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第23話 トンテキ

肉が食いてぇ(慟哭)

「では、食べてみましょうか。この料理はトンテキって言います。」


 出来上がったトンテキを前にして言う。筋は完全に切り離されてるから箸で裂けるはずだ。

 そう思っていたんだが、ラジャスは一枚を箸で掴み上げ、そのままバクっと食いつき、ムシャムシャと噛むとグビグビとコークハイを飲む。


「美味い!でも、コークハイだと後味がいまいちだ!」


 食べ物に甘い飲み物を合わせるのが嫌みたいだな。

 そう思ったので、タレに使って残ってたカップ酒を勧めてみる。


「これは日本酒っていうまた違ったお酒です。これを試しに飲んでみてください。」


 渡すとグビっと一口飲んで。


「お、これはキリッとして美味いな。ウイスキーと違ってそんなに強くないし、香りに癖がなくて飲みやすいぞ。」


 そう言って、またトンテキをガブリとやってゴクゴクと日本酒を飲みだす。


「ちょっと!全部飲まないでよ!」


 すぐに無くなりそうな勢いで飲み始めたので、ダルシャナが慌てて奪い取り、一口飲む。


「これは口当たりが良いわね。香りは穏やかで優しいし、飲みやすいわ。

 でも、チューハイに比べると後からお酒の強さが来るわ。料理には日本酒の方が合いそうね。」


 そう言いながらラジャスにカップ酒を返す。


 俺はぼんやりと前に座ったラジャスを見る。


 卓上コンロの上にフライパン、その中にはタレで真っ黒に焼けた肉。

 それを前にしてて胡座をかき、右手に焼いた肉を箸で持ち、左手にはカップ酒。

 ニコニコと嬉しそうに肉を齧ったり酒を飲んでるその姿を見てると―




 ―うん、完全におっさんやな。ホント残念な美人だ。




 放っといて俺も喰おう。箸で身の部分を裂く。やっぱり身質は柔らかいみたいだ。簡単に裂けた。


「こうやって、箸で突いて開けば切れるんで、ダルシャナさんもやってみてください。無理だったら包丁を新しく出しますので、言ってください。」


 切り裂いた一切れを口に入れる。


 豚肩ロースのゴテっと大きめな豚の脂身から、ジュワッと口の中に脂が広がる。その後に醤油とソースの旨味と砂糖によるコクが追いかけてくる。

 豚は脂がうまい。牛は個体差が激しいが、当たりを引くと脂が香り高い。

 豚は品種によって特徴は有るが、個体差があまりない。脂に甘みがあって、いつ食べても当たり外れがないのが良い。


 肉を噛みしめる。柔らかく、繊維感はあまりない。厚切りにされた肉の旨味が噛むと出てくる。

 今回はタレを甘さ控えめ、量も控えめにしたので旨味とコクを肉に加えてる以外は、ほんの僅かな黒胡椒の主張と、後味にウスターソースの名残を感じるだけだ。


 旨い。旨いけど、ツマミとしては、だなぁ。やっぱ、甘めでコッテリとさせて、ご飯と一緒に食うのが一番だったな。次回は砂糖を増やそう。


 そう反省する。


「このお肉も癖がないわね。ソースがコクがあって美味しいわ、でも調味料として舐めた時には結構癖があったのに、こうしてみると殆どなくなっちゃうのね。」


 一口肉を食べた後、フライパンについてるタレを指ですくって舐めながら言う。


 ダルシャナも、もう箸の使い方をマスターしたみたいだ。問題なく肉を箸で裂いたりできる。この世界の人は物覚えが異常に早いのか?


「ステーキを焼いた後の肉汁に、ワインを入れて煮詰めたソースを掛けて食べるけど、アレはこんなに豊かな味わいはなかったし、もっと酸味が有ったわね。」


 ワイン以外にどんな調味料使ったのかがわからないけど、砂糖が貴重品ならなかなかコクって出せないよなぁ。果物や野菜の甘みがコクになってるんだし。

 たぶん肉の癖を抑えて、さっぱりと食べさせるためのソースなんかな。



 そんなことを考えてると。


「なあ、もう一切れ食べていいか?」


 すごく真剣な表情でラジャスが聞いてくる。カップ酒は空になってコークハイに戻ってる。


 ええ、どうぞ。と返すと、俺がさっき一切れ割いて食べた豚肩ロースを、そのまんま箸で掴み、ガブリとかぶりつく。

 君にとってはそれで一切れなんやね~。


「まだ食べられますか?」


 ウインナーも無くなってるし、一応聞く。


「まだ食べられるが、結構満足感は有るな。今日は酒をよく飲んだからもう眠い。ちょっとトイレ行ってくるから、カップ麺のダルシャナが食べてたやつを作ってくれないか?」


 ああ、シーフード味ね。結局一口貰えなかったのか。全味踏破したいのかな?

