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俺が異世界転移して貰った祝福は食っていくには困らない。  作者: 犬やねん
0章 俺が異世界に転移した経緯
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閑話・主人公のバックボーン

 この話は構成を変える前の『プロローグ1』での主人公の林業に関する自分語りの部分です。


 時系列としては、最初に健太に声をかけられた時に自分の背景を語っています。


 主人公の設定の説明をダラダラ書いていた物ですが、興味のない方にはいきなりココから始めても厳しいと思い、切り離しました。内容は特に大きな変更はございません。すでに読まれた方は飛ばしてください。

「おい、朝焼けを見ながらコーヒーを飲む為に山行くぞ」


 高校から友人の健太が、顔を合わせるなり突然そんな事を宣った。

 それから、俺は友人の無茶なキャンプの計画を聞いていく。

 友人が俺を一緒に連れていきたい理由は、


「山登りなら慣れてるっしょ。」


 確かに、山を登るだけなら普通の人より慣れている。家業が林業だ。


 俺は幼い頃から家の仕事を手伝っている。

 親父は土木もやっていたが、母親も仕事を手伝っていたので、物心付く前から現場を連れ回されてる。

 危ないので大概一人で車に残り、玩具を与えられ一人遊びをしてた。うっすら記憶がある。


 大人たちに混じって居るうちに、大人びたことを言うマセガキになったから、慌てて保育所に突っ込んだらしいが。




 俺は親父が40代を超えてから出来た子だ。

 だからウチの親父は年をいってる分、他の同級生の親よりも古い考え方が強い。


 親父自身が幼い頃から親父の親父、俺にとっては父方の爺さんが、オヤジの物心つく時には60歳ほどで、病弱だった。

 親父は病弱な爺さんの代わりに、魚を取って売ったり、炭を焼いて売ったり、奉公に行って家計を支えていたらしい。



 そんな親だから、子供のうちから働くのが当然だと思っている。



 でも働けと強制してくるわけじゃない。

『お小遣が欲しいか?それなら働け。父さんはな、お前くらいの歳には稼いだ金はみんな家に入れてた。』である。


 もちろんタダ働きではない。保育所の頃は肩もみを30分して100円。

 後で聞いたら歳の離れた兄達は10円だったと愚痴っていたけど。


 小学生になり土木の現場での簡単な作業や片付けを手伝って3000円。

 中学生になり林業の現場で間伐・下刈り・苗植えや・肥料撒きそんな事をして6000円

 高校生になり多少なり経験が付いて8000円。


 仕事をただ挙げるだけなら他に伐採・整地・枝打ち・測量・苗起こし、こんな所か?



