第7話 飯より宿
10/08 女将が主人公に宿帳に記載する為に名前を聞くシーンを追加。
レナちゃんが曲がり角を曲がって、姿が見えなくなる。
さて、いよいよ宿ですなぁ。もう昼だし腰を落ち着けたいんだよなぁ。
もうココ2,3時間くらいは歩きっぱなし立ちっぱなしだ。
休憩も水を飲んでため息一つ付く程度だ。
特に今日は早朝から歩き通しである。緊張の連続で精神的疲れもある。
手持ちのお金でなんとかなるといいなぁ。
宿の玄関を見ると扉は開いてる。客が出入りしやすいように夜中以外は開けっ放しとかなのだろうか。
俺は飴をガリガリと噛み砕き、宿屋に入って行く。
玄関を潜ると、すぐに、現代のビジネスホテルの受け付けみたいな、木製のカウンターがある。
使い込まれているのか黒々として歴史を感じさせる味わいがある。
ロビーは六畳くらいの狭さだ。
カウンターの向こうには壁に備え付けた五段ぐらいの棚があり、10cm四方くらいで仕切られてて上に開くタイプの蓋が着いており、番号らしきものが蓋に書かれている。
あれで各部屋の何かしらを調整するシステムなのかな~、っと思いながら周囲を観察する。
カウンターに誰もいないね。こういうのって対処に困るんだよなぁ。
張り紙でもしてあって、何処其処に声をかけてください。とか書いて有ると良いんだけど、無いみたいだしなぁ。
カウンターの上に呼び鈴とか無いか見てみるがない。
指で中央の出っ張りを叩くとチン!チーン!と鳴るやつを少し期待してたんだが。
棚の横の方、カウンターの一番端の方に扉があって閉まっているが、奥が事務所とかなのだろうか。
最終手段は扉に向かって大声を出すしかないなぁ。と思いつつ観察を続ける。
宿に入ってカウンター以外に気になったのが匂い。
肉の焼けるにおいがしてやがるんだ。腹、減ったなぁ。
やっぱり昼時だからかな、右側から少しざわざわとした音が聞こえる。
右の方を見ると少し先、距離の短い廊下が切れてる辺りから、向こう側が食堂になってるのか、テーブルが何脚か見えてる。
ココからじゃ奥まで見通せないが、飯食ってる奴が居るんだろうな。
ロビーから左を見ると少し行った所に、コッチは角に階段があって、そこから廊下が右に曲がり奥が見通せない。
こちら側には部屋が並んでるんだろうな。
キョロキョロしながら様子を窺っていたが誰も来る気配がない。
仕方ないね。カウンターに近づき、奥の扉に向かって呼びかける。
「すみませーん。」
少し待ってみるが無反応だ。今度は息を軽く吸い込み。
「すみませーん!」
と、声を張り上げて呼びかける。俺、声がデカイ方だから結構奥まで通ったと思ったんだが、ソレでも待っても誰も出てこない。
コレでギャグ漫画とかだと『てめぇ何しやがった!正直に言え!』って、おっさんが出てきて怒鳴られ『なんですかいきなり、何もしていませんよ』って返すと『嘘つけ!お前今謝っていただろう!?』って言う小ネタが有ったりするんだけど。
などと、どうでも良い事を考えながら、食堂の方に向かう。
食堂には4~6人位が座れるテーブルが6脚と左手奥に12席位のカウンターが在った。席は半分ほどが埋まっており。食堂内を歩き回ってる従業員っぽい人は居なかった。
カウンターの特に周囲に人が居ないトコに近づき。
「すみませーん。」
と声をかける。奥で何か作ってたおっさんとおばちゃんが振り向き。
「あいよ、お客さんちょっと待ってて。」
とおっさんの方が返事をし、おばちゃんの方を向くと、おばちゃんがコッチに向かってやって来る。
イヤ、よく見たらおっちゃんもおばちゃんも30代くらいでそこまでの歳じゃないな。
おっちゃんは骨太でガッチリしててよく見えないが、おばちゃんも骨太でふくよかだからおばちゃんっぽく見えてるだけだな。
アレだ、魔女で運送業やるアニメのパン屋の女将みたいな?
うっかりおばちゃんって言ったらシバかれそうだから、今の内に心の声を女将に修正しておこう。
おば・・・女将は笑顔で聞いてくる。
「お客さん、注文は何にしますか?」
「いえ、食事の方じゃなくて。今日泊まりたいですが、料金を聞きたくて。」
「あぁ。ごめんなさいね。すぐに行きますから、受け付けで待っていて貰えますか?」
「はい、分かりました。」
返事を聞くと奥に引っ込む。俺もロビーのカウンターに向かう。
少し待つと、カウンターの中にある扉がガチャっと音を立てて開き、女将がやってきて声を掛けてくる。
「お待たせしま・・した。お客さん、森人ですか?」
そう言って『何だコイツ』的な表情で見てくる。もうエエっちゃうねん。
でもいい加減、俺も慣れてきた。
「あはは、この町で話した皆さんにそう言われちゃうんですが、この服は草の汁や染料で染めてるだけで、私は森人ではないんですよ。
この服を着ていると魔獣の目を、草原や森では誤魔化せるんですよ。ほら、よく見てください。」
半笑いで愛想よく言ってる、つもり。
実際どう受け取られてるかは知らん!
