第12話 冒険者ギルドでの出来事
本日更新二話目です。
今回の話は人によっては不快に感じる要素も有るかと思います。ご注意を。
スマホの振動で目が覚める。たぶん振動を開始した直後に目が覚めてる。
眠りが浅いからちょっとした事に敏感なんだよな。
音楽が徐々に大きくなるのを止めて、電源を切ってバックパックに入れる。
酒が残ってるって感じはしない。まだ少し眠いが起きれないほどじゃない。
俺は寝起きが良い方だ。たぶん肉や塩辛いものを好んで食ってて、低血圧とかとは無縁だからかな。
・・・俺の身体、大丈夫かな?酒に強いってことは肝臓が弱ってるってことだし。
ダメだ。考えないようにしよう。
服を着る。迷彩服の上下と靴下を履いて、帽子も眠る前に一緒に再生成してたからこれも被る。
そして衣服と一緒に再生成しちゃってた鉈とベルトも付ける。
靴を履いて、寝袋は・・・そのままでいいか。
何か有っても再生成で呼び戻せるし。
テーブルの上の水入り1Lペットボトルを触ってみる。
常温だな。そのまま掴み、回収。これが数時間経って冷えてればバックパック内の時間経過と温度変化の影響が判る。冷えてなければ温度の変化はなくて、時間経過はわからない、だ。
って、俺そう言えば氷持ってるじゃん。
と今更ながらに気がついた。氷の入っているビニール袋を出してみる。
ビニール袋の中は大半が水になっていて拳大くらいの氷が浮かんでいる。
残ってるな。転移してから6時間は経ってるから、普通溶けて水だけになってるよな。時間経過と温度変化はないのか?
そう思いながら一応氷の再生成をしてみる。今持ってるのはテーブルに置く。
新しく出した氷は半分程度が水になっていて1Lほどの大きさの氷が残っていた。
あれ、残ってるな。
・・・これはあれか。不壊による不変って熱の影響も遮断してるとか?
後は、転移した際に氷の影響でバックパック内が冷えてたのが基準になって、その温度を維持しようとしてるとか?
まぁ、どっちにしてもいいか。時間経過も温度変化も在るっぽいな、これは。
実験終了!水も氷も、ぬるくなったミネラルウォーターも全部ゴミ箱へ。
そのまま女神様に回収してもらう。水とか重たいからね。余分なものは持たない。
時計を見ると16時40分ほど。夕方だな。外はまだ明るい。
準備ができたので、バックパックを背負って部屋を出る。
鍵を閉めてから。一階に降り中庭へ。トイレに行きたい。ビール飲んだからな。
中庭に出ると、対面の食堂側の壁にも扉がついている。厨房の勝手口かな?
その近くの、壁から1m程離れた所に井戸がある。
井戸には蓋がしてあって屋根とかはない。だから滑車とかもない。
縄をつけた桶が横に置かれていて、桶を投げ入れて汲み上げるみたいだ。大変だな。
厠はこちら側にあり、端の方に有る。臭いがあるから一番離れなんだろうな。
上を見上げると1m程の庇が出ていてその下を柱が支えている、雨の日には壁際を歩いて行けってことなんだろうな。
厠に行く。中を見ると、小の方は直径80cmほどの縦穴が開けられていて、内側を粘土で固めてあるみたいだ。深さはわからん。中身がそこそこ満たされてるからな。
小を済ませて大の方をみる。こちらは小の状態に、さらに木の板を2枚両側に渡してあるだけだった。臭いもキツイ。
うわぁ。現代人にはツライよ、これ。
ボットンですかぁ、とテンションだだ下がりで受付に向かう。
受付に行くと、カウンターの中に女将が居た。椅子に座って何かを書いてる様子である。
カウンターの前まで行き声をかける。
「すみません、ちょっとお聞きしたいんですが。」
「はいよ、何かあったかい?」
「冒険者ギルドに行きたいのですが、場所を教えて頂けますか?」
そう言うと、顔が曇る。なんでだ?
「お客さんこれから行くのかい?」
「ええ、何か問題があったりしますか?」
「そう言われると無いんだけどねぇ。ギルドなら大通りから出て中央に行けば判るよ。中央の大通りが交わる四ツ角に建物があるからね。馬と剣の看板が掛かってるのがそうだよ。」
嫌そうな顔して答えてくれる。何この反応。
門番の話では、新人がホーンラビットを狩りやすいからって冒険者がこの街に集まって、それ目当てに宿も多いんじゃなかったっけ?
