第13話 藪をつついて蛇を出す
気をつけな、この街はホモが多い。
目の前のイケメンはそう言った。ナニソレ怖い。
今のスキンヘッドのおっさんの行為はナンパだったとか?
貞操の危機を凄く感じるんですが。女知る前に男を知るとか嫌ですよ?
ホモが多い町ってなんだよ。どういう理屈で増えてるんだよ、意味がわかんねぇよ。
外は魔獣がいて野宿は危険で、内はホモが彷徨いてるとかどんな危険地帯なんだよ!
スタート地点ハードすぎるだろ!女神さん、勘弁して下さいよ。
色々と思う所は多いが、肉屋のオヤジとか、宿屋の女将で感じた違和感は氷解した。
オヤジが聞いてきた『女が好きか?』これ、『女好きか?』でも『女は好きか?』でも無いところがポイントなんだな。
男が好きなのか、女が好きなのか。どっちなんだって意味だったんだな。
お前はホモなのか?って確認だったんだ~、いやぁ~もっと早く気がついてたらなぁ。
って知るかそんなもん!気がつけるか!そんな所の裏の意味なんて想像がつくかボケェ!
たぶんオヤジは一番安い宿は危険だから、そこら辺を確認して安全な所を紹介してくれたんだな。
良いやつじゃんオヤジ。
女将さんは多分、寝言が大きいとかイビキが~って理由を、コイツホモじゃね?男連れ込むんじゃね?って思ったけど、肉屋のオヤジの紹介で本当に寝言が煩いとかだと客商売としてアレだから、どっちにしても客に迷惑がかからないような位置の部屋に隔離したとかそんな所なんだろう。
で、夕方に混雑するギルドに態々行こうとする俺を見て、確信して不機嫌になったと。
冤罪ですがな。弁明したいなコレ。
そんな事をボケっと考えてると。
「ココで暮らすなら、今みたいなことがまた有るだろうから、もっと気をつけな。」
そう言うと掴んでいた肩から手を離し、ポンポンと叩くと、受付の方に振り向き、今の騒動の間に列が進み、開いた空間を前に詰めていく。
アカン。コイツを逃したらアカン。このイケメンはおそらくホモじゃない。
さっきのスキンヘッドへの態度とか言動を見るに、イケメンは悪い奴ではなさそうだ。
もっと情報を集めないと俺、掘られてしまう。
俺は今、危険地帯に足を踏み入れてる。周り男だらけだし。
たぶんこのギルドの待合所がパンパンに人がいるのは、あいつらが黒だからだ。
・・・よく考えたらあいつら入口の近くに屯ってんのか。出て行きづらいんですけど。イヤだなぁ。
いや、それは置いておいてだ、この町の黒かも知れない男性達に情報を得るために、話を聞いて回るというのはありえない。
『おう、教えてやるからちょっと俺の部屋に来いよ』なんて言われて連れ込まれかねない。
さっきのスキンヘッドを見る限り、普通にありそうなんだよね。
普通初対面の男のケツ叩きながら揉むか?アレが常識だとしたら怖いよ。
確定で黒じゃない奴を確保しておかないと!のんびり構えていられなくなった。
後ろ姿のイケメンに、焦った俺は声をかける。
「すみません、厚かましいお願いなんですが、右も左も分からないもので、後で少しお話を伺えませんか?」
するとイケメンが振り返り。
「話をして、俺に何か得があるのか?アンタ食い詰めて冒険者になろうとしてたんだろう?冒険者になるなら、情報を得たいなら対価を用意しないといけないな。」
正論で返されました。そう言われるとぐうの音もありません。
表情は真剣でイヤミとかなさそうだから、冒険者の心得的なものを伝えたいのだろう、たぶん。
別に冒険者やりたいわけじゃなく、ホモから逃げて安全な所で生活できたら俺はそれでいいから、行動方針決めれる情報が何かしら貰えたらそれでいいんだが。
対価かぁ。無いんだよな。
塩・砂糖も価値がなければ、対価として釣り合わないって言われたらそれまでだし、逆に価値が有っても、もっとよこせってなっても面倒なんだよなぁ。
そういう事しそうになさそうな印象だけど、人が受ける印象なんてあてにならないからな~。
すんなり諦めるっていうのもな、とは思いながら、でも同じ危険を払って塩や砂糖を見せるなら、商人に見せた方がよくないか?そっちの方が金も情報も手に入りそうだし。
乗り気じゃないイケメンに無理言うよりもリスクが少ない気もするし。
冒険者やるのもギルドに入るのが今回の事で怖くなった。
金策の手段がないのに、明日の夜までに銅貨5枚集めないと寝床も飯もどうしようもならない現況が、結構切羽詰まってきてるんだよな。
いろいろ考えてみるけど、博打要素が何やっても高いんだよなぁ。
イケメンは諦めて、肉屋のオッサンに色々聞いてみる方が良いか?
