第6話 日本の肉の価値は?
本日投稿二回目。
10/04 表現を微修正。筆者から見てわかりづらい所に言葉を追加
おっさんを見送って肉屋を振り返ると、肉屋のオヤジは店に戻ろうとしてた。
慌ててオヤジを引き留める。
「すみません、まだ売りたいものがあるんです!」
オヤジはまた、訝しげに振り返り俺の方を見て、
「なんだ、まだホーンラビットがあるのか?」
と言う。小分けして売る理由がわからないから、そういう反応になるわな。
「いえ、違う肉があるんです。見てもらえますか?」
「そうか、じゃぁまたココに置いてくれ」
俺はバックパックから、タオルに包んだ鶏もも肉三枚と豚ヒレ一本を取り出し、タオルごとテーブルに並べ、タオルを開き見えやすくする。
「コレなんですが。どうですか?」
オヤジはしげしげと見て、ひっくり返し、指先で軽く突いてから言う。
「こんな肉は見たことがねぇな。
まぁ、特にこの町はホーンラビットの肉ばかりしか見ないんだが。
コイツは鳥の魔獣の腿の部分だよな?普通もっと赤くて血が浮いてるもんだが、処理が良いのか?身が見たことのある鳥の肉に比べて白く見えるな。
普通ももの肉は筋肉がもっと固くなってたりするんだが、コレは柔らかいな。
骨もきれいに取られているし、三枚なんて中途半端だ。他の部分は食っちまったのかい?それとも足が三本ある鳥なのかい?」
興味深そうにそう聞いてくる。もも肉を三枚で見せると足が三本あるのかって返される世界なのか。不思議生物いっぱいいそうだな。
「いえ、朝に森で二羽仕留めたんですが、町までの距離がわからなかったので一番良い所を残して他は食べました。腿が一番うまかったので持ってきたんですよ。」
あいからわずペラペラと適当な事が言える。
「森をねぇ。それでわざわざ道から外れて、草原にも入ってホーンラビット獲ってきたのかい?格好も変だが、やってることも・・・。
まぁそれはいいんだが、コッチの肉はなんだい?これは鳥じゃないように見えるんだが。」
うん、なんだか誤解があるみたいだがほっとこう。今度は豚ヒレだな。
「そっちの一塊は、こんな鼻をしたヤツがいて、襲ってきたので仕留めたんですよ。かなり大柄で肉が有ったんですが鳥を獲る前でしてね。そいつも地元で一番良いとされる部分だけ残して、あとは食べれるだけ食べて、残りは置いてきました。」
と、人差し指で鼻を上に押して、豚鼻をしながら言ってみる。
「うーん、ボア系の魔獣か?コイツも見たことがないし色が鮮やかでやたらと柔らかい。この白いのは・・・筋じゃなくて膜の取り残しか、コッチは脂身。筋のない良い肉に見える。」
豚ヒレを指でグッ、グッと押してみたり膜を引っ張ったりしながら言う。
ボア、猪の魔獣か?っていうか、魔獣と野生動物の違いってなんだ?
「この魔獣の色とか毛並みとかは?」
「皮はピンクがかってて毛は白かったですね。」
「聞いたことねぇな。うーん。」
そう言って腕を組んで考え込む。
ってことはこの地域では、鶏も豚も珍しいってこったな。
しばらく悩んでからオヤジが口を開く
「珍しい肉だとは思う。貴重な肉だと言われればそうなのかもしれん。俺も柔らかくて旨そうには見えてる。
でも、すまねぇな。俺にはこの肉の味が食ってみないとわからん。
高いカネ出して買ったが売れないとか、客に売りつけて旨くなかったとか言われるのも、俺も商売だから困るからな。
ただ、俺が試しに食うっていうのでアンタが思ってるより安くていいなら買ってもいい。
それで旨かったら、今後持ち込んでくれた時はそれに釣り合う値段で買う。それでいいならどうだい?」
そう、悩み悩み告げてきた。
