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俺が異世界転移して貰った祝福は食っていくには困らない。  作者: 犬やねん
0章 俺が異世界に転移した経緯
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プロローグ2

 そんな風に昨日までのアレコレを思い出し、今日の計画を自分なりに修正してたら、コンビニに着いた。

 その間、運転席と助手席で二人は今日のことで盛り上がっていた。

 よっぽど楽しみにしていたのだろう。


 俺が河原だけで完結させてやるがなッ!



「ちゃんとココのコンビニは片田舎で早朝でも開いてるな~。」


 健太が言う。俺の地元のコンビニ?8時頃開店だ。遅い時は10時頃だ。

 コンビニっぽい外観をしただけの商店だから当然である。




 適当に目に付いたものを買い、コンビニから出る。

 店内では特に目立ったことはなかった。


 健太が明らかに不味そうな変な味のフレーバーのサイダーを買おうとしてたくらいだ。

 俺にも被害が出る可能性が高いのでそれは阻止した。


 車に乗り込み、再び走り出す。淳史君の車を汚すといけないので、車内では食べない。


 民家がドンドン減っていき、やがて山道になり、曲がりくねった道を更に進む。

 山の間を縫うように作られた道路をゆっくりとしたスピードで走っていると、東の方の空はもうだいぶ明るい。

 山に隠れて見えてはいないが、朝日が顔を出しているんだろう。



 やがて駐車場に到着し、外に出る。近くに川が流れているので、薄っすらとせせらぎが聞こえる。


「おー、空気がウメェなぁ。」


 健太が言う。

 そうか?街中と変わらないと思うぞ?お前とりあえず定番の言葉言いたいだけだろう。

 そう思うが言わない。わざわざ空気悪くする必要無いし。空気の事だけに。


 淳史君はと言えば、デジカメで写真を撮ってる。

 この人はこの人で、結構自由だ。



 車道の縁石に座り込んで朝食だ。

 皆、軽く食べる程度である。


 俺はおにぎりと水。

 健太は菓子パンとカフェオレ。

 淳史君はサンドイッチとお茶。

 見事にバラバラだな。


 雑談しながら朝食を終えると、車に戻り、淳史君は休憩をし、俺と健太はバックパックに荷物を詰める。

 今回食料はギリギリまで冷やして行こうと、大型のクーラーボックスに入れてある。

 それをココでバックパックに詰め直すのだ。


 バックパックは三人同じものを一括購入した。皆こだわりはなかった。

 大は小を兼ねるとも言うし、ネットでぱっと見かけて一番容量のあるやつを買った。

 80Lのデカイやつだ。



 一旦荷物を地面に全部並べる。早朝の人がいない時間帯だから出来ることだな。

 人が見てたら恥ずかしくて、それ以上に迷惑だろうからこんなこと出来ない。



 皆の体格を考慮して、健太と二人でああでもない、こうでもないと適当に詰めて行く。


 俺以外の二人の計画では、俺に重い物全て持たせて楽をする予定だったのだろうが、物が多すぎてそれは叶わなかった。

 ある程度皆に重さが分散する。

 俺がやたら重いものを持ってる状況には変わりがないが。


 重いものを重点的に俺のバックパックに、軽くて嵩張るものを淳史君のバックパックに、余りを健太に。