 林業は結構キツイ仕事だと思う。


 伐採はまだ良いんだ。

 俺がすることなんて、切り倒された木材に括り付けるワイヤーを持って走り回る程度だ。


 それと倒された材木の枝を斬り落としていき、売るほどの価値がなくなるような細さの所で頭を落とす。

 商品価値が下がるような重要な部分は、経験豊富な人達に任せたら良い。

 あとは自分に向かって、木材が飛んでこないかだけ気をつけていればいい。


 どんなに良い木でも、重機などが入って行けなければ切る事は出来ない。

 引き出せなければ意味がない。ヘリで出すって手もあるが、経費がとんでもない。


 重機が登坂できるような緩い傾斜か、登坂できないキツイ傾斜でも、数十mのワイヤーが届く範囲の木材を引き出すだけだから、移動もそんなに多くない。

 体力的にはそんなに厳しくない。


 伐採する人が狙った所に切り倒せるか、考え考え切っていくだけだ

 それを重機のオペが地面や、立ってる木に引っ掛けずに、うまく引き出していくだけだ。


 間伐や下刈りなどの仕事は山の高い所だったり、一山越えた向こうなんてのもあり得る。

 身体一つで行けばいいわけじゃない。道具を持っての山登りだ。ソレも間近で見ると見上げるような、崖かと思うほどの急勾配だったりする。


 チェーンソー、下刈り機、手ノコ、ナタ。枝打ちだったらはしごが要る。

 当然燃料だって要る。行った先で昼食が有るから弁当も要る。水筒だって要る。

 それらを背嚢に詰めて仕事に必要な道具を担いで登っていくのだ。




 しかし、一番俺がキツイと思うのはコレじゃない。


 苗植えからの肥料撒きが一番嫌いだった。


 苗を植える為には苗を運ばなければ行けない。当然少量を運んだら往復する回数が増える。

 だから往復する回数を減らす為に、限界まで背負子に積み、背負う。

 山の上に登る作業員全員が、限界まで持って上がっていく。


 それでも植える本数に満たない場合は、俺が下まで降りてもう一往復だ。


 林業なんて不人気職、若い奴でやる奴なんて少ない。

 大体がおじいちゃんかおっさんだ。

 うちの場合は親父とは若い頃からの知り合いの、親父よりも年寄りで林業一本でやってきたようなおじいちゃんだ。

 当然、山を登ったり降りたりして往復する仕事は、若いもんがやる事になる。


 一番若いのは誰だ!俺だよド畜生。



 おじいちゃんズは苗植えだ。

 苗同士の間隔を一定で空けて、トンガで掘って苗を植える簡単なお仕事・・・でもない。

 根っこや石がゴロゴロしてる。真っ直ぐ立つように植えて土を被せ軽く踏む。

 当然、苗を運び終わったら当然俺も参加する。



 苗を植えたら肥料を撒く。

 良い木に育てるためには必要なのか?根付きが良いからなのか?どうだったか覚えてない。


 ただ、俺の住んでいた地域では苗植え・肥料撒きは役所に申請すると補助金が貰える。

 やった方が得。

 肥料撒きが嫌いな俺にとっては、嬉しくないお知らせだ。


 肥料を撒く事自体は簡単だ、植えた肥料の根本に一掴みずつ撒いていくだけ。

 簡単でさっさと終わる。高所に肥料を運び上げる、そんな作業がなければ。

 朝イチでみんなで持って行った量で足りなければそんな時はどうする?


 そう、もちろん俺がもう一往復だ。



 おじいちゃんズは長年の経験で、一袋でどれだけの苗の本数に撒けるかを把握している。

 植林した範囲が広ければ、当然往復する回数も増えることになる。

 まぁ、植えた本数が分かっているんだから、最初から必要な数を車に積んで持ってきているわけで。

 朝一みんなが背負子に積んでる時点で、車に残っている肥料を見れば、あと何往復することに成るかはすでに決まっているわけだが。

 消費に対して、オレ一人での供給が間に合わない場合はもちろん兄たちも往復する。



 肥料は苗と違ってずしりと重い。

 1袋10キロを2~3袋、20~30kg。みんな普通に持つ。


 当然、水筒や弁当も方に引っ掛けたり背負子に括り付けたりして、だ。


 俺は仕事を始めた当初10キロが限界だった。慣れるに従って背負う量は増えた。

 おじいちゃんズだって例外ではない。

 むしろおじいちゃんズの方が元気だ。

 長年やっているのは伊達ではない。スイスイと登っていく。戦前生まれも混じってる。

 背なんて女の子みたいに小さい。

 体格では大幅に俺の方が勝っているが、ヒイヒイ言いながら必死に登るのは俺だ。


 体格が良いのが、逆に体重が多くて鈍重になっている原因などでは?そんな風に兄たちと話す。

 負け惜しみかな?