うん、まぁ道理としては通ってると思うな。俺だっていきなり知らないものに値段つけれないしな。
焼いてこの場で試食させれば良いのかもしれないが、目立ちたくないし、さっさと交渉を終わらせたいんだよな。
それにオヤジが素手で突っついた肉を、もう持ち帰る気にはならん。
「ええ、値段次第ですがいいですよ。お幾らになりそうですか?」
「鳥のももが一枚鉄貨6枚、三枚で銅貨1枚と鉄貨8枚。このボアっぽい塊を銅貨一枚でどうだい?コレでも肉の量に対してかなり高く付けたんだがな。」
合計銅貨2枚と鉄貨8枚か。ホーンラビットは8kg前後だった。骨、角、皮を外して精肉にしたら3kgくらいは取れるとは思う。でもって皮と角が別で売れるのを含めても一匹で銅貨2枚だ。たしかに量に比べたらかなり高く付けてくれてるな。
まぁ、見たことない肉を食いたい、という好奇心に負けてるだけにも見えるんだが。
「はい、ソレで結構ですよ。買い取りをお願いします。包んでいた布だけは返してくださいね。」
俺がそう言うと、嬉しそうな顔で素早く店に戻り、大きいサイズの木で作られたトレイを持ってやってくる。
「ほら、確かめな。」
二回目なので今回は慌てず硬貨を受け取れた。手の中を確かめるとちゃんと、銅貨2枚鉄貨8枚があった。
確かめて、ポケットに硬貨を突っ込んでるとオヤジはすでに、木のトレイに肉を移し終わっていた。
タオルをバックパックに仕舞いながら言う。
「確かにありました、ありがとうございました。すみませんがこの町で一番安い宿屋をご存知でしたら、教えてもらえませんか?」
「安宿か・・・。安いと有名なとこはあるんだが、うーん。」
そう言って眉にシワを寄せる。なんだ?悪名高いのか?ボロいのか?
「一番安いトコはオススメしないな。アンタは女が好きか?」
ん?何だ突然。娼婦買えって事か?やだよ病気怖いし。
初体験は彼女とが良いぞ。彼女が出来る未来が思い浮かばないが。
それとも壁が薄くて声が筒抜けになるとか?聞かれるのも、聞こえてくるのも何か嫌だな。
「普通に好きですけど、なにかあるんです?」
「いや、それなら一番安いトコはやめとけ、比較的安くて良心的なのを教えてやる。
レナ!この兄ちゃんを【草原と銀月亭】に一緒についてって案内してやれ。」
「うん、おとーさん。」
少女の名前はレナというらしい。
「この子が案内してくれるから付いてけ。他に何かあったりするか?」
「いえ、特にありません、わざわざ有り難うございます。」
「おう、また珍しい肉とか手に入れたら持ってきてくれや。
次来る時には今回の魔獣も、どのくらい旨いのかわかってるしな。
他の部位も見てみたいから、今度捕まえた時には持ってきてくれ!じゃぁな。」
そう言って娘をおいて店に引っ込んでいく。娘連れてって店番は良いのだろうか?すぐ近くだから問題がないとか、客が中に呼びに来ればいいとかそういう感じか?ま、どうでもいいか。
他の部位もってこいって言われても、無いからどうしようもないよな。オヤジに気に入られたっぽいけど、もう持ち込めなくなったじゃないか。要らんこと言いおって・・・。
ただでさえ金策がしにくいのに、さらにハードルが上がった。そう思いつつ肉屋の娘を見る。
「じゃぁ、案内してもらってもいいかい?」
と、精一杯優しく尋ねると
「うん!」
と、元気よく返事をして駆け出し、10m程先でこっちを振り返る。
『こないの?』って感じだ、可愛いのう。小学校二年生くらいか。
そうだよなーちっちゃい子ってこんなんだよなーってしみじみ思う。
少し早足で追いつくと前を先導して歩き出す。
ちょっと歩くと大通りを外れ路地がぐっと狭くなる。二車線、6mくらいか?
