第11話 焼きそばと仮眠
焼きそばが食いてぇなぁ(渇望)
室内には、ウスターソースが焼けた匂いが充満している。
コレ、隣人が居たら作ってるの絶対にバレるな。
目の前にはフライパンの中に、手前の3分の1ほどのスペースを半熟卵の目玉焼きが占領し、その向こうに茶黒く染められた山が有る。
脂を纏ってテラテラと光りソースで汚されたソバと豚バラに、フライパンのフチに押しやられたキャベツの薄緑、たっぷりかけられた青のりの深緑、上に振りかけられた青のりを邪魔くさそうに押しのけて踊る鰹節。
いいぞいいぞ。旨そうじゃないか。
人によっては紅しょうがも欲しい所だろう。俺は無いからって諦めれるけどな。
フライパンの柄を掴み箸で豚バラとキャベツを一掴み、それを一旦麺の上に乗っけて、今度は下の麺ごと、もう一度掬い上げる。
一口で食べるにはやや多い量だ。でも構わない。
フー、フーと、箸を上下に上げ下ろしながら息を吹きかけ、フライパンの上に顔を持っていく。
すると、フライパンの中にある焼きそばの蒸気と一緒に、匂いも顔に襲いかってくる。
もう堪らん!と、大口を開け豪快に、ズゾゾゾゾっと一気に啜り、口の中に押し込む。
まずはソースの香りが口中に広がり、胡椒から来るスパイシーさと脂の甘味、それを引き立てる塩気、控えめながら自己主張するソースの複雑な旨味が舌に乗り、更に噛み締めていくと、クタっとするまでよく炒められて引き出されたキャベツの甘さ、豚バラの食感に噛むと滲み出す豚の脂身の旨味が加算されていく。青海苔の香りがまたいい。
それに噛むほどに出てくる麺の甘さが全てを受け止めてくれる。
満足し、飲み込む。次だ。
また豚バラ、キャベツ、麺をすくい上げ、今度は手前の目玉焼きの黄身の上に落とす。
その上から箸を突き立て、グジグジっと黄身をかき回してやる。
比較的サラリとした表面の黄身と、オレンジ色に固まった黄身の部分が混ざり、麺に絡みつく。
白身をひとかけら切り離し、麺の上に乗っけると豚バラ・キャベツも置いていかないように、しっかりと捕まえてやる。
仲間はずれにしたら可哀想だからな。
上に持ち上げると一気に啜り上げる。
今度のは、熱が入ってねっとりとした食感と卵黄のコクが、最初に舌に感じる。そこから噛んでいくとソースや胡椒が顔を出してきて、それぞれが馴染み、普通に焼きそばを食べるよりも、黄身でマイルドになった味わいが広がっていく。
今回は、固く焼かれた白身の食感と風味がアクセントになっている。
白身の鉄板に触れていた面が、きつね色にパリッと焼かれて、そこもまた違う食感になってる。
そこからは夢中で食べ進めていった。卵を絡めたり、絡めなかったり、青のりを足したり。
やがて、麺ががなくなり箸が止まる。
フライパンにはキャベツと豚バラ肉が二握り位、そこに数本の麺が混ざっている程度だ。散らばったそれらを箸でフライパンの中央に寄せ、一纏めにする
焼きそば食べてると、バランスよく食べてるつもりでも、どうしても俺はこうやって具が結構残っちまうんだよなぁ。
でもまぁ、これはコレで。
キャベツと豚バラをグヮシっと箸で掴み、口に入れる。
噛むと豚バラの食感と、キャベツの甘味が強く広がる。麺がない分、具の旨さがダイレクトだ。キャベツの芯の方の青臭さを感じる。
麺を含まずに具だけを食べるってのも、ちょっと贅沢してる感じがするんだよね。俺は。
そう思いつつ全てを食べきる。
腹一杯だ。っていうか食いすぎだった。
でも、限界まで食べる。コレが単純だけど一番幸せなんだよなぁ。
後片付けは最悪は再生成でいいかと、フライパンや飛び散った油が付いてるエマージェンシーシート等はそのままバックパックへ。調味料なども片付け、箸などのゴミはバックパック内のゴミ箱へ。
そうやって全てを片付け、部屋にはバックパックと、テーブルの上に乗ったランプと水の入ったペットボトルだけとなった。
時計を見る1時20分ほどだ。
