第28話 カレーと目玉焼き
本日投稿二本目。
コ○イチのカレーが食いてぇな(ポークソースでチキン煮込みとカキフライをトッピング)
吸い込むようにカレーを食べてるラジャスを横目に、俺はソース、醤油、粗挽きの黒胡椒、味塩こしょうをテーブルに置いて。
「この目玉焼きとハムはお好きな調味料を掛けて食べてください。ただ、今回はカレーが有るので、私はこうしますが。」
そう言ってカレーの上に目玉焼きを載っける。
まずは普通にカレーの掛かったご飯の所を掬って食べる。
家庭的なカレーだ。野菜と肉をたっぷりと入れて煮込み、市販のルーを入れただけのシンプルなカレー。
辛口だけど、リンゴと蜂蜜が売りのマイルドなブランドのやつなので、辛さは比較的おとなしい。
店で出てくるカレーのようなオリジナリティはないし、ルーに複雑さもない。
しかし、店で出されてるカレーに比べて採算なんて考えてない自作のカレーは、どっさりと入れた具で味わいが豊かなんだよな。作ってから一夜明けてるのでルーと野菜がよく馴染んでコクがある。
次にスプーンで黄身を割り、白身を裂き、ルーと黄身と白身を一旦ご飯の上に置き、そしてまたご飯ごと掬うとバクっと頬張る。
カレーの旨さと香りが広がった後に咀嚼していくと、初めは卵やご飯が自己主張しカレーと混ざり合っていくのにつれ、主張を収めていく。
食感や風味、黄身の甘みがカレーと交わって変化するのが楽しい。
食べる前に全てを混ぜずに、口の中で混ざり合うこの変化を楽しむ文化はかなり日本人的で独特らしい。
西洋文化で育った人が日本食を食べると、オカズや汁物を先に食べきってご飯だけが残ってしまい困るそうだ。
カツ丼ならカツだけ先に食べてしまい、うな丼なら鰻だけ先に食べてしまう。
ご飯と一緒に食べるという癖が付いてないからどうしてもご飯が余り、ご飯単体では美味しくないので、最後はツラくなって食べるのを止めてしまう。残すのが嫌な人はふりかけを掛けて食べたりするそうだ。
日本人からすると不思議なんだが、そもそも日本人の食習慣が白米ありきなんだよ。
オカズの間に白米挟んで、その口の中で咀嚼しながらの変化の美味しさを知ってるからいいが、白米の旨さを知らない人からするとその食べ方は馴染めないんだ。
海外の料理を見ると一品一品が単体で完成されてて、完結している。米料理だってしっかり味付けがされてるケースが多い。
世界的に見たらオカズとして濃い目の味付けをして、米と合わせる事前提なのが特異なんだ。その辺をちょっと意識しないといけない。
つまり何が言いたいかというと、白米喰った事がない奴に米を布教するなら、カレーみたいに米に混ぜやすく、食べやすいものにしないとダメだってことだな。
じゃないとオカズの旨さは伝えられても、米の旨さは伝えられずに取り残される可能性がある。
カレーは、米とカレーの配分を自分で調整しながら食うから、変化を感じやすい。
まぁ、最初に米とカレーをグチャグチャに混ぜられたら、ソレで終了なんだが。
そんなことを考えてると、ラジャスとダルシャナも真似をして、目玉焼きをカレーに載っけて崩して食べていく。
ハムはそのまま食べたり、カレーをつけたり、各種調味料をつけてみたりしてるみたいだ。
俺のハムは結局ダルシャナに献上した。
「このハムも、私が知ってるハムとちょっと違うわね。特に嚼んだ時の歯ざわりが違うわ。
そのまま食べても美味しいし、それぞれの調味料も美味しいけど、特に黒胡椒が気に入ったわ。ちょこっと掛けると香りと刺激が肉の風味にあってとてもいいわね。
しかしヒロは胡椒まで無限に生み出せるの?」
お。ココから俺の物語は胡椒無双が開幕するか?
「ええ、胡椒はコッチではどうなんですか?」
「胡椒は需要に供給が間に合ってない感じね。肉料理以外にも用途に幅があるから引く手数多な印象ね。胡椒も国内にはなくて、海を渡って貿易しないと入ってこないからソコソコ高価ね。でも、砂糖ほど希少ではないわ。産地がそんなに遠くないのと、航路が確立されてるから航海の危険が砂糖よりも低いらしいわ。それに、どうしても胡椒じゃないとダメってこだわりがない人は諦めて他のハーブとか使っちゃってるわね。」
「それなら胡椒を売る分には安全でしょうか?」
「うーん、止めておいたほうがいいと思うわよ?無名のヒロがいきなり持ち込んだら、やっぱり目立つもの。船主ってわけでもなんでもないのに、海外からの貿易品目を売りに出したら、注目されると思うわよ?」
つまり、一足飛びで金儲けしようとするからいけないんだ。やっぱり目立たないものからコツコツやって、商人として名を売っていけば行けるんじゃないか?