気になるけど本人に聞きづらいなコレ。
「ありがとうございます。いってきます。」
「あいよ。」
返事はしてくれたけど、女将の機嫌はちょっと悪そうだった。なんでやねん。
宿からでて冒険者ギルドに向かう。
夕方になったからか、仕事帰りの人通りが増えているみたいだった。
革鎧を着て荷車を押す数人の冒険者らしきグループもチラホラいる。
荷車には狩ったホーンラビットを満載しているのだろう。茶色い山ができてる。
ああやって稼いでいるんだな。
換金の為か俺と同じようにギルドに向かう人と、換金をした帰りなのか楽しそうに喋りながら、宿にでも戻るのか、空荷の荷車を押してギルドとは逆方向をに向かう人と、2つの流れが有る。
屋台も昼よりも増え、仕事終わりの冒険者をターゲットに、肉を焼く屋台からの客寄せの呼び声が目立つ。
「肉串一本鉄貨一枚。焼き立てだよっ。」
そんな声が聞こえてたりする。他にはスープやパンを売っていたり。
鉄貨一枚でどれくらいのボリュームなのだろうか?
気にはなるけど、金欠の状態で迂闊に目があったりすると、声かけられても断るのに気まずいし、面倒なので見ないようにする。
金ができたら物価の市場調査したいなぁ。
材料費も燃料費もタダで出来るから、俺が屋台やるのもありやな。
でも屋台本体をどうするかなんだよなぁ。借りれたりするのかな。
そんなことを考えながら歩いていると、大通り同士が交わる交差点に程なくして着いた。
馬と剣の看板を探すとすぐにわかった。冒険者入っていってるしね。
その建物は周りの建物よりも一際大きく三階建だった。目立つわな。
ギルドの入り口の斜め上、一階と二階の間の高さの壁に、真横にポールが伸びていて、そこに木製のの看板がぶら下がっている。
跳ね馬と剣の浮かし彫りで、表面を焼いた後ブラシで荒らしたのか、黒と焦げ茶と茶色で模様の強弱がつけてある。
ギルドの入り口は両開きの扉が、外側に開け放たれて、邪魔にならないように扉を壁面にくっつけて、下に大きい石を置いて、閉まらないようにしていた。
この世界では自動扉がないから、出入りが多い所はこうやって対処するんだなぁ、と思いつつギルドに入る。
ギルドの中は、出入り口近くの横に待合室みたいな12畳程のスペースが有り、チラッと見ると壁沿いにL字に長椅子が並べられてて、テーブルが4脚と椅子が16脚ほど有るように見え、その殆どが埋まっていた。
何してるんだ、こいつらって思って、何気なく見てる風を装って見てみると『何だコイツは』って顔してジロジロと見てくる奴がやっぱり多いが、中にはニヤニヤしながらコッチを見ているやつも居る。
あー、コレ小汚いから弱いだろう、とか思われてるのかなぁ。
普段から何かと戦ってるような奴らとなんか喧嘩したくないなぁ、一対一ならまだしも、複数が来たら洒落にならんし。と、思いながら奥を見る。
建物は奥に向かって長い構造みたいだ。
今いる入口からすぐ左が待合室状態。
その奥に長いL字のカウンターが奥に向かって長く伸びてて、待合室の三倍くらいの面積が、ギルド員の仕事場になっているみたいだった。
入口の右には上へと続く階段がある。
カウンターで冒険者とやり取りをしている受付っぽい人は6人程いるが、その前には列が出来てて、どの列も並んでいる。ギルド員は全部で十数人がいそう。
これは一番混む時間帯に来てしまったかもしれないな。
地球と一緒で帰宅ラッシュがこの時間帯に起きているのだろうか。
しまったな、とは思ったが、ココで帰るのもな、とも思って一番並んでなさそうな列に俺も並ぶ。
前に並んでいる人はガッチリとした体格の色の浅黒い戦士風。
俺より身長が少し高く、隣の仲間っぽい人に話しかける時に見えた横顔では、相当なイケメンだった。
死ねばいいのにって軽く呪詛を込める。
盾を左手に持ち刃渡りの長そうな剣を左腰に佩き、右手にはサンドバックの短い版みたいな、円筒形をして口の部分を巾着にして、長い紐で縛ったバッグを肩に引っ掛けて持っている。