あのオヤジ国産黒毛和牛で餌付け出来ねぇかな。
そんなに長い間悩んでいたわけじゃないが、黙り込んで考える俺の様子を見て、イケメンはまた受付の方を向こうとする。
「ちょっと待って、その人と話をしてみるべき。」
それを、隣に立っているイケメンの仲間が止めた。
若い女の可愛い声だった。そう言えばコイツもいたな。
ずっと黙っていたから存在を忘れてた。
身長が170cmほど、背が高いな。
細身で、ポンチョみたいなのを着ている。フードを目深にかぶってて鼻から下しか見えないが、色白で顔は整ってる雰囲気だ。
眼で一気に不細工にならなければだけど。
カップルか。やっぱりイケメンが良いのか。人生はなんて不公平なんだ。
俺はホモに絡まれ、イケメンは女を侍らせる。異世界で俺は格差社会の縮図を見た。
「何かあるのか?」
俺がこの世の無情を嘆いていると、アッチは勝手に会話してる。
「その服、葉っぱや汚れじゃないわ。模様よ。」
お、初めて気がついた人が出た。
イケメンはこちらをジロジロと見て言う。
「へぇ、珍しい服を着ているな、アンタは森人じゃないのか?」
「ええ、森人ではありませんね。これは自作した物です。」
「どうしてそんな格好してるんだい?」
「コレを着てると獲物が捕れやすくなるんですよ、この服の模様が森の景色に同化しやすくて、発見されにくくなるんです。」
「ほほぅ、そんな恰好でね。ダルシャナ、これで満足か?」
女の名前はダルシャナらしい。
「まだよ。それにこちらは今情報を一つ貰ったわ。対価として情報を払うべき。だからその人と話をしましょう。その人はとても面白いわ。」
面白いってなんだよ。面白がられるような行動取ってないぞ。
顔か?顔なのか?俺の顔はあくまでもフツメンだよ!フツメンだよ?フツメン・・・かなぁ?
「・・・アンタの面白いは、大概厄介事なんだけどなぁ。大丈夫なのか?」
そう言って目つきが鋭くなる、なんだよ一気に警戒されてるぞ。
っていうか、厄介事?面白いとか言ってるし。俺のことが何かバレてるとか?現地民との違いがわかってる、とか?
コレ、地雷踏んだか?でも自分から話したいとか言って逃げるとか、余計怪しいよな。
静観するしか無い。
「ココまでの態度を見ている限り、たぶん大丈夫よ。話すなら個室が良いと思うわ。」
「ハァ、言い出すと聞かないから、話すしか無いか。俺としては、それなら態々関わりたくないんだが。」
サーセン。俺としてもココ数十秒で一気に関わり合いたくなくなりました。
「相棒が話したいらしいからね。付き合ってもらいたいんだけど、アンタ、名前は何ていうんだ?」
「ヒロです。よろしくお願いします。」
「俺はラジャスだ、よろしくな。俺達は先にギルドに報告をしないといけないから、話はこの後でいいか?」
「ええ、私もギルドに登録をしたいので、その後でお願いします。」
本当は断りたいけど。女が絡んだら一気に話が進んだんだよなぁ。尻に敷かれてんのか?
「・・・失礼かもしれないが、ヒロはお金が尽きたって聞いてるけど、登録には銀貨1枚がかかるが、それは大丈夫なのか?」
マジスカ。銅貨、鉄貨よりも銀貨が安いなんていうのは・・・流石に無いだろうな。話の流れ的に。
「・・・無いです。横でお二人の用事が終わるの待ってます。」
外で待つってわけにも行かないし、横で待ってるか。一人になるとホモが怖いからな。
「それならラジャスが立て替えるわ。」
おーい。お前じゃないんかーい。人の財布を我が物のようにするなよ。
「いえ、出会ったばかりの人にお金を借りるのは悪いですし、結構です。」
当然断る。あまり関わりを深くしたくないし。
っつかコレ裏がありそうで怖い。日本人の心情的にもないな~。
「ダルシャナは言い出したら聞かない。素直に借りてくれた方が面倒が少ないし、俺が助かるんだがダメか?」
そう言いながら銀色に光る硬貨を、俺の腕を盾を持ってる腕で掴み、右手で掌の上に置く。
あの盾腕に固定されてて、手を離しても落ちないんだな。
関係無い事だが、硬貨を渡してくる時やたらと良い匂いがした。
イケメン恐るべし。匂いまで男臭くないのか。
そんなことより、ココまでされたら断れませんやん。押し付け返すのもアレやし。
「はい、ありがとうございます。
すみません、もしよければさっきの服の情報に対する対価は、この銀貨を貰ったということで・・・」
「それはダメよ。」
デスヨネー。わかってたけど。
「話がしたかったんだろう?諦めた方がいい。」
藪蛇だなぁ。コッチが関わり合いたくなくなってるのも伝わってるわ。
「すみません、お借りします。」
こうして金を貸して一時的に関わりを強くして、何か探りたいんだろうなぁ。
返済するにしても銀貨は何ホーンラビットなんだろう。とうとう借金まで・・・。
「ああ、期待して待っているよ。」
そう言って受付の方を向く。ダルシャナもあわせてそっちを向く。
そして、目の前の列が消化されて、自分の番が周ってくるまで無言で待つ。
なんかドンドン状況悪くなってってないか、俺?
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