満腹になったのと、半日歩き回ったのと、酒が入った事で眠気が有る。
しかし、今から寝ると夜中に目が醒めてしまって、何もやる事がないなんてのが目に見えてるし。
とりあえず半日歩き回って汗を掻いてるし、シャワーを浴びたいな。
って事でなんとかしよう。まぁ、シャワーは無理なんだけど。
まずは、汗で汚れた衣服からだ。これは腕時計以外の全てを再生成する。
ついでにタオルもだな。肉汁着いてるし。
バックパックと水入りペットボトルをベッドの脇に置いてベッドに腰掛け、足を軽く浮かせてから女神に祈る。
すると衣服が光に成って溶け、数秒で素っ裸になる。
今度は足元に新しく生成したタオルを布いて、その上に立ち上がる。
もう一枚タオルを出して、水をつけて軽く湿らせて、絞っても垂れない程度の濡れタオルを作ったら全身を拭いた。
顔から順に足元へ。頭も洗いたいけど、無理だな。
さっぱりしたけど、やっぱりシャワーが良いな。
再生成したシャツとスパッツを着て、靴を裸足のまま履く。
足首まで有るトレッキングシューズは部屋履きには向かない。
サンダルとかスリッパが欲しいな、これは。
さて、どうしようか。正直このまま寝てればいいや~って安穏としていられるほど、余裕が無いんだよな。
何せ所持金鉄貨6枚だし。
とりあえず金を稼がないといけないとして、ココまでで一番稼げてるのはホーンラビットなんだよなぁ。
税金取られたのが痛かったけど。
冒険者になったら割引されるのかな?
っていうか、毎回取られたら馬鹿らしくて誰も狩りに行かなくなりそうだから、取られても小額じゃないとおかしいよな。
身分証も欲しいし、ココは冒険者に成っておくしか無いかな。
というか、それ以外に俺には目立たずに金を稼ぐ手段がない。
ついでにギルドの人に話を聞いてみよう。入町税とかがどうなるか。
ペットボトルをテーブルに戻しタオルはバックパックのゴミ箱へそして寝袋を出す。封筒型なので開くと大きなサイズに出来るが、そのまま二つ折りな状態で敷く。
その上に靴を脱いで寝転がる。
少し寝るかなぁ。このまま行ったら酒臭いし、受付の人嫌がるだろうし。疲れて変な行動取るかもしれないし。仮眠を取るのがベストだよなぁ。
そんな風に自分に対して言い訳をしながらスマホを取り出す。
いや、分かっているんだよ。ただ眠たくて寝たいだけだって。
でもさ、こういう自分を正当化する儀式は大切なんだよ。
と、自分に対して言い訳をしながらスマホの目覚ましをセットする。
時間は三時間後。なんか脳科学でレム睡眠が~ノンレム睡眠が~とかで、90分で周期があるから、その倍数で寝るのが目覚めが良いってやつだね。
俺は元々眠りが浅くて三時間ぐらいすると一旦起きるから、これで。
酒も抜けてちょうどいいだろう。念のために目覚ましも掛けておく。
バイブ機能と、音は下に響かないように煩さ過ぎない程度、静かな曲にしておく。
仮眠を取ったらギルドに行こう。ついでに町を見る余裕があったら何か金になりそうな情報を探そう。
しかし俺異世界まで来て何やってるんだろうなぁ。宿屋で自炊とか。
せっかく現代日本じゃ味わえない環境なんだから、どうせなら雄大な自然の中で、炭火で焼肉やりたいなぁ。
しかし冒険者とか、やりたくないなぁ。せっかく食料はいくらでも手に入って、酒も飲み放題なんだし、働かずに食っちゃ寝してぇなぁ。
何だよ冒険者って。命の危険冒してまで戦いたくねぇよ。冒険なんかしたくねぇよ。
むしろ引きこもりたい。
偶に外に出てBBQする程度で良いんだ俺は――。
そんなふうに眼を瞑って、ダメ人間の思考をしながら心の中で愚痴っていたらいつしか寝てしまった。
ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
バックパックの機能の拡張は最初から予定してました。
ちなみに神に祈らないと物が生成されないのも、神力を少しでも回収させる為です。塵も積もれば的な精神の女神です。