隣の仲間っぽい奴は、地球で言うとポンチョみたいな黒いのを全身を覆う形で着ていて、身長170cmくら――。
そんな風に前の奴らを見て、暇をつぶしていると、後ろからいきなり、ケツにバシンッと衝撃があり。
「おい兄ちゃん!」
と、おっさんの声がかかる。うわ、絡まれた、と思ったのは一瞬で。
その叩いた手でそのまま俺の尻タブをモミながら擦ってきた。
ファッ!?何だコレ気色悪っ!って思うと同時に鳥肌が立つ。
咄嗟に後ろを振り返って怒鳴ろうとしたが、後ろのおっさんの行動の方が早く、手が尻から離れたと思ったらもう一度――
――バシンっと衝撃があり、勢いに押され、前に並んでたイケメンとぶつかり、目が合う。
どうやらイケメンは、最初に尻を叩かれた衝撃音で何事かと振り返ったようだ。
っつかこの状況に俺はついて行けてない。
どういう絡まれ方だよって思いつつ、イケメンにぶつかった事を先に謝るべきか、おっさんの対処が先か、パニックになる。
そんな俺の心情なんておっさんには関係なく、また俺の尻をさすりながら――
「おい兄ちゃん、もう彼氏はいるんか?」
何だこのおっさん!?行ってることが理解不能すぎて驚愕する。
彼氏ってなんだよ。尻触るなよ。色々言いたいことは有るが言葉が出てこないまま、目の前のイケメンの顔を見ると、汚い物を見るような眼でこちらを見ている。
ナニソレ傷つくんですけど、俺被害者やでっ!っともう思考が取り留めもなくなっていると。
「おい、おっさん!ソイツ嫌がってるだろう、ヤメてやんな。」
と、俺の後ろを睨みながら言ってくる。
ああ、汚いものを見る目はおっさんに対してだったか、良かった。などと現実逃避をする。
「何だメスガキが!てめぇは関係ないだろうが!」
ん?メスガキ?イケメンに対する女みたいな顔しやがって的な侮辱かな?
たしかに中性的な顔して、年に似合わず声はハスキーで低音なちょっと少年っぽい声やけど。
「おっさんがソイツを押すから俺に当たっただろうが。関係ないこと有るか!」
と、強烈な殺気を放つ。ヤメて!俺を間に挟んでるウチに、視線で人を殺せそうな殺気を放つのはヤメて。
ちょっと横にズレて、この状況から逃げようかなって思っていると。
「兄ちゃん、アンタ嫌がってるのか?」
って聞いてくる。何言ってんだコイツはって思って振り返る。
ちなみにココまでずっと俺の尻を擦ったり揉んだりしていた。
なにこのおっさん、スキンヘッドで口から顎にかけて髭面で、すっごいゴツイ。
うわぁ、とは思いながら。
「はっきり言って迷惑です!」
と、きっぱりというとおっさんは。
「そうか・・・、兄ちゃん悪かったな。」
って言って待合室の方に去っていった。
エエェ、そこはあっさり引き下がるんかい!と、口ぽかーんとなってしまった。何だったんだよ。
「なぁ、アンタ。」
あぁ、イケメンに謝罪とお礼言わないと、と状況を思い出し。
「ぶつかってすみませんでした。ありがとうございました、助かりました。」
「ああ、それは良いんだけどな、アンタ初心者か?それか偶々ココに来たのか?」
うん、ココは素直に答えておこう。助けられたし。
「ええ、実はたまたまこの街の近くを通りかかったので町に寄ったんですが、お金が尽きてしまったのでホーンラビットで稼ごうかと思いまして。」
「そうか、それならこの町に暫くいるんだな。アンタ女が好きか?」
は?何で女の話になる。肉屋でもこんなこと有ったな。
「普通に好きな方だと思いますけど?それがなにか?」
そう答えると、イケメンは俺の肩を掴み
「アンタ、よく分かってないようだから忠告しておいてやるよ。
気をつけな、この街は――
――ホモが多い。」
・・・だからかぁ!女将のあの反応は!
ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
本日は後二回、町(ネタバレ込み)と魔獣の設定の話を更新する予定です。