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第9話 悪者退治と、食うには困らないがシビアな現実

肉が食いてぇなぁ(魂の叫び)

「グハハハ!この悪いカルビめ!この儂が喰ろうて、始末してくれん!」


 言っててちょっと恥ずかしい。テンションは上がっております。


 バックパックから、カルビの包みをとりだす。


 この肉はちょっと良い肉だ。

 カルビとロースだけは肉屋で買った。

 

 今思えばこうして無限に補給できるんだ。

 何故全て良い肉を買わなかったと悔しい思いをするばかりだ。


 国産黒毛和牛グラム2000円のステーキとか買っておけば、今頃無限に楽しめていたのに、もったいない。すき焼き用とかそういうのも買っておけば・・・。

 もっと俺も悪乗りして色々買っておけばよかった。


 人の欲望は果てしないな。とりあえず今は目の前の肉を喰おう。

 このカルビは国産黒毛和牛でさしが入っているが、赤身がしっかりとしていて、脂がゴテゴテとはしていないのを頼んで買ってきた。

 程よい霜降りである。グラム800円だった。


 フライパンの脂をティッシュで拭って、空いてる紙皿に入れる。

 多少オーストラリア産の香りが残っても、気にしないでおこう。


 カルビを一枚取り、フライパンに乗せる。ジャーッ、っと肉が焼ける音がする。

 この音がたまらない。

 俺は今肉を食っている。と、改めて認識させる音だ。

 5秒程でひっくり返す。裏面も5秒ほど。

 で、横面に赤い所があれば立ててちょんちょんと鉄板に当てて表面を焼いていく。

 赤い部分が無くなればわさび醤油の皿に入れ、わさびを箸の先でちょびっと掬い取り、肉に付け余分な醤油を皿の縁に当てて落とし、口に入れる。


 噛むとレアな肉特有の、むちっとした歯応えとともに、黒毛和牛の脂の香り、人肌程度に暖められた脂の甘みと、ほとんど火を通さないことで肉の内側に残ってる赤身の旨味が噛むほどに出てくる。

 ワサビの自己主張も数度噛んだ後にツンと広がり、その後はおとなしくなるのが、アクセントとしていい。


 俺はレアが好きだ。肉の焼き加減は、人それぞれ好みが有るだろう。

 だが高い肉ほど出来る限り焼かないで食いたい。

 肉の旨さを鉄板に捨てるなんてもったいない。

 もちろん脂が溶ける人肌程度には熱を通したいが。



 次に焼いたのには味塩こしょうを付けて食べる。


 味塩こしょうには、うま味を感じさせる様に味を足されてるから、本当なら塩と胡椒だけで食べる方が、高い肉には良いのかもしれないが。


 そんなこまけぇこたぁ良いんだよ!美味ければなんでも良いんだよ!

 誰にも邪魔されず、楽しくウヘヘヘヘって肉をつつくのが良いんだ。

 やたら肉を載せたがったり、世話を焼きたがる奴もいない。コレが一人焼肉の醍醐味だ。

 自分の好みの焼き加減で、自分のペースで量を乘せ、自分の楽しみたい味付けで食す。

 この空間には俺しかいない、俺が世界だ!それでいい。ソレがいい!


 俺は一枚づつ丁寧に食べたい。のんびり食べるからすぐ腹膨れちゃうけど。


 そんな事を自問自答しながら肉を噛みしめる。


 あぁ、塩コショウは黒毛和牛の良さがよく分かるな。

 外国産牛肉と国産和牛の最大の違いは香りだろう。

 外国産の肉の香りは下品なんだ。乳臭い。国産和牛の場合は乳臭さがない。食欲を刺激する良い匂いだ。

 胡椒の香りは肉の匂いを邪魔せずに、更に美味しく感じさせようと補助してくれている。


 そんな風に肉の旨さを堪能しながら一枚一枚丁寧に焼き、噛み締めていく。

 食べながら今日の出来事を振り返る。




 異世界に飛ばされた。

 女神様に助けてもらった形だが、向こうに帰してくれた方が良かったなぁ。

 たぶん、盛大に勘違いされてるから、もう戻れないんだろうけど。


 健太と淳史君は大丈夫だろうか?

 大丈夫じゃねぇな。今頃大変なことになってるわ。

 

 人が一人消えてるんだ。しかも山に入って。

 淳史君が動画録ってたから、それを見せながらうまく説明してくれたとしても、それでも捜索隊が出されるだろう。


 今頃、二人と実家は大変だろうな。


 登山に入った周辺の消防団とかにも迷惑かけるしな。

 しかも、買い集めた物を全部俺が持ってきてしまってるし。

 まぁ、向こうにあったとしても捜索や事情聴取で、食べていられる雰囲気も余裕もないだろうが。


 悪いことしたなぁ。と、罪悪感に苛まれる。が。


 よくよく考えたら、俺悪く無いじゃん。巻き込まれただけだし。

 発案者健太だし。自業自得やな。気にしないでおこう。

 もう戻れないんだし。



 と、あっさり切り替える。



 それよりも生活だなぁ。正直厳しい。所持金鉄貨6枚ぽっちだし。

 素泊まり一泊銅貨5枚。食事が二食で銅貨一枚なら、1食大体鉄貨5枚って所なんだろう?

 俺の所持金鉄貨6枚って少なすぎない?1食食べたら終わるよ?