 三人の中では淳史君が一番ヒョロっとしてる。


 自然と水物や食料が俺の所に集まってくる。当然だな。

 バカが肉を冷やすためとか言って、ビニール袋に水入れて凍らせただけのデカイ氷まで入れてきやがった。

 結露とかでビシャビシャになりそうなんだが。




 全て入れ終え、試しに持ってみる。

 重いけど、まぁ持てる。

 でもやっぱりコレで登山は勘弁だ。必ず河原で消費させよう。


 他のも持ってみる。

 軽いが、8kg位か?二人にとってはコレでもキツイだろう。


 よしよし。楽させてはいけないからな。俺の目的は登山を諦めさせることだ。

 もう二度としたくない。そう思わせることが大事だ。

 車中で閃いた思い付きだ。コレを実行するのは俺の中での最優先事項だ。



 荷造りが出来たので淳史君を呼び、バックパックを三人が担ぐ。

 ズッシリと重さが肩にかかる。

 たまらんな。すでに帰りたい。


 バックパックが加重を体全体に重さが分散するようにしてくれてるが、それでもそれなりに重い。

 胸のあたりにある肩紐同士を止めるベルトと、腰の当たりに来るバックパックの下辺がブラつかないようにするベルトをパチンパチンと左右合わせて止める。

 うん、良いねコレ。



 二人を見ると、重い重い言いながら楽しそうだ。馬鹿め、楽しんでいられるのは今の内だ。




 俺の腰には新しく買った鉈がある。

 コレを装着しようと取り出した時に、健太が貸して貸してとうるさかった。


 コイツに貸して、誤って指でも斬り落としたら今日の計画は台無しだ。

 そうはならなくても、振り回した時に淳史君の車をうっかり斬りつけて、大惨事を引き起こしたりなども起こり得る。


 今渡して怪我があったら計画が中止になる事と、登山から戻って来てからなら貸してやる、と、そう伝えたら引き下がった。

 アホめ。その頃には疲れてそんな話など覚えてはいまい。


 ちなみに俺もまだ一度も振ったことはない。

 街中で振り回す訳にはいかないし、室内で振ってどっか斬りつけても困る。

 今だって、健太が見てる前で振ったらまた貸せとうるさくなるだろう。

 途中で杖でも作る気なので、その時までお預けである。



 最後にB5判サイズのクリップ付きボードと、オリエンテーリングコンパスを首に掛ける。

 2つにはネックストラップを付けてある。


 ボードには航空写真と、地形図を拡大、縮小しながら色んなサイズでプリントアウトした地図が挟まっている。それにB5のコピー用紙が数枚とボールペン。

 オリエンテーリングコンパスは、透明な定規とコンパスを組み合わせたような道具だ。


 まとめられた地図の中に、サイズを間違えてプリントアウトした日本全土が収まるサイズの地図まで一緒くたにされているのが、俺の性格のズボラさ加減を証明するいい証拠になっている。




「んじゃ行こうか。」


 卵の6個パックを左手に持ち、右手を三叉路の支流の上流に沿って伸びてる道路を指して言う。

 朝もやが少し掛かっている。視界が効かない程ではない。


 なんで卵を持って歩いてるんだ?俺を見た人はそう思うだろう。



 全て健太が悪い。

 『焼きそばには目玉焼きがないとアカン』だの、『ついでに翌朝目玉焼きとウインナー・・・いや、ベーコンエッグ、ハムエッグもアリやな。』などとほざいた上で、淳史君の『全部とりあえず買っておこう。』のいつものコンボで買ったのである。