 息も切らさずにじいちゃんが登っていく様子は愕然とした気持ちになった。



 肥料撒きは苗植えをしてから数年の間、毎年年一回のペースで春に苗植えが終わった後に撒く。

 次の年までに新しく伐採・整地すれば新しく苗を植える土地の出来上がりだ。

 そして肥料を撒く土地も増える。

 肥料を撒くシーズンは、今日はコッチの山へ、明日はあっちの山へと連日楽しい山登りだ。


 まぁ、学校があるから俺は連日ではなかったが。

 学校なんてサボってちょこちょこ働いてたりもしてた。



 山に登る時はキツい。

 道具を片手に持ち、落とさないように握りしめ、反対側の片手で木を掴み身体を引き上げるように、地面に手をつき地を這うように、滑り落ちないようにバランスを取り、少しでも楽なルートを目指し、疲れた体を引き摺りながら考え登っていく。


 傾斜が強いとつま先に力がかかる。

 自然とふくらはぎや太腿の筋肉が発達する。



 降りる時もシンドイ。

 降りる時は、下方向に体重が常に掛かる。

 人間は前傾姿勢で降りるように身体ができていない。自然と膝に負担がかかる。

 俺は体格が良く、筋肉が多い。その分体重が増えて膝への負担も大きくなる。


 苗植えや肥料蒔きだと、周囲が伐採されて見晴らしが良い分『ココを滑って転げ落ちたら』っていう恐怖心までプラスされる。

 転がり落ちる時は下まで落ちるしか無い。

 咄嗟に掴まれるような木は全て綺麗に切り尽くして整地した後だ。


 仕事が終わって疲れ果てフラフラしながらも、さっさと降りたいのにユルユルとしか降りれない。

 下を見ながら降りていくのは怖い。

 更に膝が痛くなってくる。



 そんな肥料撒き初日にやってみたのが鶏行歩。


 中国拳法の歩法だったかな?

 腰を少し落とし、腰を固定し上半身を振らないようにしながら、一定のペースでつま先を出す。


 兄が買ってきてた漫画の内容を思い出しながら降りていく。

 かなり降りやすい。速いし、ふらつかないからバランスも安定し、膝も痛くない。それに疲れにくい。

 ただし、太ももとふくらはぎに負担が凄い。


 そんなアホっぽい努力も有ってなのか、高校の時には太腿の筋肉がやたら太くなった。

 股擦れが嫌でトランクスからスパッツに・・・いや、これはどうでもいいか。



 ナタを振ったり、重いものを担いで山を登ったり。

 切った丸太を移動させる為に、ワイヤーを下に通す時に丸太を持ち上げたり。

 そんな事をしていたので上半身にも筋肉が付いた。

 一番付いたのは多分胸筋と背筋じゃないかな。


 重い物を持ち上げるってことには自信がある。


 重いものを持ち上げる時は、腰を痛めるのが嫌だったから、腰をしっかり落として、背筋を真っ直ぐに垂直に力をかけて、負荷を地面に逃がす。そう心がけるようにした。

 何となくそう思ってやっていたけど、実際腰を痛めることがなかったし、正しかったんじゃないかと思う。



 いや、考えてる事が逸れてるな。なんだっけ?