 まぁ、俺は飯を食う事だけは困らないんだが、飯を食うには宿を取らないと、調理する場所がないんだよな。

 

 日収銅貨5枚さえなんとか出来たら生きていける。でもそれが厳しい。



 なんとか手立て考えないとな。


 とりあえず、肉を売るってのはダメだな。説明が難しい。

 獲ってきましたって言っても他の部位はどうした?とか、何で精肉されてるんだ?とか、ツッコミどころが満載なんだよな。


 無理に変な言い訳してもそこからボロが出たりするし、コッチの世界の常識がなくて、何が問題か判断つかないのも困ってる要因なんだよね。



 一旦箸を止め、バックパックから、女神様がくれた手紙を取り出し、消耗品リストを見る。



 売れそうなものは幾らでも在るんだけど、ダメなんだよなぁ。


 紙とか無難そうだけどダメだ。

 布団が毛皮だぜ?工業技術が低そうだ。

 高品質過ぎて売るのが怖い。

 ボールペンとか、結束線とか、良さそうだけどダメだな。



 胡椒とか、この世界だとどういう扱いになるんだろうか?

 胡椒の辛味で、コレは毒であるとか思われてないだろうか?

 そういう情報収集からなんだよな。胡椒は。

 あと、粒胡椒じゃなくて粗挽きに成っちまってんだよな、持ってるやつ。

 保存とかそういう問題が出たりしないだろうか?不安要素がちょっと有るんだよなぁ。



 炭とか良さそうだけど、この周辺では薪が一般的です。とかありそうなんだよな。

 コレなに?ってなりそう。これは女将が薪代って言ってたからなんだけどね。

 う~んでも、鍵とかを見ると、そこそこ鉄とかの加工技術はありそうだから、炭は鍛冶屋で使われてたりとかするのかな?

 ただ、それ以上に燃料だからさ、まとまった量を売らないといけないじゃん。

 町に入る時には持って無くて、町に入ってから取り出してたら、あいつどこから持ってきたってなりそうだし。

 そこんトコを偽装するために、街から出て時間つぶして、適当に買った袋に詰めて・・・。

 嵩張る上に手間が酷い。売れはするだろうと思うんだけど、儲けようと思うと問題が大きそうなんだよな。

 例えば自作したって言い訳したなら、どこで作ったとか、どうやって作ったとか、疑問を持たれる要素が多い。



 何をするにも、目立たないようにするってホントに厳しい。



 町や村を回りながら、いかにも交易してます。って顔して砂糖と塩を売るのがベストだと思うんだけど、魔獣なんている世界だからなぁ。

 ホーンラビットは弱かったけど、どうせ他にも色々居るんでしょ?ボアとか鳥の魔獣とかは確定してるし。

 ホーンラビットだって、一対一で対面したから倒せたけど、囲まれたら勝てる気しないしな。


 俺が交易をしようと思ったら、護衛を雇わないといけない。

 でも四六時中一緒にいるとなったら、どうしても俺の秘密を話さないといけなくなるんだよねぇ。

 塩と砂糖を取り出すためだけに使うとか?うまく誤魔化せるかなぁ?

 

 この世界の料理が口に合えば良いんだけど、無理だと思うんだよなぁ。

 米、醤油これがないと厳しい。3日で音を上げる自信がある。

 ココに来るまで田んぼなんか無かったし、陸稲っぽいものも見かけなかったんだよなぁ。

 葉野菜とか、緑黄色野菜っぽいのとか、大豆っぽいのとかしかなかった。


 信用できる護衛じゃないと怖い。秘密がバレても、危害を加えてこないような奴じゃないと。

 でも信用できるってどうやって判断するの?


 大体が護衛を雇う資金がないからなぁ。先立つものが必要なんだよね。

 

 お金がないから身動きが取れない。稼げないからお金が無い。

 金儲けになりそうなタネはあるけど、情報がないから判断がつかない。

 常識が無いから情報収集に不安があり、二の足を踏む。そして情報が集まらない。


 堂々巡りだな。

 連想していくとドンドン八方塞がりに成っていくな、やめよう。



 結局問題は武力なんだよな。人同士が対話するんだ。最終的には腕力が物を言う。

 交渉が縺れて力で解決、ってのを相手が選んだ時に、俺は自分の身を守れない。

 これが前提だから何も出来ない。

 だからこその護衛で・・・って、そっち方面に行くとまた堂々巡りだな。



 はぁ、ヤメだヤメ保留だ保留!ぜ~んぶ保留。物を売るのも、情報を集めるのも。全部保留だ。

 どうしたら良いか分かんねぇよ。


 コツコツやるしか無いってことくらいしかわからん。

 金に本格的に困ったら、塩を少量か砂糖を少量売って様子を伺う。

 コレくらいにしか出来る気がしない。


 怖いんだよ、異世界。未知過ぎて。思ったのと違う反応も返ってくるし。

 取っ掛かりが欲しかったけど、肉はダメだった。




 じゃぁどうするかだな、肉はもういい。次の手を考える。



 手紙をバックパックに仕舞い、コンロの火を一旦止めて、宣言する。


「焼きそばを作って喰おう!」


 もう肉には満足した、〆の時間だ!

 拙作を読んで頂きありがとうございます。

 次回更新はちょっと間をおくかもしれません。

 展開は決めてるのですが。脳内で考えてた展開と主人公の時間軸とズレが生じて、どう自然な感じに持っていくかが悩みそうな感じに。

 脳内に有る魔獣や登場人物の設定を書いておきたいのもありますし。適当にその場の思い付きで練ってるから忘れてしまいそうなんですよね・・・。

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