9話 国王との謁見
城の中に入るとそこは、日本にいた時にいつの日だったかみた漫画のそれだった。
「ここが謁見の間だ。いいか?くれぐれも失礼のないようにな」
「分かってるって」
アレキスは道中何回も言っていた台詞を言ってから扉をノックした。
「アレキス・レイ・サンドレイクです。ヴァリス・エルドリクスを連れて参りました」
「入ってよいぞ」
扉が開き、真っ赤な絨毯の先にある王座に初老の男が座っている。
この国の王様だろう。
アレキスは国王の前で跪坐く。
俺も真似して跪坐く。
「顔を上げてよいぞ」
「はっ」
俺は顔を上げて国王の顔を見る。
白髪のとても優しい目をした人だった。
「お主がヴァリス・エルドリクスでよいのか?」
「はい」
「そうか、儂はオスカー・ヒストリア・アルパークじゃ。この国の国王をしている」
そう言ってオスカーは俺をじっと見る。
「お主が本当に一人でワイバーンを倒したのか?」
「はい」
「お主はまだ小さいが、一撃でワイバーンを倒すほどの魔力を持っている。それほどの事をなすには魔法のセンスだけでなく、中身の濃い訓練を多大の量しなくてはいけない。一体、どのような訓練をしたか聞いてもいいかの?」
オスカーにそう聞かれ、俺はアレキスに言ったことと同じことを言った。
「……なるほどイメージか」
「はい。魔力量を増やすのはは大人だと困難なので、魔法の精度を上げた方がいいと思います」
「そうか、ありがとう。おかげで最近伸び悩んでいた魔法技術にまた光がさした」
オスカーはニコリと笑って言い、その後、真面目な顔をして聞いてきた。
「きっとお主はそんな事しないだろうが、一応言っておこう。ヴァリスよ、お主は6歳にして一流冒険者、いや、それ以上の力を持っている。して、その力は強大過ぎる。6歳のお主に言っても分からないかもしれないがな。もし、その力を悪用するのであれば、それ相応の処置をとらせてもらう。よいか?」
「はい。もとより、悪用するつもりはありませんが。僕は、ワイバーンという強大過ぎる存在に全てを奪われた身。傷つけられる側の気持ちは痛いほどに分かります。僕はもっと強くなって、今度こそ大切なものを奪われないように尽力します」
「そうか」
真面目な顔で語るヴァリスにオスカーは優しく微笑んだ。
「今日はよくここまで来てくれたな。礼を言う。もう下がって良いぞ」
「「はっ」」
そういうことで国王との会談は終わった。
ーーー
「良かったのですか?」
ヴァリスとの謁見が終わった後、秘書のカーナが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「何がじゃ?」
「いえ、あの者の魔法、普通だったら管轄下に置いているぐらい脅威になり得るので。まさか、まだ6歳だから大丈夫なんて考えているのではと……」
確かにそうであろう。
あの子は魔法の威力バリエーションも優れている。
そして何より、あの豊かな想像力だ。
まだ6歳なのにあんな方法を思いつくなんて、はっきり言って普通ではない。
魔法はイメージ。
そんな事はどんなに優秀な魔法研究者でも思いつかなかったことだ。
今まではこういう詠唱をこんな魔法が使える、という認識しかなかった。
それがあまりに常識的な考えで、そこにイメージを持ってくるということはした事がなかった。
普通は監視などの対処をする必要があるのだろう。
だが……
「目がな……」
「目?」
カーナが首を傾げながら尋ねる。
「ああ、あの目は正直者の目だ。目の奥に翳りが無かった。大丈夫だ。腐ってもこの国の国王、人を見る目はあるつもりだ。もしあの者が何か問題を起こしたら、それはわしの責任。わしが全責任を負おう」
オスカーはカーナの目をまっすぐ見て言った。
そんなオスカーに目を丸くしていたカーナは、やがてふわりと微笑んだ。
「そうですか……過ぎた真似をしてしまいました。申し訳ございませんでした」
「いや、いいんだ。そうやって疑問に思った事を口にしてくれ。お主はとても感が良く、頭も回る。わしの自慢の秘書なのだからな」
その言葉を聞いて、カーナは嬉しさから頬を染めた。
「……勿体なきお言葉です」
そんな様子のカーナにオスカーは優しく微笑み、二人は謁見の間を後にした。