 そうだ、山登りがどうたらだ。

 そんなふうに幼い頃から山には登ったりしている。


 当然働いてると、危ないことも有った。


 雑木を打ち払ってて、根本に蜂が巣くってることに気が付かず、ナタで叩いてヌカバチに刺されてその痛さにびっくりしたり。

 疲れて足元が不注意のまま歩いてて蛇を踏んで噛まれたり。

 まぁデカくてビビったが毒蛇ではなかった。バチコーンと足に当たった衝撃と、ふくらはぎに太い蛇の牙の跡が四本付いていたのにはビックリしたが。

 倒れた邪魔な木をチェーンソーで細かくしていたら、刃の入れ方が悪くて弾かれ、仰向けに倒れた拍子にチェーンソーの刃が、回転しながら頭に当たる目前までに迫ってきたり。


 一寸先は闇。自分の不注意が危険を招く。

 たまたま運がよく大事にはならなかったが、考えて行動しないと危険だ。


 疲れているとすぐに注意力が低下する。

 うっかり鹿の糞場を踏んだ時には落ち込んだ。

 わかりやすく、こんもり盛られてるのに何故踏んだし。



 山仕事は全体的にキツく、仕事自体は好きではなかった。

 でも子供ながらにお金は欲しいから、仕事を手伝いに行くのは辞めなかった。

 だから、自分なりに体力をつけれないかアレコレやった。


 仕事中にキツイからって、休憩を多く摂るのはダメだ。

 体がついて行かないのは、ある程度しょうがない。

 気合ではなんともしようがないことも有る。


 誰かに見られたら怒られるとか、そういったことじゃない。

 辛いなら休んどけ、すぐにそう言われるくらい皆寛容だ。

 人よりも仕事ができてないのが情けない。

 まだ若いからとか、これから頑張ればいいとか、給料が他の皆よりも低く、差があるとか、言い訳しようと思えばなんとでも言えるが、仕事ができないやつが言える権利は無いと思う。


 何より定年超えたおじいちゃんズに体力で若い奴が負けてはダメだ。



 コレは余裕を持って働けるように鍛えるしか無い。と、子供ながらに思った。



 元々同学年では、飛び抜けて体格が良かった。

 物心ついた頃から頭一つ分は背が高かった。

 中学に入る頃には身長は170cmを超えてた。

 高校で180cmぐらい。そこからはあまり伸びなくなったが。



 学校や仕事から帰ると、近所の急勾配の坂道で坂道ダッシュを繰り返し、汗をかいたら、家の目と鼻の先にある川に飛び込んだ。



 仕事の時は俺はツナギを着てた。

 ツナギなんて暑苦しいもの着てるような奴は俺だけだったけど。

 チェーンソーを使ってると木くずが飛ぶ。

 普通の作業用ズボンとか着てると、木くずがズボンの中に入ったりするのが嫌だった。

 だからツナギを着ていた。


 で、ツナギ着たまま川に飛び込むと、かなり動きづらい。

 もちろん深いところになんか行かない。

 淵の方に行けば3~5mの深さは有るが、別に死にたくてやってるわけじゃないからね。

 飛び込むのはヘソぐらいの深さの所だ。


 浅い所で川の流れに逆らって、無理矢理潜って泳ぐ。

 辛くなったら水から顔を出せばいい。

 流れに逆らって立って、足踏みするだけでもトレーニングになるだろう。


 濡れて纏わりつくツナギがひどく重たく感じる。

 でも泳ぐのは好きだから苦じゃない。



 家に帰り、ご飯を食べたらジョギングだ。

 持久力は大事だ。しかし走るのは好きじゃない。

 何が楽しいんだコレ?と、日課でやってる人に対して不思議に思う。

 まぁ、俺もやってるんだが。


 普通に走るのには飽きて、何かで見たナンバ走りをやってみる。

 ナンバ走りはよく緊張した時とかの表現で、右手と右足を同時に出した、っていう笑い話がある。

 それを実際にやる。


 右手と右足を同時に、左手と左足を同時に交互に繰り返す、そんな歩法だ。

 ナンバ走りの利点は、通常の歩き方と違って、上半身と下半身で反対側に捻らないこと。

 慣れると歩いてて疲れないらしい。いや、疲れにくいってだけか?