「塩とかはどうでしょう?」
「塩は小売りなら目立たないわね。大量に売るとどこから仕入れてるのか探られるでしょうし、カルテルを組んでる商人や、塩鉱山を握ってる元締めが出てきちゃうと思うけど。」
塩鉱山・・・岩塩かな。どうやら塩は利権が絡みでややこしそうな雰囲気だ。専売公社みたいなのが有るのかな?でも小売りは関係ないならコツコツ小銭を溜めるってのには良い手だよな。
バックパックから食卓塩1kgのビニールパックを取り出す。
「コレなんですけど売れそうですかね?」
「ちょっと開けて舐めてみてもいいかしら?」
袋を切って紙皿を出し、少量を盛る。
ダルシャナは指の先にチョンと付けてペロッと舐めると。
「止めておいたほうが良いわね。この世界の塩はこんなに白くないし、味もちょっと違うわ。コレを売ってたら目立ってすぐに塩商人に睨まれそうね。」
ダメか。俺の所持品は売れる物が全くないな。いくら無限補給出来ても売れないんじゃ厳しいな。
でも、ダメだって判断できたのは一歩前進かな。
そんな会話をしたりして、明るく食事を進める。
俺は自分の分を食べながら、二人の食事の進み具合を気にしつつ、給仕みたいなこともする。給仕っていうか、子供の世話する母親だな。
鍋のカレーは大分減ったので、もう派手には溢れないだろうと鍋を傾けて直接皿に注いでいく。
まあ、俺とダルシャナは残ったご飯に合わせて少量追加した程度で、ラジャスの食べてる飯盒に、残りのカレールーの大半を流し込んだのだが。
最後の方はラジャスの。
「おお、この薄っすらと焦げて香ばしく、カリッとなった所にカレーが合わさるとまた一味違うな!」
ってのをダルシャナが聞きつけると、睨まれ。
「ちょっと!私のにはそんなのなかったわよ!ラジャス、私にも一口食べさせなさいよ!」
と、二人で飯盒を覗いてた。
いや、スプーンで五合飯を炊かれた飯盒の鍋底を掘るの嫌ですし。
しゃもじが有っても米の量が多くて、やりたくないよそんなの。
最後まで食べるペースが落ちなかったラジャスは、マグカップの水をゴクゴクと飲み干し、タンッとテーブルに叩きつけると。
「最後に飲む水も美味い!おかわり!」
ああ、うん、美味いよな。カレーを食う時は最後まで水を飲まないのがポイントだよな。カレーが辛いほど、我慢した分開放感みたいなものが有る。
ラジャスのコップに水を注ぐ。
ちなみにダルシャナは、ちょこちょこ食べてる途中で水を飲んでいた。
食べ終わった食器や調理器具はゴミ箱に突っ込んでおく。
いきなり再生成するとカレールーが周辺に落ちることがわかったからな。
テーブルの上を片付けて、ダルシャナに聞く。
「朝食は満足して頂けましたか?」
「ええ、美味しかったわよ。銅貨5枚の価値は十分に有ったわね。
話し合いの前に宿の延長を先にしましょうか。その方が腰を落ち着けて話せるでしょうし。
ラジャス、一緒に行ってきて。」
ダルシャナはこちらの意図を汲み取って、そう返してきた。話が早くて助かる。正直、踏み倒されたら怖くて気が気じゃないからな。
食事に満足したのか、機嫌の良さそうなラジャスと二人で受付に向かい、誰もいない受付を横目に食堂に行く。
食堂の客はさっき来た時よりも増えていた。
厨房を覗き、忙しそうな女将に声を掛け、宿の延長を頼むと、この場でお金を置いてってもらえば良いとのことだったので、ラジャスが料金を纏めて払った。
しかし、金を払ってもらう時の、この嫌な感覚はなんだかな。
女の子に宿泊費払って貰うってのが特にな。ヒモっぽくてやだな。
一応。
「ありがとうございます。」
って言っておく、すると。
「ああ、美味かったから気にするな。」
って笑顔で返してくる。
いや、ラジャスも心からの笑顔で言ってくれてるっぽいし、笑顔が可愛くてアレなんだがな。
気を使われてるんじゃないかって思う自分も嫌だし、なんかこの空気感もヤダな。
そんなことを思いながら、二階の部屋へと戻っていった。
ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
おかしいな。カレーでこんなに書く予定ではなかったのに一万文字以上使ってる。




