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第26話 飯盒炊爨

 ゆっくりと意識が覚醒していき、思考が目を覚ます。

 何か夢を見ていたとは思うが、すでにどんな夢を見ていたのか思い出せない。

 夢なんか思い出す必要もないので、今日の予定を思い出そうとする。



 今日は朝から米を炊く予定だった。あぁ、そうだ、異世界に来たんだっけ。


 自分の状況を思い出して目を開ければ、未だ見慣れぬ景色。

 土と木材でできた殺風景で狭い部屋が見える。窓を開けたまま寝てしまったので室内は明るい。


 夢なら良かったのに、と思いながらスマホを見る。5時32分。目覚ましが鳴る前に起きれたみたいだ。

 そのまま目覚ましを止める。この時間に起きたいと意識すれば、大体近い時間に目が覚める。人間の体って不思議だなって、こういう時にちょっと感心する。



 これから朝食を作らないといけないが、今日から米は飯盒で炊かなきゃいけない。

 保温機能の付いた炊飯ジャーなんて便利な物はなく、炊いたら冷めていってしまうので、あまり早くに炊いてもなぁ。


 そんなことを考えながら服を着て、靴を履き、水を飲んでからトイレにいく。

 他の宿泊客とすれ違うこともなく用を足すと、ついでに桶も借りておこうかと中庭から受付へ行き、カウンターに女将がいないのを見て食堂へまわる。



 食堂には何組か客がいて食事が始まっていた。朝から肉の焼けた匂いがしている。

 どんなものを食べているのか気になるが、覗いて回るわけにもいかないので真っ直ぐに厨房を目指す。


 厨房を覗くと女将と旦那さんが、忙しそうに料理を作っていた。

 態々朝食時に声を掛けるのは悪い気もするが、相手も商売だし、遠慮してると何もできなくなるので挨拶して、桶を貸してもらい、ついでにチェックアウトのことも話す。



 チェックアウトは昼までに済ませば良いようだ。桶も宿を出る時に時に返せばいい。

 女将さんの機嫌は悪くなかった。

 手短に会話を済ませると、忙しなく料理に戻っていった。


 桶は持ち手が付いたのと、付いてないのが選べた。俺は何か入れて運びたいわけじゃないから持ち手のないものにしてもらった。

 木製でタライのような形だ。深さ30cm、直径50cm程だろうか、外周を金属の帯状の(タガ)が鋲で止められてる。




 桶を抱えて部屋に戻り。時間を見ると5時50分過ぎ。もういいぐらいの時間かな。


 バックパックを持ってテーブルに移動して椅子に座り、飯盒を取り出す。


 飯盒は、今回のキャンプで実際に炊けるのか家で試したので新品状態ではない。だから水で濯がなくていい。

 フライパンや雪平鍋が、再生成するたびに一々水で流すのがちょっとめんどくさいから、新品の状態に戻るのも考えものだよな。


 今回買った飯盒は兵式丸型飯盒で5合炊きだ。デカイ、バケツのようだ。

 兵式ってのは、外蓋がフライパンみたいに使えるように脱着できる取っ手を付けてないタイプだ。

 そして飯盒っていうと、そら豆みたいな形状のを思い浮かべるが、俺が買ったのは円筒型のやつだ。


 更に無洗米と水を出す。飯盒の外蓋と内蓋を外し、内蓋で米を計る。

 内蓋ですりきり一杯で2.5合だ。二回計って5合分を飯盒の中に入れる。

 1合や3合や4合で炊くことは出来ない。強制的に2.5合か5合だ。一人で食おうと思うとどんぶり飯確定である。

 そして水をダバダバと入れて、飯盒の内側にある5合の目盛りぴったりまで水を入れる。

 時間を確認して、これから30分間米を水に浸す。



 さて、俺は今回のキャンプ計画が立ち上がるまで、飯盒でご飯を炊いたことなんて無かった。

 河原でご飯が食いたかったら、家から炊けたご飯を炊飯ジャーごと持っていけばよかったからな。ガチの田舎者はキャンプなどしないのだよ。

 だから、ガスコンロを使った飯盒で米を炊く方法をよく調べて、事前に実験してあった。今回はそれを参考に炊こうと思う。


 何で俺が事前にそんなことをしてるのかと言えば、友人二人はあまり料理をしないし、ノリで変な事をしだすから触らせると危険だ。

 俺は飯は美味しく食べたい。子供の頃から料理をよくしてる俺が調理担当になるのは自然だった。友人二人も元から俺に押し付けること前提でいたしな。



 で、ネットで調べてると手順に共通すること、しないことがあった。