 うろ覚えだ。そもそもやり方も間違っているかもしれん。

 とりあえず試してみる。

 うん、無理。むしろ疲れる未来しか見えない。

 これは自分には合わないわ。

 平地でも鶏行歩を試してみる。



 うん、自分にはコレが合ってる。なんか速く歩けてるけど、疲れない。

 やっぱり太ももに負荷がある気がするけど、膝に負担がない気がする。

 ・・・プラシーボ効果かもしれないが。



 そんな風に試行錯誤していた。



 いやまて、そんな感じに纏めると、仕事とトレーニングをひたすらしてる変な奴みたいじゃないか。

 空いた時間で稼いだ金使って、ゲーム買ったり、漫画買ったり、小説買ったり

 ・・・ゲームやったり、漫画を読んだり、小説読んだり。




「お前の実家はとんでもないからなぁ。」


「変なこと言うな。とんでもないのは土地がだろ」


 笑いながら言う。言葉足りてねぇよ。ウチをオカシイ一家みたいに言うな。


 たしかにとんでもない。


 とんでもなく、ど田舎だ。



 いや、ど田舎なんてのは、ど田舎と言われて普通にぱっとイメージするような田園風景が広がって、とか言うようなほのぼのとしたど田舎に失礼だ。


 秘境だ。グンマーなんて目じゃないと思う。



 自分が住んでる所を説明しよう。


 まず秘境を縦断して川がある。

 地元では綺麗な清流で有名な川だ。

 川に沿って崖が有る。5~10mの落差だな。

 崖の上に道路があり川の反対側には山だ。

 山・川・崖・道路・山。

 そんな位置関係。


 そしてたまに道路と山の間に、人が住めるような傾斜の斜面に集落があり、数戸から数十戸のポツポツと家が立つ。

 奥へ奥へと道路を車で走ると、集落が山にへばりつくように点在している。

 酷いカーブを幾つも曲がり、町から一本道を数十km進んだ所。

 そんな所に実家がある。



 台風で大雨でも降って、崖崩れでも起きて道路が埋まれば、陸の孤島である。

 台風で大雨でも降って川が増水でもして、急カーブの上にある道路が水圧で削り取られて、崩落でもすれば、陸の孤島である。

 台風で大雨でも降って冠水でもしたら・・・。


 熊?毎年出てるな。普通に道路上で見たことも有る。

 猿?我が物顔で畑の野菜食ってるな。大量に居るわ。

 鹿、たぬき、ハクビシン・・・珍しいものではない。



 コンビニ?一時間ほど町の方に行けばありますが?

 あ、コンビニ風商店ならかろうじて一件ありますよ?

 夜の八時に閉まりますが。


 信号、バカにしないでください、ありますよ。

 でもね、そこは一本道なんですよ。

 新設された中学校に、生徒がバス通学で通う際に停留所から道路を横断する為に、歩行者用の押しボタンを押せば信号が赤になるようになっているんですがね。

 市町村合併と過疎のコンボで、その学校は廃校になったんですよ。

 常に青ですよ。赤信号に成ることがこの先有るんですかね?



 ひたすら住みにくい。山・川・崖しかないっちゅうねん!


 市町村合併で、秘境の癖に市に組み込まれたから紛らわしいわ!



 そんな秘境だから、俺が中学まで友達が少ないのも無理はない!