 割れたら大惨事なので手で持つしか無い。


 運ぶのは当然俺である。

 このまま心の赴くままに叫びながら遠投したい。



「よっしゃいこか!どのくらい歩くのん?」


「15km弱って所じゃないかな?3,4時間ってトコかな。」


 歩き出しながら答えを返す。すると淳史君が聞いてくる


「どんな道でどんな予定だっけ?」


「このままこの支流に沿って緩い傾斜の道路が上流まで続いてる。

 道路の切れた所からは河原まで行く獣道とか、釣り人が歩いた跡があると思うから、ソコを歩いてこの支流の最上流域へ。

 BBQしたら河原から近くの1,100mくらいの山の、山頂を目指す。

 航空写真を見た感じだと山頂は禿げてるから見晴らしは良いと思うし、登っていく道もあるように見えた。」


 歩きつつそう答える。



 健太は元気だ。

 たまに走っていって珍しいものを眺めたり、川の方を眺めたりしている。

 俺は二人に持たせる杖になりそうな親指ほどの太さの探して、山側を見ながら歩く。

 淳史君は気になるものをデジカメで撮りつつだ。



 早朝だから気温は低い。川の直ぐ側の道だから余計だ。山側は木が生い茂っているしな。

 長袖で来てるから寒いとまでは行かないが。

 朝もやは奥に行くほど、ほんの少しずつ濃くなっていってるような気もする。



 休憩を挟みながら進む。最初のうちはペースが早かった。

 楽しくて元気だったからだろう。

 後半の方は大分ペースを落としていたが。

 二人は水分補給をしながら進む。俺は水分補給をしなかった。

 そんなに疲れてないってのもあるし、気温が低くて余り汗をかいてない。

 俺にとってはゆるい傾斜の楽な道でも、普段坂道を歩いてない二人にするとキツイのだろう。

 ただ、バックパックの中のデカイ氷が背中にあたって冷たいので、途中で背中との間にタオルを差し込んで背中に当たらないようにした。


 杖は早い段階で作っておいた。杖をつくる時は卵を二人に渡した。

 杖を渡す時には卵が戻ってきた。卵は引換券じゃないんだけどな。

 俺の分の杖はない、道路を歩く程度ならいらない。




 そんなこんなで三時間ほど歩いた。

 朝もやも濃くなってきた

 飽きてきた健太が言う。


「まーだかかりそうですかねぇ?」


 大分疲れた声だ。励ます意味も込めて言う。


「あぁ、大分来たからなもう少し頑張れば道路が終わる。そこからは近いよ。

 まぁ、上流域のどこらへんでBBQするかは健太が決めてくれ。」


 そう言っておく。疲れて嫌になったなら近場で済ますだろう。

 BBQ終わってから、また登山は嫌だと思ってくれたらありがたい。

 もう少しで道路が終わるって言ってもどれくらいが少しなのか、俺にはわからん。

 まぁ、ペースが落ちてるから結構掛かるかもしれん。


「そっかぁ、じゃぁ、道路が終わる所でまたきゅうけっ・・・なんだコレ」


 健太がそう言って立ち止まり、呆然とする。


「すげぇなコレ」


 俺と淳史君も立ち止まり、呆然としながら言う。



 前の方から風が吹いている。頬を撫でるくらいの弱い風だ。

 風に吹かれてなのか、霧が急速に濃くなっていく。


 呆然としてた間は短かったが、景色は白く塗りつぶされた。

 足元を見ると、足首から先は濃い霧に阻まれて、地面も自分の足の甲も見えない。


 コレは迂闊に歩くと平衡感覚が狂って危なそうだ。

 2m先も見通せなさそうだし。


「おい、ちょっと皆、近寄れ。」


 この状態でハグレるのが怖くて咄嗟に言葉が出た。二人も素直に従う。


 気がつけば風がやんでいた。霧は濃いままだ。


「どう思うコレ?」


「霧の濃い場合の対処は何だ?その場から迂闊に動かない事か?」


「俺もココまで濃い霧は初めてだ、わからん」


 三人で相談する。結論は出ない。


「この状態では動くのは怖いし、とりあえず様子見がてら休憩するか?」


 そう言うと早速健太が座ってみて、


「おい!この霧座ってみると腹まで霧で埋まるぞ、怖ぇよ!」


 そう言って立ち上がる。たしかに怖い。


「昔見た漫画でさ、霧の妖怪が人間を溶かして食うって言う話があって・・・」


 そんな話を始める。今するのはヤメて!洒落にならない。


 そう言えばこの霧水蒸気のくせにベタつかないな。

 フトそう思った。怖いので口に出しては言わない。


「とりあえず、どうするよ・・・。」


 健太の声に明るさがない。ガチで不安になってるやつだ。俺も不安だ。


「とりあえず戻ってみるか?杖で道路を突きながら、慎重に。」


 ココに居るのはなんだか怖い。

 霧が晴れる気配はまったくない。


 漠然とした恐怖感からそう提案すると、二人共異論はないようだ。

 ハグれたり、事故ったりしないように、対策を考える。




 荷物のビニール紐を出して大きな輪を作り、その中に入って縦列で移動することにした。

 傍目に見たら電車ごっこだ。本人たちは至って真剣だ。

 霧が晴れた瞬間に第三者がいないことを願う。

 この状態を女子高生とかに見られたら死にたくなる。


 二人共、座り込めなくて体力的にキツそうなので、二人の荷物を俺が持つ。

 バックパックの上の方にある持ち手を2つ重ねて左手で握り、肘を上に上げるようにして、肩と二の腕に担ぐようにして持つ。