付いて歩きながら道を必死に覚える。まぁ、どうせ200m四方程度の町なんだし、迷った所で大したことないがな。宿の名前も覚えてるし。
なんだっけ、草原と月・・・アレ、弦月だっけ?なんか違うな。ま、レナちゃんが連れてってくれるから良いか。
そんな風に集中しているのか、いないのかポケっとして歩いているとすぐに付いた。3分程度?子供の足でもその程度の距離だった。
宿の外観は・・・うん、普通だな!これまで見た家屋とは特にこれと言った違いは見受けられない。宿だからだろう、大きめではあるが。
「着いたよ。」
そう言ってこちらを見上げる、よしこういう時はチップか?しかし今の俺は資金難ですからな。
現物支給で許してくれないかな。
飴でもあげるか。不審人物が少女に飴を与えようとする。
事案やね。
しかしココは日本ではない。俺にはやましい気持ちなど無い。
そしてコレは正当な報酬である。対価は払わなくてはいけない。
問題はこの世界で飴が劇薬だったりしないかってのと、どの程度流通しているのか、だけど。
直接聞いてみるか。案ずるより産むが易し。
飴が劇薬だったりしたら俺、この世界で生きていける気がしないし。
周りに人もいないし子供に飴くらい良いだろう。
「レナちゃん飴って知ってる?」
「しらなーい。」
「甘くて、良い匂いがする硬いお菓子なんだけど、知らない?」
「しらなーい」
首をふって答える。よしよしそうか。田舎だから知らないのか、存在しないのかわからんな。
「レナちゃんちょっと待っててね。」
「うん。」
この子メッチャ素直やな~。父親に案内しろって言われたからコッチを信用してるのか、異世界の子供がピュアなのか。
バックパックを降ろし飴の袋を出し、4、5個適当にグワシッと掴んで飴の袋はバックパックに戻す。
その掌をレナちゃんの目の前に広げて言う。
「一個あげるから選んで。」
「うん。」
そう言うと不思議なものを見るような目で少し悩み、戸惑いながら一個掴み取る。グレープ味やね。
俺も一個掴み、残りはズボンの硬貨を入れたのとは別のポッケに突っ込む。
俺のはパイン味やね。
「ちょっと見ててね。」
そう言って包装を切り、包装ごと口に近づけ指でグッと押して飴を口に押し入れる。
そして行儀が悪いが、歯で挟んで唇を開けてレナちゃんに見せてみてから、ほっぺたに押しやる。
「こうやって口の中で溶かしながら舐めるんだよ。」
「うん!」
そう言うと早速実践する。包装をうまく切れないんじゃないかと思ったらそんな事はなかった。
興味津々かつ、怖々と口に飴を放り込む。2,3秒すると目を見開き必死に飴を舐めている。
おお、面白い反応だ。地球の同じ歳のガキなら『ケッ飴かよ』とか『いらなーい』とか、可愛くない返事が返ってくるんだろうな。
「レナちゃん、おいしいかい?」
と、聞くと、元気いっぱいで。
「うん!おいしーい!」
と、大口を開けて叫んだ。叫んだもんだから飴が物凄い勢いでポーンと飛んでいく。あるある。そういう経験俺にもあるわ。
「あああああぁぁぁ・・・」
この世の終わりみたいな顔になって、落ちた飴を凝視してる。
拾うなよ、すまんかった、もう感想聞かないようにするわ。
ポケットに突っ込んだ飴を取り出し。
「レナちゃん、もう一個あげるよ、選んで。落ちたのは汚いから拾っちゃダメだからね。」
そう手を差し出すと表情が一転し、ご機嫌になる。
「うん!ありがとう!」
と言って素早く一個引っ掴み、パパっと包装を切って口に放り込んだ。
今度はアップル味やね。
さっきとは違う味にびっくりしたのか、また驚いた表情をして一心不乱に飴を溶かす作業に入る。
俺は包装を拾って飴を遠くに蹴っておいた。
ゴミと残った飴はポケットに突っ込んでおく。
俺はしゃがみ込みレナちゃんと同じ目線で言う。
「レナちゃん、返事は首を振ってくれれば良いんだけど、それ飲み込むと喉に詰まっちゃうから気をつけてね。」
コクコクと縦に首を振る。この飴は大玉の飴じゃないけど、小さくても飴は結構危ないからな。
「もう舐めたくないって思ったら噛み砕いちゃえばいいから。」
そう言うと『舐めたくない』ってのに反応したのかフルフルと首を横に振る。
何この子かわいいんですけど。とてもあのオヤジから生まれたとは思えない。
「ま、好きに食べたら良いからね、喉にだけ詰まらせないように。」
言いながら頭を撫でると、おとなしく撫でられてる。ウチの子にならないかな、コレ。
そう思ってしまう、危険だ。アカンやつやコレ!
「じゃぁ、お父さんの所まで送っていこっか?」
聞くと頭を横に振り、少し駆け出して振り返り、コッチに手を振ってくる。
微笑ましくて俺も手を振り返す。すると小走りで走って行った。
何あの子、将来絶対男に誤解させまくって不幸を生み出すわ、怖い。
走り去るのを見送る。
そこで俺の天使!とは思わない所が、俺の捻くれた所だった。
ブクマありがとうございます。この場をお借りして感謝を。
作中の展開はとってもスローです。もうしばらくこんな感じで続きます。