 ・・・決して、ゴツイ上に喧嘩が強く、普段からバイトしまくってて、中学の同級生の中では浮いていたってわけではない。




 高校生になり、町の高校に通うようになって、そこそこ友達と呼べる奴が出来た。

 その中でも、特に健太と淳史君とつるむようになり、町で遊ぶ機会も増えた。


 俺の家はそんな秘境だから、夏に成ると健太や淳史君はよく泊まりに来てた。

 目の前すぐは川で、周囲は山に囲まれた大自然。

 鮎やうなぎも頻繁に獲りに行ってたから夏の間に泊まりに来て遊ぶ分には楽しいんだろう。

 毎日居たらなんとも思わないがな。




 健太には、バイトしたいと零した時に一度うちの家業を手伝わせたことが有る。


 もちろん危険がまったくなく、そんなに動かなくても出来る軽作業だ。

 感想は、『いやー、キツイからもう良いわ』だった。


 ま、そうだろうな。

 あまり動かない、って言っても斜面は立ってるだけでも、最初は足が疲れるだろうしな。




「うちの実家に顔出してからヒロの実家に泊まり込みに行くってのも良いんだけどな」


「健太にとっては楽しいかもしれないが、俺にとっては見飽きた風景なんだよ。

 こんな遠いとこからBBQする為に、あんな秘境まで行くのは勘弁だ。

 それにバイトを長期間連日休む予定で組むのも困るしな。

 大学入ってまだ半年も経ってないからな。来年帰ればいいだろう。」


「BBQはあくまでもついでだ!雄大な景色と夜明けのコーヒーの為だっつうの!」


「俺の実家の周りで、雄大な景色を見るために山に入ったら、出てこれなくなる場合もある。

 やめとけ。」



 実際、山に入り慣れたはずの近所の爺さんが、山菜採りに行くと言い残したまま行方不明ってのもたまにある。

 滑落して、人目につきにくい所まで落ちたのかもしれんが。



 人気のない、人が分け入るのが困難な山々が隣の県まで続いていたりするんだ。

 うっかりそちら側に入り込むと、迷ってこちら側に戻ってこれなくなる。

 じいちゃんズと入るなら山を覚えているから安心だが、素人と一緒に入りたいとは思わない。



 俺の実家の周りの山は、観光地化した登山道がある山とかじゃない。

 過疎って林業も衰退の一途を辿り、人が分け入らなくなって半ば放棄した山だらけだ。



 『山を手入れしなければ』そう思うお年寄りは多い。

 でも手を入れてお金をかけるだけの価値がなく、山の手入れを放棄するしか無い。

 それが実情だ。赤字でもいいから手入れをしたい人や、自分でコツコツ手入れできる人のみが手入れしている。



 林業は斜陽産業だ。

 昔は木が高値で売れたから商売として成り立っていた。

 だが、今は国内の材木市場は外材に押され、価格が下がっている。


 外材だけが悪いわけでもないとも思う。

 高度成長期に材木不足に陥ったらしい。

 で、ヒノキよりも早く成長する杉が良いと、皆が挙こぞって杉を植えた。



 高度成長期より40~60年を過ぎ、本来なら伐採し、材木として売却しても良い程成長した木を売ることが出来ない。

 売っても黒字にならないからだ。切り出して、運賃を出すと経費で利益がなくなる。

 よほど良い木でないと売れない。


 ヒノキがこの太さなら高く売れるのに、杉では・・・。そう呟くしか無い。


 皆将来の財産になる。子供が成長した頃に残してやれる。

 そんな思いから杉を植えた。そして程よく成長した頃に価格が下落した。



 ヒノキを植えてれば、そんなことを思っても仕方がない。



 大学を卒業するまでに、自分の道を決めなければならない。

 元々、俺は山を登るのが嫌いだ。

 仕事だから頑張ってただけだ。

 だから将来に明るい材料のない林業を見切った。

 他の仕事に付く可能性を上げる為に、大学に進学したんだ。



「ま、もうすぐ夏休みだ。

 近場の山なら動画見た感じ、人もよく立ち入ってるみたいだし、俺から淳史君に連絡しとくわ。

 バイトの休みを合わせて、三人で相談して必要なものを詰めよう。」


「そうか。山で迷子になって山狩りとかシャレにならんからさ。

 俺は事前に通販とかで取り寄せるのに日にちが掛かる、必要になりそうな道具とか揃えておくわ。」


「テントとか、寝袋とか?」


「いや、その辺は相談してから決めよう。

 そもそもキャンプとかしたこと無いから、そういったキャンプ道具はわからん。

 俺が住んでいたトコは、家から出て数十秒で川。

 裏手に回って数十秒で山。

 ど田舎っ子は大自然の中で遊んでも、寝るなら家に帰ればいいだけだからな」


「それもそうだ。じゃぁ何買うんだよ?」


「鉈とかコンパスとか、そういうのだな。俺が使えれば良い、有れば便利なそういった道具。」


「あぁ、そういうのはわからんから任せるわ」


「おう」


 行ったことない土地の山に登る。



 全然胸がときめかない。むしろ面倒くさい。

 お金も貰えないのに山なんぞ登りたくない。

 心情としては、付き合いでいく部分が大きい。


 まぁ、しかし、友達と遊びで山に登るなんて初めてだ。

 行ってみると案外楽しいのかもしれない。

 せっかく時間作って行くんだし、料理を作るのは結構好きだ。

 そっちを楽しみにしておこう。

 あまり明るくなさそうな林業の未来など忘れて、今は大学生活を楽しもう。



 今日の所はそう思った。

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