 多少重いが、こうやって持つのは結構慣れてる。

 田舎育ちで、夜中に鮎の解禁になると川に何把も網をかけ、夜の真っ暗な中、川を泳いで魚を取り、魚がいっぱいにかかった網を何把も持ち、家や軽トラまで川から上がった。

 それに比べればむしろ軽い。


 卵は、背中に背負ったバックパックの方に少し空間を作って、タオルで包んで入れた。

 コケたりしない限り大丈夫だろう。


 電車ごっこの紐は、鉈の柄に引っ掛けて手で持たなくても落ちないようにする。


 右手には淳史君が使っていた杖を持つ。

 コレで2,3箇所前方を突いて、問題がなければ一歩ずつ進む。


 俺、健太、淳史君の順番で輪の中で縦列を作る。

 健太には右側だけを杖で突いてもらう。

 右側は川側になる。もしも何も当たらなければ川に近づいている。

 そうしたら真っ直ぐ山側に限界まで寄ればいい。



 そう取り決め、準備が終わり、杖を自分の身体に立てかけ、もと来た道を引き返そうと、右手でオリエンテーリングコンパスを手に取り目をやる。


「うそーん!」


 思わず声に出してしまった。


「どうした!」


 二人が真剣な表情でこっちを見てくる。

 しょうが無いので二人にも見せる。


 コンパスの針がぐるぐると廻っていた。


「マジっすか!気持ち悪っ。」


 そう言われると鳥肌が立つじゃないか。

 うん、気持ち悪いし、怖いなコレ。背中がゾワゾワする。


「ちょっとそのまま持ってて」


 そう言うと淳史君は真剣な顔をしてスマホを取り出し、動画を取り始めた。

 ブレ無いね、アンタ。

 一分ほど、動画を取って一旦こちらを見る。


 その間、俺と健太は顔面蒼白で、ヤバくね?ヤバイヤバイ!と、二人で出川状態だった。



「早くココから逃げよう。俺はこの体験を動画に撮る」


 そう言ってカメラとスマホを持っていた。


 うん。

 うーん。うん、ま、いっか。

 淳史君の手は空いているし、コケてコッチに倒れてこなければ。

 動画も後で他の友人にもネタになるし。

 そう思うことにした。チラっとコイツ結構余裕があるな、などとも思った。



 コンパスが当てにならないので、だいたいコッチだろうという方向に向く。

 帰り道は緩い下りの傾斜だ。ちょっと前まで歩いてきた道だ。


 そこでハッと気づく、足元の感覚では傾斜を感じ取れない。平地に感じてる。

 斜面に真っ直ぐ立つと足首に傾斜の分の角度が突く。その感覚がない。

 自分の平衡感覚が霧で狂ったか?そう思い二人に聞く。



 二人の答えは、分からない、だった。



 平衡感覚も当てに出来ない。

 仕方がないので勘でだいたいコッチだ、って方向に向かうことにした。

 そこで腕時計を見た。

 時計までぐるぐる廻ってたら怖い。そう思ったが腕時計は正常に動いてた。

 針は8時20分程を指してた。多分2~30分程ココで足止めされてたと思う。


 太陽が出てればぼんやりと光って見えるのでは?と思い、空を見上げて見回すが、太陽らしきものはどこにも確認できなかった。



 コツッ、コツッ、コツッと、杖の先で前方の80センチ位の範囲を叩き、つま先だけを地面に、軽く擦らせながら慎重に歩く。

 そして気がつく。地面の感触がアスファルトじゃないっぽい。

 ザラッとした、ゴツゴツとした感触ではないと思う。音も鳴らない。

 怖くて地面を触って確認はできない。


 余り考えないようにし、一歩一歩ゆっくりと前に進む。





 腕時計を見る。8時50分。30分程時間が経過した。

 精神的に負担があるのか、凄く疲れてる気がする。

 左腕は同じ姿勢で肘を張ってバックパックを担いでいるので、肩と肘の筋が凝り固まって凄く痛い。


 ココまで、何の変化もなかった。ひたすら真っすぐ進んでいるのに、だ。

 キッチリまっすぐ進んでいるにしても、微妙に左右に傾いて進んでいるにしても、山にも川にも当たらないのは流石にオカシイんじゃないか。

 そう思うが、俺を含めて皆黙って歩いてる。


 歩く以外にやれる事がないし、このまま帰れなかったら、そう思うと怖い。


 そうしてまた一歩、また一歩と進んでいく。



 それからもしばらく歩いていたら、突然ゆるく風が吹いてきた。


「おっ!」


 コレは濃い霧が吹いたときと同じ現象だ。

 やっと起きた変化だ。

 とうとう怪奇現象から抜け出せるか?

 と、都合の良い考えを浮かべ、悪化する方向には考えないようにして、口元をニヤつかせながら後ろを振り返る。



 そこで俺は凍りついた。


 友人二人はいなかった。



 腰の鉈を見ると、電車ごっこに使っていたビニール紐が1mくらいで切られていて、鉈の柄に引っかかって風に揺れていた。


 風が少し強くなり、霧が急速に晴れていく。

 呆然としながら、突然左腕にかかってた重さがなくなり、バックパックも軽くなる。


 フラつき、倒れ込み膝を地面につき、草を押し倒しながら手を地面につく。


「何だコレ・・・。」



 目の前は草が生い茂っている。

 展開について行けなくて、そう呟くことしか出来なかった。

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