは懐から小さい訓練用鎖鎌を出し、魔法で大きくする。
「なっ⁉︎なにその魔法⁉︎」
「……大きくなった」
鎖鎌に炎を纏わせて、頭上で鎌を回す。
そして未だ驚いている二人目掛けて鎌を飛ばす。
炎を纏った鎖鎌が空を切る音を立てながら二人を襲った。
二人は何とか鎌をかわす。
「なっ‼︎」
「……くぅっ‼︎」
しかし、炎を纏った鎖に少し触れてしまい、苦痛の声をあげた。
しかし即座に体制を整え、詠唱を開始する。
「ーーーーー見えない刃で敵を切り裂け!“鎌鼬”‼︎」
「ーーーーー炎で周りを焼き尽くせ、“炎海”」
創り出された風の刃と炎の海がヴァリスを襲う。
しかし、ヴァリスはあっさりと魔法で相殺してしまう。
そしてヴァリスは小さいチャクラムと小さい鎖鎌をもう一つ出した。
それを大きくして、鎖鎌に炎を、チャクラムに雷を纏わせる。
そしてチャクラムを投げ、二つの鎖鎌を飛ばした。
チャクラムは弧を描いて二人を襲う。
アイリーンは右に、アイリスは左に回避した。
それを予想していたのか、ヴァリスは二人が逃げる先に次々と“土針”を出現させる。
「!……アイリーン‼︎」
「えっ?何?ってきゃっ‼︎」
「あっ‼︎」
二人を襲ったのは鎖鎌の鎖だ。
“土針”とチャクラムの回避に夢中で鎖鎌に気づかす、炎を纏った鎖に巻き付かれ、身動きが取れなくなってしまった。
ヴァリスは二人が火傷しないように鎖が纏っている炎を消す。
「どうしますか?」
ヴァリスは二人に歩み寄り、続きをするかを問う。
「降参、かな?」
「……降参」
カンカンカーーーーン‼︎
試合終了のゴングが鳴った。
試合はヴァリスの圧勝であった。
ーーー
「いや〜〜凄かったなあヴァル!流石だ!」
「ヴァルがあんな魔法使えるなんて、びっくりしたよ。それに武器も初めて見る物ばかりだ」
模擬戦が終わり、アレキスとフランのもとに戻ると、称賛の言葉が贈られた。
「うううう〜、負けた〜。何なのさ、あの魔法」
「……初めて見た魔法があった。しかも無詠唱」
アイリーンとアイリスが凄く落ち込んでいる。
まあ、それも仕方のない事だろう。
6歳の男の子に模擬戦を挑んで負けたのだ。
自信やプライドがバキバキに折れる音がする。
「あ、あの、アイリーン姉さん?アイリス姉さん?」
何やらコソコソと話し合っている二人に嫌な予感がしつつも、声を掛けた。
そして二人は頷き合い、ヴァリスにふり返りーー
「「弟子にして下さい‼︎」」
「は?」
……ん?何でそうなった?
「お願い!あんな魔法初めて見たんだよ!それに、魔法の威力!武器の使い方!ヴァリス君、いや、ヴァリス師匠に教えて欲しいんだよ!」
「……無詠唱での魔法、様々な武器を使いこなす技術。教えて欲しい」
二人が凄い勢いで言い寄ってくる。
「え、いや、ちょ、まっ」
「「師匠‼︎」」
「し、師匠……ア、アレキス助けてくれ」
もう手に負えない。
俺はアレキスに助けを求める。
しかし、アレキスはくっくっくっ、と笑いながら、
「いいんじゃないか?『六柱』が弟子なんて自慢出来るぞ!」
……最悪の答えをした。
俺は瞬時に鎖鎌を取り出し大きくして、鎖をアレキスに巻き付ける。
「え、お、おい!待て!ちょ……ぎゃあああああ」
鎖鎌に雷を纏わせる。
「流石師匠!! 雷魔法を無詠唱で難無く発動させるなんて!」
「……誰でも出来ることじゃない」
だめだこの人達。どうしようか……。
「二人共落ち着いて。ヴァルが困ってるだろ?それに自分達の立場を考えろ。ヴァルはまだ6歳なんだ。『六柱』の第三席と第四席が6歳の子に弟子入りしたらそれはもう大騒ぎだよ」
救いの神が舞い降りてきた。俺がフランに感謝の眼差しを送っていると、
「むむむ、確かにそうだね。……じゃあ10歳!10歳になったらいいでしょ!」
「……10歳になったら一人前。だから10歳になったら弟子入りする」
そう、この世界では10歳はもう大人である。
「いや、でも、俺が10歳の時には魔法冒険者学校に通ってますよ。流石に目立っちゃうというか……」
「「構わない」」
「あ、はい、そうですか」
もうめんどくさい……
こうして俺は、10歳になったら『六柱』の二人を弟子にするという、とんでもない約束をしてしまった。
ーーー
おまけ
「師匠〜、なんか師匠に敬語使われるのあれなんで、敬語やめてくださいよ〜」
「……あと名前は呼び捨てで」
「え、いや、流石にちょっと……」
「「いいから!」」
「じゃ、じゃあ敬語はやめるから、よ、呼び捨ては勘弁して……(上目遣い)」
「はうっ……かわいい……」
「……今すぐにでも抱きしめたい」
「え、ちょ、何するんです⁉︎アイリス姉さん⁉︎」
「「敬語はだめ」」
「はい……」
「でもまあ、こんな可愛い子に姉さんって呼ばれるのもいいね!」
「……それにこの子将来カッコよくなる」
「あ、わかるかも!カッコいい年下に姉さん
って呼ばれるのもいいわ〜」
「………」
3話と4話を少し変えました。
とりあえず、一章終了です。
短かかったですね。
間話をはさんでから二章です。