 しかしよく食うなコイツ。ビールだけでも2L位は飲んでるのに、何処に入ってるんだよ。異世界だし、牛みたいに胃が複数あるとかか?


 そんな失礼な事を思い浮かべながら


「ええ、お湯を沸かしておきますから安心して行ってきてください。」


 そう伝えると嬉しそうに、鎧を脱いでから部屋を出て行く。




 フライパンの上の、ダルシャナが食べていたトンテキを紙皿に移してもらい、雪平鍋でまた湯を沸かす。


 あまり俺は食べれなかったから、ついでに俺もカップ麺を食べよう。

 醤油味とシーフード味のカップ麺を取り出し、封を切ろうとすると、ダルシャナがやりたがるので任せた。


「ねえ、お酒も入ってるし、ラジャスはコレを食べたら寝ちゃうと思うわ。

 時間も遅くなってきてるし、今日はこの辺にして、また明日お話できないかしら?」


 そう言われて時計を見る。22時15分――確かに、もう良い時間だな。


「ヒロは時間の話題が出るとソレを見てるけど、ソレは何なの?」


 カップ麺のラベルを剥がすのを止めて、腕時計を見てる。

 ホント、抜け目ないね。

 腕時計を外して見やすくする。


「これは時計と言って・・・」


 時計の説明を簡潔に伝える。





「へぇ、3つの針で今の時間を表すのね。コレが異世界の数字なのね。コレは便利だわ。

 カップラーメンはこの速く周ってる細い針が三周して、長い針が、数字と数字の間にある小さな目盛り3つ分進めばできるのよね?」


 ダルシャナはすぐに時計を理解した。


「ええ、そうですよ。じゃぁ、お湯を入れますね。」


 秒針が0秒を指す辺りでカップ麺にお湯を入れる。

 ダルシャナは、腕時計を両手で持って秒針が回るのをじっと眺めている。ニヤニヤとして楽しそうだ。


 俺は不要になった物やゴミを片付け始める。



 そんなことをしていると扉がコンコンコンとノックされ、すぐに開きラジャスが帰ってきた。


 おかえり。と、声をかける。

 ああ。とそっけなく返す。うーん無言なのもどうなんかって思って声かけたけど、この世界では変なのかなぁ。

 あまり考えないようにしようと思い、片付けるのを続ける。


「三分経ったわよ!あ、これ一口貰うわね!」


 そう言ってダルシャナが醤油味の蓋を剥がし、麺を混ぜ始めた。

 ラジャスはすでに軽く混ぜて、もう食べてる。素早いなお前ら



 飲みかけのジュースのペットボトルと、二人が使ってたマグカップはこの部屋に置いていくことにする。

 テーブルに新たに未開封のミネラルウォーターと、ウイスキーも一本置いておく。


「この飴も置いていきますんで。」


 そう言って、箸の練習に使った俺の前に置いてあった皿にある飴を、ラジャスの皿に移すと。


「何でラジャスの方が一個多いのよ!」


 と、カップ麺から顔を上げてコッチを睨んできた。

 俺は苦笑いしながら。


「袋ごと飴を置いていくので、二人で仲良く分けてください。味は飴をくるんでる包装の絵で違うので、食べてみて比べてください。」


 そう言ってテーブルに残った飴を袋ごと置いて、封切った飴はラジャスのもダルシャナのも一緒の皿に纏めてテーブルに置き、ビニール袋を埃除けに一枚被せておいた。


「ありがとう。一口貰ったわ、どうも。」


 そう上機嫌でカップ麺を渡してくる。




 ・・・半分ほど減ってる。一口じゃねぇだろコレ。

 ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。


 ちょっと中途半端な内容ですが、文字数がちょうどよかったのでココで切ってしまいました。


 私の居る地方は、ウスターソースの味が他の地域と違うらしいので、作中の表現と読者様が普段食べてるウスターソースの味と違って感じられても、それが仕様です。


 中濃のソース食べたこと無いから知らない。(見たことすらない。)

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