第18話 飴と箸
どうしようか。元々今日はカレーの予定だったんだよな。
でもガスコンロ一つで、今から米炊いてカレー作ってだと時間がかかるしな。
ラジャスが空腹に我慢出来なさそうだから、簡単なものがいいよな。
そう思って取り出したのが、カップ麺。
謎肉とエビが入った醤油味。同じメーカーのシーフード味。そしてやっぱり同じメーカーのうどんだ。
この世界に麺料理は有るのだろうか?
机の上にポイポイっと三個並べて聞いてみる。
「お湯を入れて三分待つと、この蓋の絵みたいに出来上がる携帯食料と言うか、非常食と言うか。私の居た世界では手軽に食べられていたんですが、これ、わかりますか?」
「いや、それ以前になんでこんなに精巧な絵がかけるんだ?この絵の茶色い細長いのは虫か?」
まず写真から説明しないといけないのか。めんどくせぇな。後回しにしよう。
麺もなさそうだな。見たことがないと虫に見えてしまうのか。
「・・・パスタかしら?」
「パスタがこちらにもあるんですか?」
「ええ、ある町で一度食べた事があるのよ。
油と小麦粉を練って細く切った物に、油と香草で炒めた細切れの肉が塩味で纏められて出てきたわ。
不味くはなかったけど、そんなに美味しい物でもなかったわね。その町でしか食べたことがないわ。」
ペペロンチーノみたいなものかな?まだ洗練されて無くて未完成なんだろうな。
一度どんなものか食べてみたいな。
「パスタとは違うんですが、大筋では似たようなものですね。これはラーメンって言いまして。小麦粉を練った麺をスープに浸して食べるんですが、これは更にどこでも食べれるようにした簡易版ですね。
どうやって作るのか教えますが、先にお湯を作りたいので待っていてください。」
そう言って立って、横に来てカップ麺を眺めてるラジャスを椅子に座らせる。
まず、室内が暗いのでLEDランタンをテーブルに置いて点灯する。
薄暗い所から急激に広がったその眩しさに、ラジャスは顔をしかめ、眼を細めて、ダルシャナは。
「ちょっと!これ魔法じゃないんでしょ?どうやってやってんのよ!」
と、大興奮。説明が面倒くさかった。電気の概念は、小学校の頃にやった豆電球とエナメル線と電池を使った実験から始めないと教えられないわ。
最終的には、ラジャスがお腹空いてるからまた今度にしようと打ち切った。
次にバックパックからエマージェンシーシートを取り出し、ベットと壁との狭い空間の床に敷いてガスコンロ、雪平鍋、ミネラルウォーターを取り出す。
すると、今度はコッチに興味を持ったのか、ダルシャナが横に来てエマージェンシーシートを触ったり、ガスコンロを眺めたりしだす。
「この敷物は金属なのかしら?ものすごく薄いわ。しかもつなぎ合わせたりとかもしてないみたい。どうやったらこんな大きさを一枚物で作れるのかしら?折れても切れたりしない、凄く柔軟性があるわ。金属を伸ばしただけでこんなことが出来るのかしら?」
ニコニコしながらそんな事をブツブツ言っている。
いいけど、狭いから君は邪魔なんだよね。
ラジャスも興味持ってコッチに来てるし。
もうこれ、床で食べた方がいいかな?