そう言ってゆっくりと腕を女将に近づける。葉っぱや草の服とか、泥を付けてるとか、変な誤解があると宿泊施設では出禁を御見舞されそうだからな。
「あら!ホント。これ、葉っぱじゃなくてガラだわ。」
しげしげと見つつ、驚いた表情をする。
「よかったら触って確かめてみてください。」
そう言うと、がっつり触り、引っ張ってみたり、指、というか、爪の先で黒や茶色の部分を擦ってみたりしている。遠慮がねぇな。
「ホントだわ。擦っても落ちないし、手にもつかないわ。それに布地も良い品質みたいね、生地の目が細かくて均一だわ・・・。」
いや、変な方向に話題が飛び火しそうだわ。慌てて腕を引っ込めて。
「ところで、肉屋の親父さんにココを紹介してもらったのですが、料金の方をお聞きしてもいいでしょうか?」
「肉屋の親父さんってこんなおっきい?」
そう言うと両手を軽く広げて太さを表現する。いや女将さんも太ましいんですけどね。
「ええ、可愛らしい娘さんの居る親父さんですよ。」
「あの人ウチにお肉卸してくれてんのよ!そうかそうかぁ。親父さんの紹介ねぇ。
ウチはねぇ、大部屋で二段ベットが三組の6人部屋が一泊銅貨2枚、個室が銅貨五枚で食事が朝晩2食付けると追加で銅貨1枚。
もちろん食事付きにしなくても食堂で注文してくれれば、その分の料金を払ってくれたら食事はできるわ。」
うは、ギリギリだったわ。
何この金欠生活。安宿でコレですか。ナニコレ、俺の異世界生活ハードモードじゃね?いや、泊まらないって手はないから、とりあえず泊まるしか無いんだが。
「では個室でとりあえず一泊、食事なしでお願いします。」
「あいよ。じゃぁ銅貨5枚ね。宿帳に名前を付けないといけないから、お客さんの名前を教えてもらってもいいかい?」
「ヒロ、でお願いします。」
「ヒロさんね。はいどうも。」
そう返事をして宿帳に名前を書いてから女将は後ろを向き、棚の蓋を開け鍵らしきものを取り出そうとする。
俺は全部の硬貨をポケットから出しつつ、全てカウンターの上に置きながら。
「すみません部屋なんですが、隣が空き部屋とかに出来ませんか?
私イビキや寝言が大きいらしくて、隣室の方とトラブルになりたくないんですよ。」
そう言って俺は鉄貨だけをヒョイヒョイと掌の中に収めていく。
すると、女将は訝しげな表情で振り返り。
「お客さん、肉屋の親父さんの紹介でウチに来たんだよね?」
と、聞いてくる。ん?そんなに不自然だったか?
今の会話に肉屋のオヤジが何の関係がある?と思ったがわからないので。
「ええ、そうですよ。部屋の要望を出すのは拙かったですか?」
「いや、まぁ、別にちゃんと料金さえ払ってくれたらウチも客商売だから良いんだけどね。
それじゃァお客さん、うちは『コ』の字型をした宿泊施設で、二階はそこの階段の近くの部屋から順にお客さんに入ってってもらってるんだけどね。
ほら、やっぱ無駄に歩くよりも近いほうが良いでしょ?
でさ、一番遠いのが食堂の厨房の上にある部屋なんだけどね。
うちもよっぽどそこまでお客さんが埋まらないから、周辺数部屋は空いたままだし。下は厨房だからお客さんのイビキが煩かろうが、寝言が大きかろうが、大声を出そうが気にしなくてもいい。
お客さんが歩くのが面倒じゃなかったら、良かったらソコにしてあげるけど。」
おぉ、理想的だ。コレで肉を焼いても苦情が来ないし、匂いも厨房からの匂いで誤魔化せるかも。
2つ返事で答える。
「はい、ソコでお願います。」
女将はもう一度棚の方を振り返り、蓋を開け、鍵を取り出し。
「ランプの獣油は一日一回小瓶一本分は無料だけど、追加は小瓶で鉄貨2枚だから。
井戸と厠は中庭に、ソコを曲がって奥に行くと右手に扉があるから、そこから行って。
桶はココに来て言ってくれれば貸し出すけど、お湯は鉄貨3枚だから。
余りベッドは汚さないでおくれよ。」
そう言って鍵を渡してくれる。何故ベットを汚す話になる。俺が何をすると思っているんだ。
いや、しねぇよ?異世界きた初日に。オカズも向こうの世界に置き去りにされて全ロストしてるわ。
妙な居心地の悪さを感じつつ。
「はぁ。」
と、生返事を返して鍵を受け取る
おばちゃんは金を数えてからそのまま奥の扉に消えていった。
なーんかなぁ。変な誤解されてそうな気もするなぁ。
釈然としない思いを感じつつ、階段の方に向かう。
そんなことより飯だ飯!
ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
本日は、気分が乗って筆が進めば、もう一話あげたいなぁと思っています。
修正箇所
旧
「あいよ。じゃぁ銅貨5枚ね。」
そう返事をして女将は後ろを向き、棚の蓋を開け鍵らしきものを取り出そうとする。
俺は全部の硬貨をポケットから出しつつ、全てカウンターの上に置きながら。
新
「あいよ。じゃぁ銅貨5枚ね。宿帳に名前を付けないといけないから、お客さんの名前を教えてもらってもいいかい?」
「ヒロ、でお願いします。」
「ヒロさんね。はいどうも。」
そう返事をして宿帳に名前を書いてから女将は後ろを向き、棚の蓋を開け鍵らしきものを取り出そうとする。
俺は全部の硬貨をポケットから出しつつ、全てカウンターの上に置きながら。