 共通するのは、米をしっかり水に浸ける事。これをちゃんとやらないと芯が残る。皆ほとんど30分。20分なんて人もいたが、極々少数だ。

 次に、飯盒炊爨は簡単で、そんなにきっちり炊かなくても成功しますよってのがよく書いてある。

 でも、だからこそ逆に炊き方の手順が共通しない。

 よっぽど酷いことをしないと皆が成功判定を下すんだろう、どれを参考にしたらいいのかがイマイチ分からない。


 飯盒に付いてくる説明書に米の炊き方が載っているんだが、コレもやっぱりネットにあがってる炊き方と微妙に違うんだよな。


 で、炊いてみた人を大別すると、最高に美味しい一品を目指して温度を細かく調節する人と、面倒臭いので手順を簡略化してる人と別れる。


 オレがやるのは簡略化された手順だな。面倒臭いんだよ、簡略化されて無い方の手順は。



 米と水を入れた飯盒に、外蓋だけを嵌める。内蓋はつけない。

 カレーが入った鍋をどかして、コンロの上に飯盒を置き、その上に水を入れたマグカップを置いておく。

 これは、沸騰する際に蓋が持ち上がるので、それを防ぐため。


 米が芯まで水を吸うのを待つしか無いので、その間にハムと卵を出しておいたり紙皿やフライパンを準備したり、細々とした事をして時間を潰す。

 それでもやることなくなってボーッとしてたら30分経った。



 水に米をしっかり浸したら、火を入れる。

 ココで最初のポイント、飯盒が吹き出すまでをどうするか。

 弱火、中火、強火。さらに弱火で何分かやってから強火に上げるなど選択肢が多い。


 ちなみに一番簡略化された手順では、最初から最後まで弱火で19分弱加熱する、だ。

 これは、五合炊きの飯盒でそのまま通用すると思えなかったので不採用だ。残念。


 俺は飯盒が吹くまでは中火で行く。

 何故か?よくわからないから中間で行くだけだ。

 おそらく、沸騰するまでの時間で仕上がりに影響がありそうなんだが、気にしないことにする。

 説明書では弱火で5分の後に強火と有るが、無視する。



 そのまま加熱していると、外蓋の隙間から吹き零れがでたりする。そうしたら今度は弱火にする。


 さて、弱火にするのは共通するが、ココから弱火でどれだけ加熱するのかがまた分かれる。

 主に、時間で区切る、音と匂いで判断、鍋の振動で判断だ。


 時間は分かりやすいよな。でも、普通の飯盒は4合までで、5合だとどう変わるのかがわからないので止めておいた。

 音と匂いは、パチパチという音がして軽く焦げた匂いがしたらそれが合図。でもこれ、もうその時点で焦げ始めてるんだよな。

 あまり焦がしたくない俺は鍋の振動で判断する。これは外蓋に箸やスプーンを当てて、振動がしなくなったら炊けた合図と判断する方法だ。

 たぶん中の水気が沸騰して振動になってるんだろうな。これだと焦げだす前に気がつける。

 これを最初に気がついた人すごいと思うよ?でも、たぶん噴いて持ち上がる蓋を、必死に箸で押さえてたんだろうなって思うと、ちょっと間抜けだ。実際どうなんかは知らんけど。




 蓋に触れたスプーンからの振動がなくなったので火を止める。ここで強火で数十秒とか色んなアレンジが有るが、俺はやらない。


 次は蒸らしだ。


 ココで飯盒をひっくり返すか、ひっくり返さないかでまた分かれる。

 ネットを観察してるとひっくり返す派の方が多いが、これはひっくり返すのが常識と考えて、何故?の部分をあまり考えずにひっくり返してる人も多そうだ。


 俺は理由をしっかり把握しておきたい。


 ひっくり返さない派の主張は、ムラ無く蒸せる。

 ひっくり返す派の主張はどうやら、焦げにくくなる、底のおこげの部分が綺麗に剥せるようになるということだった。

 焦げにくくなるってのは、熱された部分にいつまでも触れさせずに空間をあけるようにするとか、そういったことなんだろうか?


 どれほど効果があるのかがイマイチわからないが、おこげに愛着があるわけでもない俺はひっくり返す派として生きていこうと思う。


 タオル2枚を広げた上に、飯盒をひっくり返して乘せて包む。




 これで10分程蒸らしたら出来上がりだ。

 ブクマ100件突破しました。ありがとうございます。この場をお借りして感謝を。


 読んでくれる皆様がいなかったら、すでに筆を折ってたと思う(確信)


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