「すみません、このままだと狭いんで、良かったらベッドを片方立て掛けて、そっちに敷物移動して、床に座って食べますか?」
「そうね。テーブルも三人は座れないし其の方が良いかもね。ラジャスお願い。」
「わかった。」
そう言ってラジャスは片方のベットを壁に寄せ、もう片方のベットのシーツと毛皮を壁に寄せた方のベットの上において、木枠に板が打ち付けられただけの簡素なベットを、邪魔にならない所に立てかける。
俺はその間に雪平鍋を水で流してた。再生成する度に新品になるのも考えものだ。毎回洗わないといけない。
でもダルシャナに聞いたら窓から水を捨てるのは普通の事らしい。外を確認して下に人が居なかったら捨てればいいとのことだった。
水を捨てたついでに窓も開けておく。一酸化炭素中毒怖いからね。鎧戸だから大丈夫だとは思うけど、一応。
ベッドをどかして開いた場に、シートを敷いて真ん中にコンロを置き、雪平鍋を水で満たして火に掛ける。
もちろんその間、ダルシャナがカセットコンロの説明を求めてきたり、実際にコンロを着けてみたりと、ちょっかいを出してきた。
今は火が着くのが面白いのか、カシャコン、カシャコンとツマミを捻ってコンロを着いたり消したり着いたり消したりしている。ラジャスは横に座って静かに見守ってる。
なんか湯を沸かすだけで大変だな・・・。
バックパックから割り箸を三膳出して、テーブルの上のカップラーメンを持ち、俺もシートの上に座る。
「これ、全部味が違うんで、どれが良いか選んで貰えますか?」
そう言って選んでもらった。ダルシャナがシーフード、ラジャスが醤油、俺がうどんだった。
まぁ、無難だな。初めて食べるものだから、一回り大きいカップのサイズのうどんを何となく嫌ったのかもしれん。
「底にあるシール、コレを剥がして、包装を、この透明な膜ですよ。これを取り去ります。そうしたらココの飛び出た部分を摘んで、手荒くやるとこの蓋が破れたり、中身が飛び出しちゃうんで・・・。」
そんな風に説明しながら二人にやらせてた。二人はキャッキャ、キャッキャ言いながらラベルを剥がしてた。
初体験ってなんでも楽しいもんなんだなぁ。
俺は静かに調味料の袋をパタパタ振って、片方に粉末を寄せてから口を切ってカップの中に入れ、最後に袋を指でこすり合わせて袋に残留物がないようにきっちりと始末を付けた。皆やるよね?やらない?
次は二人に箸を渡す。割り箸を割って、右手で握り開いたり閉じたりして見せて、言う。
「これが私が居た世界の食器です。他にもナイフやフォーク、スプーンなども使っていましたが、私の国では皆これを使えました。試しに使ってみてください。」
すると二人も早速割り箸を割って、俺のお手本を見ながら開いたり閉じたりをしようとする、が出来ない。
まぁ、普通すぐに出来る様になるのは無理だよ。2,3時間は最低掛かるだろう。
お湯が沸けたので二人のカップ麺にお湯を注ぐ。俺の分は足りないと困るから、水を足してもう一回沸かす。
時計を確認して、バックパックから紙皿三枚と飴玉を6個程取り出し、
紙皿に包装を切って置いていく。
「それは何だ?宝石じゃないよな?」
「ええ、そんな良いものじゃないですよ。飴です。箸の練習をするのに丸い物を掴むといいので出したんですよ。」
「飴ってなんだ?」
「飴は砂糖や麦芽糖を溶かして固めたお菓子よ。高価だからラジャスは見たことないと思うわ。でも、私が見た飴はもっと茶黒かったわよ?」
精製度合いが低いんだな。黒糖みたいになってるのか?
「これは果物の果汁を加えて作られた物です。一個づつ食べてみてください。色によって味が違いますよ。」
そう言うと、それぞれが一個摘み口の中に入れる。ラジャスがオレンジ、ダルシャナがピーチっぽいな。
二人共一瞬驚いた表情をしてから、ものっすごい真剣な表情で飴を舐めることに集中する。
箸の練習、止まってますよ?
二人の前にアメを入れた皿を一つずつ置いて。俺が実際に飴を掴みながら言う。
「ほら、こうやって飴を掴んで持ち上げて、摘めたら離します。やってるうちに慣れて、自由に動かせるようになりますよ。」
箸で飴をつまんだまま色んな方向に手首をグリグリ動かしてみると、二人は驚き、また箸の練習に集中する。
驚くことにラジャスがもう使えるようになってきてる。なんかコイツ補正がついてたりするのか?上達早くない?
そんな事してるとまた湯が湧いて自分のカップうどんにも熱湯を入れて、一旦火を切る。二人のラーメンの方も、もう三分経ったな。
さて、二人は日本のカップ麺を食べてどんな反応するんだろう。
評価ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。




